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いつもお読みいただきありがとうございます!

次回更新は来週の予定。

「私、見学なのですが……意見を述べるのもおこがましいでしょう?」


焼き菓子を片手に困った顔を作ってみる。


「過去問は生徒会室から持ち出し禁止なのだが、素晴らしい意見を言ってくれたら特別に模写を許そう」


くそぅ、このボンボン王子。的確に人の弱点を突いてくるな。効率的に勉強したいし……。


「では、僭越ながら」


仕方なく、本当に仕方なく私は口を開いた。


「身分など気にしなくていい。身分を気にしていたら意見などでないからな!」


「そもそもウワサなどいくらでも捏造できるものです。わざと人に吹聴させれば間違ったウワサでも広がります」


「ほぉ?」


「私は授業後、基本的に図書室にいます。ジェンキンス伯爵家の義妹と姉の婚約者であるはずの令息は偶に図書室で目撃します。おそらく、隠れて逢引きしているのでしょう。別に勉強の邪魔にならないのでそれ以上の注目をしていなかったのですが。ただ、私が目撃する義妹はブレスレットやネックレスや指輪など、見る度に違う装飾品をしていました。しかも髪は使用人がやったと思われるほど綺麗に編まれています。対して姉の方はいつも簡単な三つ編みで装飾品は身に着けていません。三つ編みなら自分でもできるでしょう。義妹は本当にいじめられているのでしょうか?」


「なるほど、前提が間違っていると言うのだな」


「そもそも家の恥とも言えることがこれほどウワサになっているのもおかしいでしょう。周囲の令嬢令息たちも本気にしている方がいるなら、頭に何か詰まっていると言わざるを得ません。わざと煽って姉の婚約者の失墜を狙い、あわよくば伯爵家の婿としておさまりたい、あるいは姉の方を娶りたいと考えている家が関わっているなら分かりますが」


「義妹が伯爵家を継いだらお察しっすもんね!」


「義妹の成績は下の上だな」


アーロンとユージーンの二人がここで口を挟む。


「君ならこの問題をどうする?」


ボンボン王子は面白そうに聞いてくる。


「別に静観で良いのではないかと。伯爵家の問題ですし、被害届も何も出されていないのにどうしようもないですよね。高位貴族が婚約者以外の他家が介入すると問題がややこしくなります。被害届が出されるか、他家を巻き込む時点までは放置でしょう。王家としてジェンキンス伯爵家がよほど大事なら介入したらいいのでは?」


「それもそうだな」


「義妹が調子に乗っているのはピンク頭の件があったからかもしれませんが、義妹よりうまく立ち回っていたピンク頭が失敗しているのに、なかなか頑張りますねぇ」


「兄のことを言われると痛いな……ただ、確かに今のところは退学規定にも抵触していないし、生徒会としてできることはないな!」


「ではボツですね」


眼鏡の令息が紙をさっさと破いた。



ウィロウ・バートラムが焼き菓子を食べ終え、過去問を今日一番のキラキラした目で見て帰った後の生徒会室。彼女は見たら覚えられる分量だと言って、模写はせずメモを少し取っただけだった。


「どうですか、殿下。彼女は?」


「意見をはっきり言いすぎる傾向があるが、いい人材だ! しっかり人間観察をしており、ウワサに惑わされることもない。ぜひ生徒会に入ってもらおう」


「菓子に過去問に就職先に……けっこう手札出したっすね! ん? まさかあの要望書、彼女の反応を見るための捏造っすか?」


「いや、あの要望書は本当に入っていた。彼女の意見を聞くために今日はわざとあれにしたんだ。というか、他の要望書や意見書に特筆すべき点がなかったんだが」


ユージーンは要望書を前に呆れ気味だ。


「どうだ、女性の目から見て彼女は?」


眼鏡の令息から今日の議事録を渡されて、目を通していたジャスミン・ネメック侯爵令嬢に王子は声をかける。


「女性の役員が増えるのはいいことです。それに高位貴族ばかりで固めると反感も買うでしょう。その点、彼女なら大丈夫かと思います。強そうですし」


「俺だけ子爵家ですからね……よく生徒会にはどうやって入れるのかとか口利きしろって言われます」


ネメック侯爵令嬢はおっとり発言し、モロー子爵家である眼鏡の令息はため息を吐く。


「じゃあ、決まりだな。ユージーン、良かったな」


ウィロウ・バートラムが生徒会を見学していた様にも見えるが、彼女自身もしっかり見られていたのであった。


ジェンキンス伯爵家の姉が先代伯爵と彼女の母の実家と密かに連絡を取り、義妹と現伯爵夫妻を追い出して婚約も解消するのはこれより約1年後のことであった。



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