第五十二話①『近況』
兜悟朗にもらったブレスレットは帰宅してすぐアクセサリーケースの一番傷がつかなさそうな場所に大事に仕舞っていた。流石にこれを学校につけていく勇気はない。
注目を浴びるからという心配などではなく、傷でもついたらどうしようかと不安だからだ。これはここぞという時につけるのがいいだろう。そう結論づけて嶺歌はブレスレットを終始眺める。
早く寝ようと思っていたのに気が付けば夜中の二時を回っていた。自分は一体何時間こうしてブレスレットを眺めていたのだろうか。
慌てて嶺歌は布団に潜り込むが、興奮しているせいか寝付けそうになかった。潔く寝ることを諦め、嶺歌は兜悟朗の事を考えることにした。
最近の兜悟朗は本当にこれまでの彼とは違う気がする。
性格や態度は変わらずとも、彼の行動が全く違うのだ。
休暇を取らなかったはずの兜悟朗が、最近よく休みを取っては嶺歌に会いにくる事。そして自分の前でだけ僕と呼称する兜悟朗。
今日のブレスレットもそうだ。兜悟朗に何か物をもらうのはこれが初めてである。
以前お詫びの品として食べ物を貰ったことはあったが、あれはお詫びという名目の上に残らない物だ。
それが今回は高級そうなブレスレットである。一体あのブレスレットは何のお詫びなのか。いや、お詫びではない事は嶺歌自身がよく分かっていた。これはきっと…………
「兜悟朗さんからの、好意的なプレゼントって事でいいんだよね……」
嶺歌はそう呟くと起き上がり、机に置かれたアクセサリーケースの所まで足を動かす。
そうして丁重に保管したブレスレットを再び手に取ると、上に持ち上げ見つめた。
(金色……好きなんだよな)
モチーフのリボンと共にゴールドで統一されたそのアクセサリーは嶺歌の好みそのものだった。
前に形南に自分は銀色より金色の方が好きだと言った覚えはあるが、兜悟朗にそれを話した記憶はなかった。
だがそこで兜悟朗も、嶺歌と同じく金色が好きであるのだと形南に言われていた事を思い出す。
(兜悟朗さんと好み似てるのかな。嬉しすぎるんだけど……)
そう考え一人で顔を赤らめた。
眠れない夜はしかし、嶺歌にとって想い人への愛を再確認する良い時間となっていた――。
「嶺歌! お久しぶりですのっ!!」
学園祭まであと数日となったとある休日の日、その日は形南と会う約束をしていた。稽古が控えているため午前中しか会えないと彼女は嘆いていたが十分だ。
嶺歌は久しぶりに対面した状態で形南と話せるこの日を楽しみにしていた。
今日は早朝から兜悟朗の運転するリムジンで形南が迎えにきてくれており、高円寺院家まで招かれている。
嶺歌はいまだに慣れない大規模な屋敷に足を踏み入れると、そのまま形南に手を引かれ、以前にも訪れた部屋で彼女と話に花を咲かせ始めていた。
「ねえ嶺歌っ!! 最近の兜悟朗とのお話、まだまだたくさんあるのでしょうっ!?」
形南はとても楽しそうに目を輝かせながら嶺歌を見つめてそう繰り出す。
まるでもう分かりきっているかのように口にする形南を前にして、嶺歌は思い出し赤面をしてしまっていた。どこから話したら良いものだろうか。
チラリと辺りを見回すがここにいるのは嶺歌と形南の二人だけだ。形南が気を利かせ事前に人払いをしてくれていた。
そのため何を話しても問題はないのだが、それにしても照れくさい事には変わりない。
「これ……貰ったんだけど、あれな聞いてる?」
そう言って嶺歌はまず初めに兜悟朗にプレゼントされた大切なブレスレットを見せた。
形南は驚いた様子でそのブスレットに目を向けてから口元に手を当て始める。
「あら……私初めてお目にするお品ですの。ですがとても可愛らしいですのね! 嶺歌にぴったりですの! こちらを兜悟朗が?」
「うん、そうなの。理由は教えてくれなかったんだけど、お礼でもお詫びでもなさそうでほんとに驚いた……嬉しすぎて夜寝れなかったし」
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