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「ええと、何を一筆書けばいいのかな?」
「『ウィロウ・バートラムがどんな発言をしても不敬に問わない』という一筆です」
「いや、問う気はないのだが……そんなに酷い発言をするつもりなのか?」
「どう受け取るかは人によります。書いていただけなければ不安なので建前だけを語ります」
このボンボン王子がおちゃらけてさっきの質問をしたわけではないのが分かっているし、勉強を教えてもらっている恩もある。変な令嬢に絡まれるという副産物はあるが、しっかり答えるのが礼儀ではあると思っている。
だが、信頼関係が築けているかといわれるとまぁビミョーなので一筆書いてという話だ。
私だけ熱くなって語ってたら恥ずかしいし。
「分かった。君の本音は気になるしな」
ボンボン王子はさらさらと一筆くれた。ユージーン様やアーロン様達は王子の後ろでこちらをチラチラ見ながら手を止めている。いや、さっきまでフツーに仕事か読書してたよね? 耳ダンボですか?
「ありがとうございます」
王子の一筆をうやうやしく受け取る。これ、取っておいたらいろいろ使えるかな? あ、残念。しっかり日付と「本日」と書かれている。
「王妃にふさわしいとおっしゃいましたが、そもそも第一王子殿下も含めて殿下達は王太子、つまり将来の国王にふさわしいのでしょうか?」
私の率直な発言にボンボン王子は一瞬、面食らった顔をした。珍しい。
ヒュウとアーロン様は口笛を吹く。この人、いろんなことを茶化すし面白がるよね。
ユージーン様と眼鏡令息は気まずそうに目を逸らす。
「どういう意味だ?」
さすが王子である。立ち直りが早い。
「いえ、婚約者となるご令嬢に王妃らしさを要求されるのですから、殿下方はよほど国王らしさに自信があるのかと思ったのです。まぁ、これは『女だけにたくさん求めているわけじゃないんだろうな?』という確認ですね」
「あぁ、そういうことか。そう言われた方が分かりやすいな。その調子で言われた方が助かる」
いやぁ、貴族社会は本音に建前を包みまくってナンボですよ。というかほぼ建前とおべっかですよ。ピンク頭じゃないんですから。
「はっきり言いますと、第一王子殿下の婚約者にアンネット様が選ばれたのは、第一王子殿下に語学の才能などがなかったからでしょう?」
「一筆があるんだからはっきり言ってくれて構わないぞ?」
「いえ私も苦手な教科はあるので人のことが言えないだけなのですが……我が国では基本的に第一王子が国王になると決まっていて、その第一王子がいろいろと社交面や政治面などで足りないことが分かり切っているから、補うために優秀なアンネット様が婚約者に据えられたわけじゃないですか」
病弱などではない限り、基本第一王子が王太子なんだよね。
確か第一王子の婚約者は子供の頃に決まっていた。その頃から「こいつ、いろいろ足りなくてまずいな」と思われていたのだろう。別にそれならば婚約者や側近を優秀な者で固めればいいだけの話だ。
今回は第一王子本人が派手に無駄にしたが。
「その通りだな」
王子は神妙に頷く。おーい、後ろの方たち、さっきから手が止まってますよ。本をめくる手や書類を整理する手が止まってますよ。私、そんな重要なこと言ってないですから!
「もし第一王子殿下が優秀だったり、人を使うのがうまかったりしていたら……あのピンク頭は論外ですが、平凡なご令嬢が婚約者でも良かったと思うんですよ。許容できるレベルのマナーや家柄なんかの問題はありますが」
ピンク頭が努力している令嬢だったなら。成績上位とか他の付加価値があったのなら。第一王子がもう少し優秀であったなら。もしかしたら違う未来もあったかもしれない。
「ほぉ。つまり俺の努力次第で婚約者は決められるのではないかということか?」
「そうですね。幅が広がるのではないか、と思っています。極端な例ですが、他国では賢王が平民を妃に迎えた例もあります。殿下に足りない部分が多ければ選択肢は狭まり……逆も然りです。何の成果もなしにワガママは通りませんが、ある程度の成果があればいいのではないでしょうか。もちろん、アンネット様が王妃になるのがお金の無駄は少ないですが、王妃教育にいくらかかるか私は知らないので言えることですね」
城が建つくらい、なんて言われたらアンネット様一択だな、うん。
「俺次第か。令嬢の家柄や成績しか見ていなかったな」
「普通はそうでしょう。後ろ盾は強い方がいいですし、お金がある方がいいですから。ただ、仮面夫婦になったり、仲が極端に悪くなったり、側室たくさん迎えたりする事態に陥るくらいならちょっとでも好意のある相手が良いんじゃないかなと。余計なお金がかかりますから」
側室たくさんいるとお金かかるしね……。仮面夫婦になってお買い物依存になったり、愛人作ったり、お酒に逃げたりするとまたお金かかるしね。夫婦が不和だと余計な金がかかるのですよ……、私結婚したことないけど。
「面白い意見だった。ありがとう。どんなご令嬢が王妃にふさわしいか聞いたら皆、アンネット嬢だと言うからな」
「あの方は同年代でも頭一つ抜き出ていらっしゃいますからそれはそうでしょう。殿下はどなたか好意を持つ方はいらっしゃらないのですか?」
せっかく第一王子のやらかしで希望を聞いてもらえるのだ。一応の希望でも、言ってみたらいいんじゃないだろうか?
「ん~、恋とか愛とかよく分からなくてな」
王子は曖昧に笑う。
なるほど、この反応は好きな人がいるな。
……こいつ、人の意見聞いといて最後の最後でごまかしやがった。
あ、また口が悪くなってしまった。