表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

エカキ

作者: 厳島宗太郎

老婆が腸を描きたいと言い出して……

   エカキ

         山中千


 勘太郎は、幸せの家庭を築いていた。

 美樹に言った

「君のことを必ず幸せにするから」

という言葉は真であった。はずだった……。

 あの日のことを今のように思い出す。自分には似合わないほどの綺羅びやかな高層ビルの屋上で、ダイアモンドの指輪を渡した。心臓音のドク、ドクがまるでBGMの如く、彼の全身を包んでいた。

「嬉しい、分かってたはずだけど、とても嬉しい」

と美樹の目には、幸せの雫が溜まっていた。

 ツルリ、と溢れる落ちる涙に高層ビルからの景色が反射した。

 これ以上、美しいものはない。勘太郎はそう考えていた。


 勘太郎と美樹は、高校時代の同級生。その頃は、まさか結婚するだなんて考えは、塵のごとく見えなかった。

 美樹は、高嶺の華であった。クラスのマドンナ。

 当時イケてるグループに属して居なかった勘太郎が手の届くはずのない女神であった……。


 そんな二人が再会したのは、同窓会だった。

 勘太郎は、独身ましてや彼女すらいない状態だった。

 まさか、あのマドンナ美樹も居ないとは……。

 彼女を奥さんにしよう、と勘太郎は狙うことにしたのだ。



 二人の子宝に恵まれた。

 翼と恵。

 妻の美樹に似て、綺麗な顔だった。

 翼は小学校3年生。最近、地域のサッカー少年団に所属した。

 彼はヤンチャ坊主な性格で、スポーツ向きではないか?と思っていた。

 練習ですら負けるとなくほどの負けず嫌いだった。

 恵は正反対に大人しい性格だった。

 よく周囲を把握していて、気遣い上手の女性になると思った。いつも美樹の隣に立って、料理の手伝いをしようとするのだ。二人のエプロン姿が、何よりも微笑ましいと勘太郎は思っていた。


 

 同窓会で連絡先を交換にこぎ着けた勘太郎は、何度も何度も美樹に告白し、根負けした美樹が

「じゃあ、お金持ちになってよ」

「勿論だ」

 それまで働いていた会社を辞め、自営業をした。それまで営業で培ったコミュニケーション力が活き、勘太郎の会社は飛ぶ鳥を落とす勢いだった。


 そして、はれて結婚することになったのだ。



 ぴんぽーん。ぴんぽーん。


 時刻は二十三時丁度。

 何もかも不気味だった……。

「はい、徳富ですけど」

そこには、一人の老婆がいた。

「あのう、私は画家です」

そうぽつり、と言葉をダンゴムシのように千切れて発した。

「はあ……」

「絵を書かせてもらえないですかね?」

「今は夜遅くなので、遠慮しておきます」

「あの腸を書きたいんです、腸を!」


はあ?ブツリと切った。気色悪かった。


 次の日。

 朝刊を取りに行った。

 そこには、翼と恵の絵があった。

 腹は掻っ切られ、腸が引き摺り出されている。

 なんだ?

 顔は間違えなく、愛する子どもたちだった。


 キャアアアア。

 美樹の叫び声が聞こえる。

「どうしたああ」

駆け寄ると、

「あなた、あなた」

と美樹は怯え、衰弱していた。

 指差した先を見ると、絵と全くもって同じ光景が広がっていた。

 う、うう、と美樹を抱きしめることすら出来なかった……。


 その日から、というもの美樹は日に日に痩せていった。

 食事も、食欲がないと、食べないようになった。

 夜も眠れないそうで、目のクマが墨汁のように黒く塗りつぶされていた。

 心配になった勘太郎は、美樹を心療内科に連れていった。

「何があったんですか?」

と尋ねる主治医に、美樹は、何も答えず泣きじゃくるばかりであった。

 

 診断が下った。鬱病だと診断された。

 日に日に弱々しくなる美樹はまるで、冬の草木のように萎れていた。


 会社から帰るとあの忌々しい絵描きが、家の前で絵を書いていた。

 ぶん殴ろう、と思った。

 が、そこには美樹が首を吊っている絵が書かれていた……。

 勘太郎は狂ったように、家に入り寝室へ入ると……。

 美樹が、首を吊って自殺していた。

 勘太郎は、泣き叫びながら、キッチンへ行き包丁を手に取った。

 

 絵描きの老婆を殺した。

 足元にもう二枚の絵があった。

 一枚は老婆自体の死体と、勘太郎の死刑の絵であった……。


得意分野です!中々自信あります

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ