第四十八話①『本音』
兜悟朗との放課後デートはとても充実した一日となり、映画の後も穏やかな彼と終始和やかな雰囲気で会話をする事が出来ていた。
そして帰り際に、兜悟朗はまた嬉しい言葉を述べてくれていた。
『本日はとても楽しく過ごさせて頂きました。どうかまた、お付き合い頂けますと嬉しい限りです』
そう言って綺麗な一礼を見せた彼は、最後の最後まで嶺歌の鼓動を加速させていた。
(さいっっこうだった………)
昨日の余韻に浸りながら嶺歌は朝を迎える。そして日課である魔法少女活動をする為布団から出てすぐに変身を始めた。
「おねえちゃん起きてる?」
すると途端に自室の扉がノックされる。
嶺歌はその嶺璃の声に反応して瞬時に変身を解いた。この時間に嶺璃が起きているのは珍しい。
「起きてるよ、入っていいよ」
嶺歌がそう言うと嶺璃はガチャリと扉を開ける。
こちらが合図するまで勝手に入ってこない嶺璃は我が妹ながらによくできた子だ。
嶺歌はおはようと笑みを向けると嶺璃も満面の笑みを向けて「おはようっれかちゃん!」と声を発した。
それから嶺璃は嶺歌が座っているベッドの方まで歩いてくるとそのまま隣にちょこんと座る。嶺歌がどうしたのか尋ねると嶺璃はあのねと言って話を切り出してきた。
「昨日聞いちゃったの。お母さんとお父さん、れかちゃんの恩人さんを晩御飯に招待するって」
「えっ!?」
その話に嶺歌は心底驚いた。
海で溺れた嶺歌を兜悟朗が助けてくれたという一件で、家族が何かお礼を考えている事は知っていたが、まさかそれが夕食への招待だとは思いもしなかった。いや、嶺歌としてはかなり嬉しい事なのだが、本当にそれをお礼にするのだろうか。
「それ決定してるの? 候補とかじゃない?」
嶺歌がそう嶺璃に尋ねると、妹はううんと首を左右に振って嶺歌の言葉を否定してくる。
「昨日眠れなくて、リビングいこうとしたらずっと話し合ってて、結論出してたよ。嶺璃最後まで盗み聞きしてたから」
「…………」
妹の盗み聞きという単語に思うところはあったが今はそれどころではない。
兜悟朗を夕飯に招待するのは決定事項のようだ。恐らく今日母から話を聞かされるのだろう。
嶺歌は様々な思いを浮かび上がらせながらも、頭の中で兜悟朗が嶺歌の家の食卓についている姿を想像していた。
(うわ……めちゃいい…………)
重症だと思いながらも喜んでいる自分がいる。
嶺歌は妹の頭を撫でながら教えてくれてありがとと声を発すると、彼女は嬉しそうにうん! と言いながら軽やかな足取りで部屋を出ていく。
そんな妹の背中を見つめながら嶺歌はまるで奇跡のように自宅に招かれる兜悟朗の事を何度も頭の中で考え、想定通り朝食時に母からその話を切り出されると心の中で激しくガッツポーズをするのであった。
兜悟朗への夕食の招待は九月の下旬となった。
兜悟朗と両親の日程が中々合わず、日曜日の夜に決まったのだ。
彼に嶺歌が話を持ちかけると兜悟朗は二つ返事で是非お願い致しますと了承してくれていた。
連絡の手段は電話ではなく今回レインで送っていたため、彼の表情こそ見れなかったが、直ぐに返事がきていた事から嶺歌は嬉しさが込み上げていた。
そして形南にもその事はすでに伝えており、彼女もとても嬉しそうに声を弾ませて「兜悟朗を宜しくですの!」と前向きな言葉を掛けてくれていた。
『嶺歌! 急で申し訳ないのだけれど、本日の放課後は空いていまして? 急遽お稽古が延期になりましたの』
ある日の早朝、形南からレインが来たのを確認しながら嶺歌は歯磨きをしていた。
そして直ぐに形南に遊ぼうと返事を返す。彼女とこうして放課後に遊びに出かけるのはなんだか久しぶりだ。
嶺歌は気分を高まらせながら支度を済ませるとそのまま学校へと向かっていった。
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