表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/158

第五十八話①『衣装』

ここから最終章となります。

最後まで物語をお楽しみいただけますと幸いです!



『魔法少女の服、たまには別の衣装も着てみませんか?』


 休日の朝、魔法協会から通信具に珍しい連絡が入っていた。


 まるで詐欺メールのようなこのメッセージは、紛れもない魔法協会からの連絡だ。通信具に届いているというのが何よりの証拠である。


「新しい衣装か」


 嶺歌(れか)は通信具を閉じるとそのまま天井を見上げる。魔法少女の衣装を変えるのは特段難しいものではない。


 あれは既製品のように時間とお金をかけて人の手によって作られた衣装ではなく、魔法の力で具現化した魔法の衣装なのだ。ゆえに今の嶺歌の衣装も、嶺歌が自分の中で思い描いていた衣装を具現化したものである。


 だからこそ、気分は最高潮に上がるし、魔法少女の姿の自分がとても好きなのだ。


 ただ一つ難点を挙げるとするならば、衣装を具現化する際に対価として魔力を持っていかれる。魔力は時間と共に回復していくものだが、一着衣装を具現化させると一週間分の魔力が消えてしまう。


 つまるところ魔法少女活動が一週間できないというデメリットがあるのだ。


 全く魔力が使えなくなるという訳でもないのだが、慈善活動に役立てそうな魔力は残らない。そのため頻繁に衣装を変える事は嶺歌の中では考えられない話だった。


 ちなみに魔法協会が今回のように衣装の変更を提案してくる理由は、魔力の吸収を得られるからという理由だけである。


 魔法協会は普段から魔力の貯蓄をしているのだ。そのため少しでも魔法少女の魔力を得る目的で、定期的にこのような連絡がきていた。


(昨日は朝晩と活動したし、今週なら大丈夫かな)


 嶺歌は思考を巡らせ、時間の計算をする。たまには衣装を変えてみようか。今の衣装もとても気に入っているが、また元の衣装に戻す事も出来るのだ。


 それに、新しい自分の衣装を形南(あれな)や――兜悟朗(とうごろう)に見てほしいという思いも強く生まれている。


「変えちゃうか」


 嶺歌(れか)はそう呟くと早速通信具を使って魔法協会に申請を送る。


 申請さえ送れば、あとは嶺歌が好きなように衣装を具現化させて終了だ。魔法の力を使用する為衣装チェンジに時間はかからない。


(今回はどういう感じにしよう)


 魔法協会から申請の許可が下りると嶺歌は自身の思い描く衣装を頭の中で想像し始めた。


 嶺歌が大好きなフリルたっぷりの魔法少女らしい衣装は、毎日の活動のモチベーションにも繋がっている。ゆえに中途半端な理想で具現化はしたくない。


(リボンは入れるとしてえーとあとは……)


 自分の中では外せない嶺璃(れり)とのお揃いのリボンは継続して身に付けようと考え、そしてふと大切に保管された兜悟朗(とうごろう)からのブレスレットが目に入る。


(これ、具現化しちゃおうかな)


 全く同じものという訳ではない。ただ、嶺璃とお揃いのリボンを具現化させたように、兜悟朗にもらった大事なブレスレットも具現化させ、活動の際に常に身に付けるというのは可能だ。


 彼に実際にもらった物を身に付けて魔法少女活動を行うのは、物を直ぐに痛めてしまう為考えられない事だった。


(具現化した物ならいつでも修復可能だし、絶対あたしが気分上がる)


 想像している今だけでもう嬉しくて仕方がないのだ。きっと具現化してしまえば毎度の活動もいつも以上に精が出るに違いないだろう。


 しかしそこでまた別の思考が嶺歌の頭に浮かび上がってきていた。


(いや……でも…………)


 それはあくまで兜悟朗にプレゼントされた物を具現化させたいわゆる《《紛い物》》だ。


 彼に貰ったものそのものではなく、嶺歌が一人で勝手に複製したコピーという事になる。


(なんか違うな)


 そう思い至った嶺歌(れか)兜悟朗(とうごろう)から貰ったブレスレットに優しく目を落とし、アクセサリーケースの中に大切にしまう。


 そしてこのアクセサリーを具現化する事は止める事にした。


(大好きな人に貰った物が一つしかないから、貴重なんだよね。英断英断!)


 兜悟朗から貰ったブレスレットを見たい時はその都度現物を見て身に付け、出掛ければいいだけの話だ。活動に精が出るからと、常に身に付ける必要はない。本物を身に付けてこそ、嶺歌の心は踊るのだ。


 そう結論づけ、一人納得した嶺歌はそれから自身の中で完璧な衣装スタイルを思い描き、それを通信具を通して具現化させる。眩い光が嶺歌の部屋を覆い尽くし、次第に自身の体が想像していた衣装で飾られ、彩られていく。


「おっめっちゃ可愛い!!」


 全身鏡に自身の体を映してみると、想像通りの可愛らしい魔法少女姿に変身している自分がいた。


 以前までサイドで施していた髪は今回高い位置のポニーテールへと変更し、嶺璃(れり)とのお揃いのリボンは頭のてっぺんに大きく飾り付けている。


 そうしてパーマがかった毛束の多い髪の毛に小さなリボンとパールを散りばめて新しいヘアスタイルは完成だ。髪の毛の色は以前と同様に茶髪に変色し、気持ちわずかに毛先に萱草色(かんぞういろ)が残っている。


 首元にはリボンのチョーカーを装飾し、大きめの襟にはフリルがたっぷりあしらわれている。


 ウエストで切り替えられたエプロンワンピースのサイドには、大きなリボンを施してあり、短めのワンピースの下に濃いピンク色のプリーツスカートを覗かせるスタイルとなっている。


 靴は、足の先まで見える透明なショートブーツに合わせて左足は非対称のピンヒールだ。


 そうして、右手首には新たに想像した三種類のブレスレットを取り入れ、ネイルも一つ一つ丁寧なデザインを選出している。


「うん、めっちゃいい。やっぱ想像と実物じゃ段違いだな」


 嶺歌は自身の新たな衣装に満足すると早速窓から飛び出し本日の魔法少女活動を始める。いつも以上に気分のいいそれは、嶺歌の活動を促進させていた。


(早く二人に見てほしいな)


 そうして密かに兜悟朗と形南(あれな)の顔を思い浮かべ、そう思うのであった。



next→第五十八話②

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ