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いつもお読みいただきありがとうございます!
こんにちは。
私は今、財務部に来ております。別に用事はないんですけど……いやあるんですけど。
すべてはボンボン王子のせいだ。
「ちょっと財務部の対応を見たいから協力してくれ!」
いや、そのネタはもう終わったと思ってました。
「災害補助金申請の手続きを簡略化するためだ。学園の生徒にあらかた聞き取りは終えた。皆、財務部の対応の悪さについては一致していたんだ。改善のために対応の悪さは知っておかないとな! だが、我々生徒会のほとんどのメンバーの顔が割れている。ユージーンもアーロンも有名だからな。災害補助金申請が必要ないとバレてしまうだろう。そこでバートラム嬢の出番だ」
そんなこんなで私は財務部に災害補助金申請の書類をもらいに来ております。隣にはダサく変装したユージーン様。変装してくれるなら私いらないですよね?
まぁ仕方ない。そんな愚痴は置いといて。
今問題なのは待ち時間が長すぎることだ。今回は書類を貰って少し説明されるだけなのにかれこれ三十分は待たされている。
私たちの他に待っている人はいないし、職員たちも繁忙期の雰囲気ではない。私語をしている人が目立つくらいだ。
「遅いですね」
隣で本を読んでいるユージーン様に声をかける。
「そうだな。そろそろ殿下たちに入ってもらうか」
「そもそも私、いらなかったですよね」
「いや、最初君だけで行って貰ってその後から俺が来たが、職員の対応に差があっただろう。それも殿下に報告すべき案件だ」
女性だから舐めてる感じがありありとありましたねぇ。変装したユージーン様が来てから少しマシな対応になりましたが。むかつく、イス投げなかった私を誰か褒めて。
ユージーン様が出入口に向かって手を挙げる。ウキウキした様子を隠しきったボンボン王子とウキウキを隠し切れないアーロン様が軽い足取りで入って来た。
「やぁ、書類は貰えたかい?」
王子はニコニコして私とユージーン様に声をかける。その様子を見て職員が走って来た。
「で、殿下! 何か御用ですか?」
「あぁ。彼らは学園で私の友人でね。今日財務部に来ると聞いていたから寄ってみたんだ」
「さ、左様でございますか」
「それで書類はもらえたかな?」
「いえ、それがかなり待っているのですが貰えていなくて」
「ほぉ、どういうことかな?」
ユージーン様がわざと悲壮感を漂わせながら答え、職員は慌てる。
「っすぐに持って来ます!」
その言葉通り、職員はすぐに書類を持って戻って来た。おい、さっきまでの待ち時間なんだったんだ。
「ちょうどいい。私も知りたいから説明を一緒に聞きたい」
王子にこんなこと言われる職員にちょびっと同情……しないか。職員が冷や汗をかきながらしどろもどろで説明をする。
「ここは書かなくてはいけないのか?」
「同じことを上にも書きましたね」
「ここにも署名があるのに、さらに次の欄にまた署名がいるのか?」
「署名する部分がたくさんありますね」
「説明を聞いても分かりづらいな。ひな形はないのか?」
「一番最初に質問したのですが答えて頂けていません」
「分からない? じゃあすぐ別の者を呼んでくれ」
「殿下、皆様お忙しいのではないでしょうか。なにせ来てからずっと待たされていますから」
質問に見せかけた王子とユージーン様の応酬。アーロン様は後ろでニヤニヤ笑っている係である。いや、もしかしてアーロン様は威圧担当かな、ガタイいいもんね。ガタイいい人と来たら対応良くなるかな。
その後、上司がかけつけてあーだこーだとなり、全て終わったのが一時間は経った後だった。
「そういえば、君はどこにいたんだい?」
帰ろうと思ったところで王子が上司に爆弾を落とす。
「とてもこの部署は忙しそうだね。増員の希望は出してるのかい?」
「いっいえ。そこまでではないので!」
「そうかい? 彼らは三十分以上待たされていたんだ。君が把握できていないところで人員が足りていないんじゃないのか?」
「も、申し訳ありませんっ」
「そうだ、大臣にもそれとなく言っておくよ。陛下も災害補助金関連の仕事が遅れて復興に時間がかかったとなれば心を痛めるだろうし」
「い、いえっ! こちらで増員希望を出しますので! 殿下に配慮いただかなくとも!」
「そうかい? 私が入ってきた時も私語をしている者がけっこういたんだが」
「き、きちんと指導しておきますので!」
めっちゃ虐めてるな、ボンボン王子。お育ちの良い人って嫌味言わないのかと思ってたよ……。
「殿下、そろそろ約束の時間です」
「じゃあ俺、婚約者迎えにいってきまっす!」
ユージーン様が王子に何か告げ、アーロン様はなぜかウキウキと出て行く。
「じゃあ、今後はきちんとよろしく」
王子は上司に向かってそう締めくくった。




