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第五十一話④『生い立ちとサプライズ』



 すると兜悟朗(とうごろう)は穏やかな微笑みで嶺歌(れか)を見てそう口にした。


 もうそんなに時間が経ってしまったのかと、嶺歌は驚いて店内の時計を見る。視界に入った時刻は九時を回っていた。


 嶺歌の家には門限などの決まりはないが、明日も文化祭の準備が控えているため早く帰るに越した事はないだろう。


 だがせっかく兜悟朗と会えた時間をもっとゆっくり過ごしたいという矛盾した感情が嶺歌の心で芽生えているのも事実だ。


「そうですね、今日もありがとうございました」


 しかし現実的に考えて今日は帰るべきであろう。


 嶺歌は兜悟朗にそう言葉を返すとそのまま席を立とうと足に力を入れる。その時、兜悟朗がテーブルの上に小さな箱を置き始めた。


(……え?)


「嶺歌さん、最後にこちらを」


 そう言って兜悟朗が嶺歌に渡してきた物は、エンジ色の小箱に白色のリボンがあしらわれた上品なボックスだ。これはプレゼントという以外に説明がつきそうにない。


 嶺歌は動揺しそうな瞳を僅かに揺らしながら「えっとこれは……」と声を出す。予想もしなかった兜悟朗からのプレゼント、という期待をしてしまってもいいのだろうか。


「僕からのささやかなプレゼントで御座います。お気に召して頂けると嬉しいのですが」


 そう言って兜悟朗(とうごろう)は嶺歌に微笑む。


 こんなに幸せなことが起こってもいいのだろうかと、いつもの嶺歌(れか)なら思わないような事を心中に巡らせながら「開けてもいい…ですか?」と声を発した。


 その問い掛けに兜悟朗はすぐ頷きながら勿論ですと丁重に肯定してくれる。


 嶺歌は震えそうな手で胸を弾ませながらそっと白いリボンを解いていった。


 一体何を渡されるのだろう。そう思いながら緊張している自分に気が付く。


 手の平に収まりそうなその小さな箱は嶺歌の手によってゆっくり開封されると、そこには金のリボンがはめ込まれた綺麗なブレスレットが入っていた。


 小ぶりのリボンは大人でも難なく使いこなせそうな程に上品なデザインとなっており、むしろ今の嶺歌には大人っぽすぎるのではないかと思ってしまうような、それほどまでに美しいデザインだ。


 決して安くはなさそうなこのプレゼントを目にして嶺歌は兜悟朗を見る。


「兜悟朗さん、これは……」


 兜悟朗からのプレゼントという事で喉から手が出るほど欲しいのだが、流石にこのような高級品を何の理由もなくいただく訳にはいかないだろう。


 嶺歌はそんな思いから彼に口を開きかける。


 しかし兜悟朗は笑みを向けながら嶺歌にこう言ったのだ。


「貴女のお気持ちは恐れながらお察ししております。ですがどうか受け取っていただけないでしょうか」


 そう言って彼は箱の中で輝く一つのブレスレットを丁重に扱うように触れてから、それを持ち上げ嶺歌の手首をそっと掴む。


「……っ」


「失礼致します」


 兜悟朗(とうごろう)はそう言って嶺歌(れか)の手首にそのブレスレットを飾りつける。彼の手の温かみとブレスレットが僅かに手首に擦れる摩擦がくすぐったく、嶺歌の気持ちは一層鼓動を速めていく。


 口では否定しながらも拒む事など出来なかった。他でもない嶺歌自身が、喜んでしまっているからだ。


(嬉しい……どうしよう、何で兜悟朗さん…)


 様々な感情が行き交う中、嶺歌は手首に巻き付かれた美しいブレスレットに目を落とす。


 キラキラと輝くそのブレスレットは世界中のどんな物よりも綺麗で眩しくて、嶺歌の胸をときめかせた。


 小ぶりにあしらわれているリボンは嶺歌が大好きな可愛くて女の子らしい象徴そのものだ。


 魔法少女の姿にリボンをふんだんに盛り込んでいるのも嶺歌の趣味だった。兜悟朗は嶺歌がリボンを好いていることを知ってくれているのだろうか。


「とてもお似合いで御座います。僭越ながら、貴女様がお好きそうなデザインだと考えておりました」


 そう言って兜悟朗は嶺歌に微笑む。もうこれでは完全にこのブレスレットを返却する事はできないだろう。


 兜悟朗は心から嬉しそうな表情で嶺歌を見る。彼が何故唐突にこのような高価なものを渡してくれたのか、理由は結局分からなかった。


 嶺歌はただ溢れ出そうな思いを必死に仕舞い込みながら彼に「ありがとうございます。大切にします」と声が震えないように意識してお礼を告げていた。



第五十一話『生い立ちとサプライズ』終


            next→第五十二話

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