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ガタンっと揺れて荷馬車が止まった。
「着いたな」
「悪いな、お嬢ちゃん」
私は無言で首を振る。別に悪いなんて思う必要はない。悪いのは依頼主なんだから。多分、ピンク頭。でもピンク頭だけでこんなこと考えつくとも思えないし……いや、かなり杜撰な計画っぽいからそれはそれでアリかも。
人質さん、もう面倒だから護衛さんと呼ぼう。護衛さんと一緒に縛られてまた頭から袋を被せられて、荷馬車から降ろされる。
この護衛さんももしかしたら依頼主とグルかもしれないしな~。借金取りの二人を見張るためにわざと誘拐されてるのかもしれない。それで借金取り二人はそれを知らないっていう。
公爵家の護衛さんだから信用してもいいかもしれないけど、私は数日前に初めて会っただけだからなぁ。
残念なことに、公爵家の護衛に対しても遺憾なく発揮されるウィロウ・バートラムの人間不信。幼少期から家に借金取りが来ているといろいろ歪んでしまうらしい。性格とか性格とかが。
引っ立てられるように歩かされて、足が土以外の感触を踏んだ。藁だろうか、少し柔らかい。
「遅かったじゃない!」
甲高い女の声がしたと同時に頭の袋が勢いよく取られる。自分の髪がめちゃくちゃ乱れるのが若干ホラーだな。
「そう、こいつよぉ! この女よ! ワタシを嵌めたのは!」
そこは暗い小屋だった。家畜用なのか藁が床に敷いてある。
そして私を指差している懐かしいピンク頭。黒い平民が着るようなワンピースを着ているのでよりピンク頭なのが目立つ。
というか、先に嵌めようとしたのはピンク頭のはずなんだけど。私は嵌めようとはしてないんだけど?
「公爵家の婚約者にちゃっかりおさまっちゃって! 自分だけいいとこどりするつもり!」
ピンク頭、凄い喚くなぁ。いいとこどりなんてしてないんだけど……すべては金のためです。
あ、これってもしかして。以前自分がユージーン様たちに放ったセリフを思い出した。「めんどくさいタイプは立場の弱い人を恨むんですよ」って。私は確かに言った。
ピンク頭に脅迫されたメンバーの中で一番立場弱かったのって私だよ! うわぁ、あれってフラグ立ててたことになるのかなぁ。
「何か言いなさいよ!」
「え、あ、はい。お久しぶりです」
「舐めてんの!?」
突然返答を求められたので挨拶を返したらキレられた。ピンク頭、大変元気である。
「あの後どうされていたんですか?」
「あんたのせいでワタシは厳しい修道院に入れられたのよ! 五時に起きて水汲みして雑巾がけよ! お祈りと慈善活動ばっかりでご飯は不味いし、酷いわ! あんたがちくったからでしょ!」
「まぁ、普通密告しますよね。ご丁寧にサインまで入れていただいたので」
三食ごはんが食べられるだけ恵まれてると思うんだけど。
「じゃ、じゃあ俺たちはこれで」
「成功報酬の残りの金を……」
あ、ケンさんとゼンさんのこと忘れてたよ。二人は揉み手をしながらピンク頭に頭を下げんばかりの勢いだ。
「はぁ何言ってんの? もうお金は払ったでしょ。あれだけよ」
「あ、あれは前金というお話でしたよね?」
「成功したら前金の倍払うと」
「うるさいわね。お金なんてあれ以上払うわけないでしょ。あんたらなんてもう用済みよ! やっちゃって!」
ピンク頭の指示だろうか、小屋の入り口に男が刃物を持って立っていた。多分、荷馬車を操っていた御者だ。
「そ、そんな!」
いや、ケンさんもゼンさんも大柄だし二人いるんだし。ショック受けていないで抵抗すればいけると思うんだけど。私や護衛さんの拘束を解いてくれるとか。
「あ、そういえば私はなんで誘拐されたんですか?」
「え、今それ!?」
私はわざわざ誘拐されたんならすぐ殺されることはないだろう。ケンさんがびっくりしているが、そこは聞いておきたいよね。
「決まってるでしょ! ワタシのダーリンのフッキンのためよ!」
えーと……フッキンって言ってるけど多分、復権って言いたいんだろうな。ピンク頭は得意げに言っているが……やっぱり地頭の悪さって出ちゃうよね……。




