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赤青鉛筆  作者: 海堂莉子
48/104

第48話

性的な描写を含みます。


「いいお母さんだね。楽しかった」

「ありがとう。色々聞かれて、知りたくもない事まで聞かされて正直ウザかったでしょ?」

 二人並んで帰路を歩いていた。

「紅のことなら何を聞いても嬉しいよ。ああ、今日は幸せだな。まさか、これ夢じゃないよね? 紅が俺のこと好きって、嘘じゃないよね?」 

 私は青の手を取り、青の顔を覗き込んでこう言った。

「夢でも嘘でもない。青が……好きだよ」

 自分で言っておいて何でこんなに恥かしいんだろう。青の瞳を見ていられずに俯いた。

「そんな可愛いこと言われたら、色々と我慢出来なくなるんですけど……。もしかして煽ってる?」

「えっ? 色々? 煽って?」

「解らない? 今日は紅を放せそうもないってこと」

 思わず顔をあげると、真剣な眼差しでそう言われ、頷いてしまっている自分がいた。

 あの瞳に抗うことは万に一つも出来ない。それは、もう既に解っていること。それに、私も今日は青の傍を離れたくはない。それが何を意味するかが解らないほど鈍感ではない。

「紅。俺、無理強いはしないから。イヤならイヤだって言っていいよ。紅を傷つけたくないんだ」

 ぎゅっと苦しいほどきつく抱き締められ、青が優しく耳元で囁く。

 私は頭を横に振った。

 イヤだなんて1ミリも思っていない。そりゃ、初めてだから緊張はするよ。だけど、怖くはないんだ。青となら何も怖いなんて思わない。

「俺ん家に来る? それとも紅の家の方がいいかな?」

「青の家がいい。あの部屋凄く落ち着く」

 青の家には、青の匂いが染みついていて、私を落ち着かせてくれる。青の部屋に入ると、直接抱き締められているわけでもないのに、青に抱き締められているような、そんな感覚に襲われる。

 青の顔を見上げるその先には、いつもよりちょっと多い星が輝いて見えた。

「凄いっ。今日は星が凄く奇麗だよっ」

 私の言葉に青も空を見上げる。

 沈黙の中、二人は星を見ていた。その沈黙は、とても居心地の良い類のものだった。

 くしゅっ。

「紅、寒い? もう帰ろうか。風邪引いたら大変だよ」

 自分が巻いていたマフラーをふわりと私の首に巻いて微笑む。

「ありがとう。でも、青が寒くない?」

「ううん。なんか全然寒くないんだ。心がぽかぽかに温かいからかな」

 そう言って微笑んだ。

 二人は月夜を手を繋いでゆっくりと歩いて行った。


 今朝と同じ青の部屋だというのに、今朝とはまるで違う心情。朝には、不安と悲しみと苦しみ、そして、小さな意気込みだけがあった。

 半日で世界がこんなにも反転してしまうなんて、信じられない。

「紅」

 手を差し出され、私はその手に応えた。引き寄せられて、そのまま青の胸の中に飛び込んでいた。

「怖くない?」

「怖くはないよ。だけど、ドキドキし過ぎて心臓がもたないかも」

「俺も……」

「青も?」

 青の胸に耳をつけて鼓動に耳を傾ける。

 ドクンっドクンっドクンっ……。

 私の鼓動と重なり合って、まるで陽気なリズムを奏でているようだ。

「本当だ。一緒だねっ」

 私は青の首に腕を回し、唇を重ねた。

 怖くはない。いや、怖い。好きと自覚した途端にどんどん好きが溢れてくる。

 止まらない好き。溢れ出す好き。苦しすぎる好き。

 好きが私の心を圧迫しているのかもしれない。……好きすぎて怖い。何処までも大きくなろうとする好きという気持ちが、いつか私を押しつぶしてしまいそうで怖い。

 こんな気持ち、初めて。止めたくても、もう止まることの出来ない想い。青を想うだけで、涙が込み上げて来てしまいそうになる。

「好き……。青……好き。大好き……」

 何度言っても言い足りない。好きだけじゃ伝わらない。

 そんな気がしてじれったくて仕方ない。私の心の中、青に見せられたらいいのに。

「俺も、好きだよ。好きすぎて怖いくらいだ。どんなに言ってもうまく伝わってない気がして悔しい」

「今……、私も同じこと思ってたよ。私もね、青のこと好きすぎて怖い。もう、離れて行こうとしない? もう、私から離れて行こうなんてしないでっ」

 あんな想いは二度とごめんだ。笑顔のない青なんてもう見たくない。

「約束するよ。俺は、ずっと紅の傍にいる。紅こそいいの? 俺、独占欲強いよ。途中で逃げ出したくならない?」

「ならないよ。逃げ出したくなんかならない。青に傍にいて欲しい」

 クスリと笑みがこぼれた。

 青がヤキモチ妬きなことくらいもう知ってる。独占欲が強いことくらい知ってる。逃げ出したいなんて思うわけない。思うわけないよ。

 青の手が私の頬を撫でた。傷つけないように宝物を愛でるように。

 それから唇を塞ぐ。啄むように何度も何度も……。

 全身が心臓になってしまったように大きく脈打っているのを感じる。

 何も考えられない。ううん、何も考えなくてもいいんだ。青だけを感じていればいい。

 青が笑顔が失う前に触れられた時とは明らかに違う。好きな人に触れられていると感じるだけで、体中が溶けてしまいそうになる。自分の体が自分の身体とは到底思えない不思議な感覚。青の指が体に馴染んで、一体化してしまっているようだ。

 青の愛撫は、波のように私の体を時に激しく、時に優しく、行き来していた。

「やっ、なんか変になりそう……」

「紅。変になって。紅の全てを俺に見せて」

「恥かしい……よ」

「恥かしくない。ここには、俺と紅しかいないんだから」

 青の頭が下へ下へと下がって行く。

「あっ」

 ギュッと目を瞑り思わず声を漏らす。

 体が意志とは関係なく痺れたように従順に反応する。

「可愛い。紅、凄く可愛いよ」

 青の低い声を聞いただけで体が火照って来る。

「紅。俺、もう我慢出来ないみたい。ごめん、無理させちゃうかも」

 青の体と重なり合い密着度が増していく。汗ばんだ体がさらにそれを深めていく。

「あぁっ、イっっ……」

 鋭い痛みに悲鳴を上げた。

「大丈夫? 今日は止めようか?」

 無理させちゃうかもと言っておきながら、結局こんな風に私を気遣う。

「ううん。大丈夫、平気」

「無理しなくていいんだよ?」

「無理なんてしてない。本当はちょっと痛いけど……。でも、青だけじゃないんだよ。私も、青が欲しい……」

 私も今、青が堪らなく欲しい。

 青が私に抱いてくれていた気持ちが、今、漸く理解出来た。でも、本当の所は解り得ないのだろう。

 人それぞれ感じ方も違えば、考え方も表現の仕方も、愛し方も違う。例え同じセリフだったとしても、その中に潜んでいる気持ちまで同じだとは限らないのだ。でも、信じたい。

 今この時、二人が同じ気持でいると……。

「あのねぇ。そんな可愛いこと言われたら、理性が効かなくなるって。解ってて言ってるの?」

「そんなこと言ったって、結局青は私を気遣ってくれるの知ってるよ」

 青は優しいから、絶対に私を傷つけたりしない。それを知っているから私は、全てを、私の全てを捧げることが出来るんだよ。

 青だけに、私の全てを……。

「紅。愛してる」

 そして二人は……。


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