第五十二話②『近況』
嶺歌が顔を赤らめながらそう口にすると形南はまあまあと声を張り上げ、興奮した様子で嶺歌の話に耳を傾けてくれていた。
その反応が嬉しく、嶺歌も彼との出来事をそのまま語り続ける。最近休暇を取得してくれる回数が増えた事もあわせて形南に話すと、彼女は嬉しそうに大きく頷いてくれた。
「ふふっそうなのですの! 最近は私が言わずとも兜悟朗の方から休暇を取りたいと申す事が増えたのですのよ」
「えっそうなの!?」
それは初めて聞く情報だ。嶺歌は目を見開き形南を見返す。形南は大きく頷きながら両手を合わせて笑みを零した。
「うふふ……兜悟朗にも心境の変化があったようですのね、私としても喜ばしい事ですの」
そんな言葉を口にして形南はまだ温かいミルクティーを口に含んだ。そうしてもう一度口を開く。
「ねえ嶺歌、兜悟朗の気持ちが分からなくとも、今のお二人はとてもお似合いで素敵ですのよ。私心からそう感じていますの」
そう言ってニコリと天真爛漫な笑みを向けてきた。
嶺歌はその嘘偽りのない言葉に嬉しい感情が芽生え、気持ちが高揚する。ありがとと声を返すと形南は「頑張ってくださいましね!」とガッツポーズを見せてきた。
形南がこのようなポージングを取るのは中々に珍しく新鮮だ。可愛らしい友人の姿に嶺歌は思わず笑みをこぼす。
「そうだ、あたしもあれなに絶対聞いてほしいものがあったんだよね」
嶺歌はそう言って透明ステッキを振るう。瞬間嶺歌の姿は魔法少女になり、呆気に取られてからすぐ嶺歌のその姿に目を輝かせる形南に笑みを向けながら、魔法の力でモニターを具現化した。
そうして過去の記憶を掘り起こし、ある映像をモニターに映し出す。
『和泉さんはただの友達で恋人じゃない。俺が好きなのは別の学校の凄く可愛らしい女の子だから』
『嘘じゃない。俺が好きなのは形南ちゃんっていう同い年の小柄で上品な子で、いつも優しくて笑うと天使みたいにお花が舞ってるようで……とにかく凄く好きなんだ。俺が好きなのはあれちゃんなんだ。だからあの噂はデマだよ』
それは平尾が以前クラスメイトたちに豪語したあの場面だ。
嶺歌はこの日の出来事を形南と平尾が結ばれたら絶対に彼女に見せたいとそう思っていた。
形南はモニターに目を奪われながら口元に手を当て無言になる。感動しているのだろう。彼女の瞳はうるうると揺れ動き、平尾の発言に目を赤くさせていた。
「こちらは……」
「前に噂になった時、平尾が一人でクラス全員に弁明してたんだよ。あたしそれ見てやるじゃんって思ったんだ」
そう言って再生されていたデータを一時停止した。
「ほら、スピーカーまで持っちゃってさ。よっぽどあたしとの仲を勘違いされたくなかったんだね」
そして平尾と二人で噂をどうしようかと相談していた事も形南に打ち明ける。
あの日、嶺歌は噂が収まるのを待って形南には自分から事情を話そうと提案していた事。そしてそれを平尾は拒否した事。全てあった事を形南に包み隠さず話した。
話を聞き終えた形南は目に涙を浮かべ、嬉しそうにハンカチを取り出す。
「正様……そのような事をされていらしたのですね、そちらは本当に初めて知りましたの」
形南は綺麗に涙を溢すと伏せていた目をあげて嶺歌に視線を向ける。
「嶺歌、本当にありがとうございますの。貴女にも感謝で胸がいっぱいですわ」
「何言ってんの! あたしとあれなの仲でしょ?」
嶺歌が満面の笑みを向けると形南も嬉しそうに笑みで応えてくれる。
嶺歌は念の為、形南にこの映像をもう一度見るか尋ねてみる。形南としては平尾の勇敢な姿を一度ならず何度でも見たいのではないかと思ったからだ。
すると形南は目を再び輝かせて大きく頷いた。予想通りの反応を目にした嶺歌は、そのまま形南が望む通りに平尾の姿を何度も再生して見せるのであった。
第五十二話『近況』終
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