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「それは……オメデトウゴザイマス??」
「適当なことを言わないでちょうだい」
「はいっ! スミマセンデシタ!」
お茶会の招待状を適当に祝ったら睨まれてばっさりいかれたので、素早く謝る。
それにしても美人は睨んでいても美人だ。
「でも……こういう場合ってお茶会は断れませんよね? 王家からですし」
「そうね。急病でない限り。それに時期的にも最悪だわ」
「そうなんですか?」
ネメック侯爵令嬢はまたため息をつく。
「アンネット様が公爵家を継ぐと決まった後だもの。絶対に婚約者候補だと思われるわ。複数の令嬢が招かれていてもそうよ」
「ええっと、ソレッテナニカモンダイナンデスカ?」
う、また睨まれた。だから片言で喋ったのに~。
「問題よ。殿下はこの前までアンネット様をお好きだったのよ? 公爵家を継ぐから王妃になれないと分かってもそんなに早く殿下が心変わりするわけないじゃない」
いえ、この前までボンボン王子は趣味が悪かっただけなのです。それに王子を美化しすぎでは?
「シンジーツノアイに目覚めたのかもしれませんよ?」
「また適当なこと言わないで」
シンジーツノアイって恋愛ものにおける必殺技じゃないの? ピンク頭のせいで価値が落ちたの?
「いやいや、私から言わせてもらえばアンネット様のことがお好きな王子は正直趣味が悪いですよ。だってアンネット様、めちゃくちゃ高位貴族!といいますか……偉そうっていうか、自分が言えば誰でも言う事聞くって思ってそうというか、誰でも顎で使いそうといいますか、世界は自分中心といいますか」
あ、なんか私相当酷い事言ってる?
「謙虚でたまに熱いネメック侯爵令嬢の方がいいなぁって素直に思います。だから、王子は趣味が良くなったなぁと、まともになったなぁとお母さん目線です」
いや、お母さん目線ってなんだよ。ネメック侯爵令嬢は怪訝そうな顔で私を見ていたが、そっと目を伏せた。
「意外だわ。あなたは私のことが嫌いなんだと感じていたから」
「警戒して疑っていただけです。単にこれは私の特性で人間不信であるだけですね」
この前までボンボンは全員嫌いだったけどね。
ネメック侯爵令嬢は安心したようだ。
「いい加減、ジャスミンと名前で呼んでくれてもいいんだけれど……」
「えぇ! そんな恐れ多い! 嫉妬で殺されます! 私に死ねと!?」
ネメック侯爵令嬢ファンってけっこういるんだよね……。本人気付いてないかな。
「ユージーン様と婚約しておいて今更何を言っているの」
「まぁそれもそうですが。ジャスミンってすっごくキレイな名前じゃないですか。まるで異国のお姫様のようで。だから私如きがお呼びするのがもったいないなと」
「……あなたは私の元婚約者と同じことを言うのね。私は自分の名前をお姫様のようだと思ったことはないけど、そうやって褒めてもらえるし自分でも気に入っているわ」
元婚約者と口に出したときにネメック侯爵令嬢は寂しそうに笑った。こういう人間らしいところがアンネット様よりも好感度が高い。
「では……許可を頂けたなら今度からお名前で呼ばせていただきます。もちろん様付けですけど」
安易なこの発言を後悔することになるとこの時は思わなかった。やっぱり、高位貴族のボンボンって嫌い。




