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テストはこれまでで一番手ごたえがあった。
アーロン様の勘は7割ほど当たっていたし、私達が入学する前の過去問と同じ問題も出たのでラッキーである。
というか、テストも生徒会に入っている高位貴族のボンボンが有利ってマジでどーゆーこと? 結局は金の力ってこと?
「そんなに元気そうだったら仮病だってすぐバレるぞ」
「う……お腹痛い……」
「不安しかない」
「大丈夫ですよ。ネメック侯爵令嬢が調子悪そうに見えるメイクをしてくれたんで」
ボンボン王子やニヤニヤしたアーロン様、さっきまでノリノリでメイクをしていたが今は心配そうなネメック侯爵令嬢、そしていつもと変わらない眼鏡令息に見送られて生徒会室を出る。
ってかユージーン様はいらなくない?
一人でフラフラしながら保健室入った方がいいと思うんだけど。
残念ながら、調子の悪い令嬢を一人で保健室に行かせるなど紳士ではないらしい。
「失礼します。彼女の調子が悪くなってしまったようで」
「あら、まだ学園にいるということは生徒会の方かしら? テストを頑張り過ぎちゃったのかしらね」
ほほぅ、これがマクドネア先生か。って逆光でよく見えない。
でも優しそうな声の人だ。この人が不倫ねぇ、人は見かけだけじゃ分からないものねぇ。
「じゃああなたはちょっとこっちへ。殿方はこちらで待っていてね」
おおう、やっと逆光じゃなくなったよ。確かにめっちゃ美人な先生だ。
「熱はあるかしら?」
「あの……今日は二日目で……お腹が痛くて……」
女性同士ならこれで通じる。
「それはキツイわね。いつも飲んでいるお薬はあるかしら?」
「今日は飲むのが遅かったのか……効きが悪くて……」
うち貧乏なんで薬なんて飲めません。でも、正直に言って市販薬渡されて効きすぎて寝ちゃうのも困るしね。それにそもそもお腹痛くないし。
「テストだったものね。寝て様子を見ましょうか」
「はい……ベッドをお借りできれば」
「ここを使ってね。テスト勉強で寝不足だったのもあるかもしれないわね。温かい飲み物を持ってくるわ」
「ありがとうございます……」
はぁ、全然お腹痛くないのにお腹痛い演技は辛い。
しかし、アップルパイとチーズケーキがかかっている。
ベッドごとに仕切るカーテンをマクドネア先生が閉めて出て行く。
ユージーン様に何か説明しながら湯を沸かす音が聞こえる。
あ、ここポカポカしててよく眠れそう。寝ちゃだめだけどこういう状況ってなぜか寝ちゃうのよね。
「あら、血がでているわよ?」
「あぁ、書類で切ったのでしょう」
「一応処置をしておきましょう。指先の傷って自覚するとずっと痛くて気になるもの」
カーテンの向こうで先生とユージーン様が話している。
あ、やばい。これいつまで寝てればいいかしら。ボンボン王子と打ち合わせ忘れてた~。一時間くらいで「ありがとうございます、もう動けそうです」って帰って良いかな。でも一時間プラスαじゃあアップルパイしかもらえないかな。
やっぱりチーズケーキも要求したなら二時間かな。
ガラリと扉が開く音がする。誰だろう、テストが終わった解放感で生徒はほとんど帰っているし、キンバリー先生かな?
「あらまだ学校にいたのね? テストお疲れ様。体調はどう?」
先生の反応だと保健室の常連かな。
なかなか返事がない。小声過ぎて聞こえないのかな?
「先生……キンバリーの次はそいつと浮気ですか?」
「え……?」
私も心の中で思わず「え?」だわ。今のって男性の声よね。しかもキンバリー先生じゃないし。
「俺がいながら次から次に……あなたって人は!」
えぇぇぇぇ!? なんか修羅場!? 修羅場よね?
カーテンの向こうでガチャンと音がする。
慌ててカーテンをめくって見ると……ユージーン様が男子生徒を取り押さえていた。マクドネア先生は真っ青な顔をして震えている。
あ、この子。けっこう裕福な商家のご子息よね。同じクラスなのよ。
その後、どこにいたのかアーロン様や眼鏡令息がやってきて男子生徒は回収された。
マクドネア先生によると、何者かのストーカー行為に悩まされており、キンバリー先生はマクドネア先生の様子がおかしいのに気が付いて相談を受けていただけの関係の様だ。
ストーカー行為をしていたのはマクドネア先生に想いを寄せるあの男子生徒、ニケ商会のご子息である。
彼が保健室に来た時にユージーン様が指先の怪我の処置を受けていて、マクドネア先生に手を握られているように見えたので激昂したようだ。
ご子息は二週間の謹慎処分になった。
「結局、不倫ってガセだったんすね~」
「キンバリー先生がマクドネア先生とよく話をしている様子に嫉妬して、あの男子生徒が意見書を入れたようだ。嫉妬というのは恐ろしいな」
「ユージーン様の推測が合ってたんですね」
「これにてこの件は終わりだな」
この事件はこれで終わらなかった。
実は、マクドネア先生はあのニケ商会のご子息と付き合うまではいかないまでもちょっかいをかけており、さらにキンバリー先生とも不倫をしていたのだ。時間軸としてはキンバリー先生との不倫が後だ。
商会のご子息とは保健室でよく話し、学園外でも密かに会っていて、子息はどんどん先生にのめり込んだ。しかし、だんだん学園外では会ってもらえなくなり、先生の態度が冷たくなってきたことで思い悩み、ストーカー行為に走ったのだ。
そして、キンバリー先生の奥様が学園にやってきて保健室にて「この泥棒猫!」みたいな乱闘が起きる事態になる。
ちなみにキンバリー先生の奥様を学園内に入れたのはキンバリー先生を密かに慕っていた女子生徒の手引きであった。教師の身内よりも生徒の身内の方が学園に入りやすいのだ。女子生徒の母と偽り、奥様は学園に難なく入った。劇物などを持っていなかったのは不幸中の幸いだ。
その女子生徒はマクドネア先生とキンバリー先生の関係に気付き、奥様に密告までしている。年頃の少女らしく、不倫を知った女子生徒は「汚い」とばかりにキンバリー先生を見限ったのだ。そしてマクドネア先生を恨んだので、キンバリー先生の奥様を手引きするに至った。
王子の推測もあながち間違いではなかった。
この事件により、学園の警備体制は一新されて寮での面会もこれまで以上に厳しく制限されることになる。もちろん、マクドネア先生もキンバリー先生も解雇された。キンバリー先生は離婚もしている。
生徒会の皆が真相を知って言葉を失う中、アーロン様の明るい声が響く。
「女ってこえぇな!」
いえ、私は人間が怖いです。




