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いつもお読みいただきありがとうございます!
私、ウィロウ・バートラムの機嫌は悪かった。
先日ピンク頭の脅迫を無事逃れたところまでは良かった。私の平穏は崩れなかった。
なのにだ。
図書室で勉強していたら急に生徒会役員であるという眼鏡の令息が「殿下が生徒会室で呼んでいるから今すぐ来て欲しい」と言いに来た。
勉強時間が削られることにイライラしながらも、殿下からの伝言ということで生徒会室に付いていく。
またも変な嫌がらせかと思ったが、眼鏡の令息は生徒会役員として見覚えはあったし、きちんと道順も生徒会室へと向かっているので、三歩ほど遅れて歩いた。
「今、生徒会の役員が足りていなくてね。君にも手伝ってもらいたい」
王族に現れる特徴である見事な紫の瞳に隠し切れない期待の色を含ませて、第二王子であるケネス殿下は私を見つめる。
私、こんなに期待されることしてないはずなんだけど。
それに他の役員たちも全員揃っている。各々仕事をしているようだ。どうやら最近王子が始めた意見提出箱ならぬ目安箱の中身の選別のようだ。
「殿下、ご存知かとは思いますが私は奨学金で学園に通っております」
「そうだな。君はとても優秀だと聞いている! 成績は幼い頃から家庭教師をつけている高位貴族の中に食い込んでいるしな!」
おぅ元気だな、この人。しっかり美味しいご飯を食べてお金の苦労なんてないんだろうな。ややひねくれた見方しかできないが仕方がない。
「成績が下がると学費が自腹になります。それは困るので生徒会に時間を割くのは不可能です」
学園の中なので、王子の意見を否定しても大丈夫だ。この前のピンク頭みたいに変なことをしなければ、礼節を弁えていればいい。
「ふむ。それもそうだが、私達も勉強は得意だ。教えることもできる! それにここだけの話だが、生徒会に入っておくと就職に有利だ。どのくらい有利かというといきなりエリートコースに入ることもできるくらいだ。我々もタダ働きをしているわけではない!」
あなたはボンボンだから就職先に困ることもないでしょうよ。第一王子みたいにバカなことしなければこの人が王太子なんだし。王太子じゃなくっても公爵位もらえるんだし。またやさぐれて心の声がとげとげしてくる。
でも就職に有利なのは捨てがたい。エリートコースからスタートできれば給金も段違いだもの。弟の学費も貯めておきたいし。
それにここにいる方々は皆、私よりも成績上位の方々だ。勉強を教えてくれると言うのはあながち嘘でもないだろう。
「美味しい紅茶と菓子も食べ放題だ。せっかく来てもらったんだし出してくれるか?」
ボンボンのケネス殿下が役員たちに話しかけると、女子生徒が立って準備をし始める。
なるほど、お菓子で懐柔しようと。
「他に生徒会にふさわしい方がいるんではないでしょうか?」
「アンネット嬢に頼もうかと思ってたんだけど兄の件であれだけ迷惑をかけているからね……君はユージーンの推薦なんだ」
なるほど、そこの別のボンボンが推薦しやがったと。
あ、うっかり口が悪くなっちゃった。借金取りみたいな口調になっちゃったわ。
やっぱり影を統率する一族って言っちゃったのがまずかったかなぁ。あれは極秘事項だったのよね。うちの祖父が先代のオールドリッチ公爵と飲み友達だったから知っていただけなのだ。
はっ! まさか、これは脅迫なのか。影を統率するとバラしたら殺される?みたいな?
「ご用意ができました。どうぞ」
目の前に紅茶とマドレーヌをはじめとした焼き菓子が置かれる。
ごくり。
ひじょ~に美味しそうだ。お菓子なんて貰った飴ちゃんくらいしか食べれたことはない。だって貧乏だから。それに紅茶のいい香り。あまりよろしくない茶葉の紅茶しか飲んだことがないから香りだけで紅茶を飲んだ気になりそうだ。
「そうだ! いきなり生徒会に入れと言われて君も動揺しただろう! 今日はそれでも食べながら見学してくれ。それで入るかどうかを決めてくれたらいい」
王子だけど入れって命令するんじゃないのね。はっ、お菓子で思考が鈍りかけていたわ。
「それなら普段どんなことをしているか教えていただくだけで大丈夫です。そして勉強に戻りたいのですが……」
ユージーン様が後ろからこそっと王子に紙の束を渡す。
「おや、こんなところに歴史の定期テストの過去問が!」
王子はわざとらしく、驚いた顔を作っている。
「ゴーン先生の歴史のテストでしたら、過去問はあまり意味がないですよね?」
「ふっふっふ。生徒会室には15年前までの過去問があるのだよ」
私は驚いた。歴史のゴーン先生は上の学年から過去問を教えてもらっても意味がないようにするためにテスト問題は毎年全問題を作り直している。ただ、4年前の過去問からは使いまわしているらしい。あの先生のテスト、記述問題が多くて大変なのよね。
「そうそう。生徒会室には他の教科の過去問もたくさんある。先輩方のおかげだな。君が見学してくれたら見せても……いいよな、皆?」
王子は振り返る。他の生徒会役員はイイ笑顔で頷いていた。
「タダ働きは良くないもんな。見学していくかな?」
これってやっぱり脅迫ジャナイ?
私はマドレーヌを頬張りながら嫌々頷いたのだった。