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「ユージーン、生徒会で一緒だと聞いていたからもっと仲がいいのかと勘違いしていたわ。ウィーちゃんと全然仲が良くないじゃないの」
「そんなことはないです。普通に会話できてます」
「別にウィーちゃんなら殿下とも学園であの感じで喋っているでしょうよ。まっっったく婚約者には見えないわ」
ウィロウ・バートラムが帰った後、公爵夫人によるお説教である。
「デートにも一回行ったと聞いていたのに……あれじゃあねぇ」
「全力で避けられたことですか?」
「そうよ。甘い雰囲気がないわ、信頼もないわ」
「今からそんなものはないでしょう」
「せっかく、二人きりにしてあげてるのに。生徒会では同じ空間にいるだけでしょ」
「そりゃあ生徒会ではいちゃつきませんよ」
「いつもいちゃついてないでしょ。はぁ、名前も呼ばないくらいヘタレだし。お母様は悲しいわ。どこで育て方を間違えたら、あんな情熱的な旦那様からこんな腑抜けの息子ができるのかしら」
泣くふりをしながら指の隙間からユージーンをうかがう公爵夫人。ユージーンは酷いことを言われているのは分かるが、いまいち危機感がない。
「今のとこ、ウィーちゃんにとってユージーンの魅力はお金だけね。いい? お金だけよ。その年で。これはまずいわ。離婚か仮面夫婦まっしぐらだわ」
「そんなことはないでしょう」
「どこにラブが芽生える要素があるの。草抜きで共同作業させてもユージーンのダメさがバレただけだし」
「草抜きさせるのが間違っていたのでは?」
「旦那様がしっかりしていてワイルドな子だと言うからよ。これまでの生活状況から見て、私とユージーンとお茶会しても緊張させるだけじゃないの。草抜きならのびのびできるかと思ったのよ」
はぁと自分の息子のポンコツ具合にため息ばかりの公爵夫人。
「母上は一体、何を心配されているのですか。第一王子が辺境から逃げ出して行方不明だからですか」
「それもあるわね。死体でも出ていれば安心なんだけど。行方が分からないのはねぇ」
影が総動員されているのはこの影響である。ついでにピンク頭の現状を探らせたらこちらも行方が分からなくなっていた。一番厳しい修道院に預けて矯正させていたはずなのに。
「はぁ、ユージーン。そんなことより、あなた結婚を舐めているのではなくて?」
飲みかけのレモネードを置き、公爵夫人はユージーンにしっかりと向き直った。「そんなこと」で済む話題ではなかったはずなのに、まずいことをしたかとユージーンも自然と背筋が伸びる。
「結婚相手というのはあなたの分身。お互い信頼がなければいけないのよ。もちろん、愛もあった方がいいけれど。あなた、愚痴は誰に言うつもりなの。側近? 補佐? 仕事の愚痴ならそうでしょうね」
母である公爵夫人の剣幕にユージーンはたじろぐ。
「じゃあ側近にも聞かせられない愚痴は? 就業時間外に誰かに寄りかかりたくなったときは誰がいてくれるの? 結婚相手は最後まであなたの味方であり、あなたが間違っていれば頬を引っぱたいて足にしがみついてでも止めてくれる存在なのよ。家のことと社交を放り投げればいいだけの存在ではないわ」
「それは分かっています」
「ユージーンは分かっていないわ。結婚は書類上のことじゃないの。一生ものなのよ」
「はい」
「というわけで、ウィーちゃんときっちり信頼を築きなさい」
「愛ではなくですか?」
「あなたのようなペーペーが愛を語るんじゃありません。まずは信頼よ」
「はぁ」
ユージーンの気の抜けた声に公爵夫人の睨みが飛ぶ。
「はぁ……はこっちのセリフよ。こんなに息子がポンコツだとは思わなかったわ。次の学園の休みはいつ? 確かそろそろ二週間くらい休みがあるわよね」
「もう一度テストがあってから休みのはずです」
「じゃあ、そこが勝負ね。ウィーちゃんを領地に招待するわ」
ウィロウ・バートラム本人は不在なのに休みのスケジュールが決まってしまった瞬間であった。




