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「ダイヤのブレスレットに興味はないか?」
「つけたら腕を動かせませんね。傷つけるのが怖すぎて」
「じゃあネックレスがいいか?」
「ユージーン様、女は装飾品をつけずに勝負するものでは?」
「いや女性のアクセサリーは社交の武装だろう?」
「うーん、確かにダイヤの指輪で殴ったら痛そうですね」
馬車に一緒に乗っている侍女さんからの視線がなぜか痛い。
相変わらずユージーン様は筋肉痛で動きがちょっとばかりおかしい。しかし、公爵夫人に「今日は仕立て屋の予約を取ってるからユージーン、ウィーちゃんと行ってらっしゃいな」と言われて向かっているところだ。
「殴る事態にはならないだろう、基本」
「基本はそうですが、予定は未定ですからねぇ」
うーん、やっぱり侍女さんの視線が冷たい。なぜ?
「休み明けにはジャスミン様の婚約ですかぁ」
「王妃教育もあるから忙しくなるだろうな」
「え、じゃあ生徒会も無理ですかね? 放課後の講習会もまだ途中なのに。あのボンボン王子ほんと中途半端なことしかしないんだから」
アクセサリーの話がまずいのかと話を変えてみた。ボンボン王子の悪口になっちゃったけど。
「いや、殿下も生徒会に出ているから大丈夫だろう。ネメック侯爵令嬢だって中途半端に投げ出すことはしないだろ」
「そっかぁ、じゃあ安心です。講習会分かりやすくて人気なんですよ。途中から参加したいって言ってくる人もいて」
「あれは結局どうなったんだ?」
「途中参加はナシになりましたよ。『開催を知らなかった!』って言ってるご令嬢もいましたが、ジャスミン様が『情報弱者のために救済措置はしません』と」
「あぁ……掲示板見れば済むことだからな……」
「そうなんですよ。掲示板見て、参加表明の紙提出すればいいだけなのに『知らなかった』って失礼ですよね」
侍女兼護衛でつけられたマリーは、うっかりユージーン坊ちゃんを冷たい目で見てしまった。
この二人さっきから嚙み合わない斜め上の会話か、学園の生徒会関連の話しかしてない。
なぜダイヤの指輪で人を殴る前提なのか。そしてなぜネメック侯爵令嬢の話ばっかりしているのか……。内心でツッコミが止まらない。
「ユージーンとウィーちゃんの距離を縮めたいのよ」と公爵夫人に言われたはいいが……この二人ってもうほぼ男友達では? 下ネタ言わない男友達。
そんなことをマリーが考えていると――
「そういえばこの前騙されたお茶会で、ニコラさんと仲良くなったんですよー」
「悪かったな。アーロンの婚約者か。合いそうだもんな」
騙されたお茶会って? 奥様に要確認だわ。ニコラとはニコラ・シュペール嬢か。
「アーロン様、春本持ってたみたいです。ベッドの下に隠してあるらしいんです」
「はっ? アーロン? というかなんでそんな話を?」
「手紙のやり取りをしてるんです。ベッドの下とは捻りがないですね。本棚の隠し扉とかあるのかと思ってました」
前言撤回。下ネタありの男友達だ。
「あ、安心してください。ユージーン様の部屋を探したりしませんから」
「はっ?」
「ニコラさんが気にしてたんで教えてあげただけですから~。私は男性が春本持ってようが愛人いようが問題ないんで。お金あるとどっちもできていいですよね」
うん、婚約者同士でこんな会話してるカップルっていないはずだ。ウィー様、手ごわい。
「どっちもないから」
うちの坊ちゃん、ヘタレだから春本はないはず。
「そうですか? うちにあったのは全部売っちゃったのでお見せできないんですけど結構綺麗でした」
婚約者に何をすすめているんだ、ウィー様は。
「いや、すすめるなよ」
「健全な男性には必須かと思って」
ユージーン坊ちゃん、なにか勘違いさせる言動でもしたんですかね……。それかウィー様が坊ちゃんのことを何とも思っていないか……。後者だな。
二人が黙った頃合いでマリーは口を挟んでみることにした。
「ウィー様、イチゴのジャムはお気に召していただけましたか?」
今日の朝食ではハイキングの時に摘んだ野イチゴのジャムが出されたのだ。
「はい! おいしかったです! すっぱすぎず甘味もあって最高でした! 後で厨房にお礼に行かないと! 朝はバタバタして行けなかったので!」
「ジャムでおおげさだ」
ユージーン坊ちゃんがいらんことを言う。
「うちではみんなお腹を空かせていたので、ジャムになる前に摘んできたイチゴはなくなってましたから! それに、ウサギに野イチゴを食べつくされることもよくあって。なので領民も含めて、イチゴが食べつくされていたらみんなで怒りを原動力にウサギ狩りに行ってましたよ!」
「バートラム領のウサギ、腹ペコすぎないか」
「白いウサギがイチゴ食べると口元に赤い果汁がついてるんですよね。なので、そのウサギを基本的に狙ってました」
「目印はそれなのか」
「イチゴとウサギってセットなんですよね」
なんでウサギ狩りの方向に話がいっちゃったんだろう。マリーは話題のチョイスを後悔した。
だが、ユージーン坊ちゃんは飽きもせずウィー様の話を聞いてツッコミを入れている。
お茶会で女性から話しかけられたら退屈そうな顔を隠しもしないのに。これでこのカップルはいいのだろうか。
「バートラム領の領民はたくましいな」
「あの頃はみんなお腹減らしてましたから。今はユージーン様の支援のおかげで新しい道具を買ったり、新しい栽培方法を試したりしてるんでかなりマシです!」
色気やラブ皆無の会話を聞きながらマリーは遠い目をした。
二人ともポンポン言い合って楽しそうだから、もういいんじゃないですかね。




