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「本日までに目安箱に意見書は入っておりませんでした。こちらが殿下へのラブレターやご令嬢及びご令息のアピール書です。そして、こちらがネメック侯爵令嬢へ。講習会に関しての要望です」
眼鏡令息が紙の束をささっと二人の元に滑らせる。王子は嫌そうに束を受け取っている。
「講習会に関する意見書は講習会終了後に私に渡して頂くようにしているので、こちらに入っているものは次から廃棄してください」
ネメック侯爵令嬢は数枚の紙を不服そうにしながら一応受け取る。
「分かりました。ただ、内容を見た限り途中から受けたい生徒の要望も中にはありましたよ?」
「……分かりました」
眼鏡令息(ごめん、まだ名前が覚えられない)の言葉に微かなため息を吐くネメック侯爵令嬢。
お疲れ気味? 途中参加希望があるとは考えてなかった上に、講習会後に直接渡してって言ってるのに目安箱に入れられるって地味に……嫌だよね。そもそも直接言えよって思うよね。
生徒会はすぐに終わり、ネメック侯爵令嬢と私が講習会準備のために残った。
「紅茶を淹れなおしましょうか」
「そうですね」
「ねぇ、あなたはあのデート内容で良かったの? 初めてのデートだったのに!?」
「?? はい。デートなんてしたことないですし。あんなものじゃないんですか?」
「そんなわけないでしょう」
いきなりデートの話題を振ってきたネメック侯爵令嬢は頭痛を堪えるように首を振る。ため息らしきものもついているし、講習会が始まって以降悩みが多いのだろうか。
「紅茶を蒸らす時間が長くなりすぎよ」
「ひゃあ! すみません」
「紅茶を淹れる講習会もした方がいいかしら」
「お茶会の実践とセットでやるといいかもしれません。身分が高くても自分で紅茶を淹れなきゃいけない時があるんですか?」
「誰にも聞かれたくない話をする時は自分で紅茶を淹れるわ」
その後も講習会の会場予約確認など雑事をこなしながら、ネメック侯爵令嬢と話す。
「食べてばかりのデートって……全然ロマンチックじゃないわ」
まだブツブツ言っている。ネメック侯爵令嬢、さてはあなた。ロマンチストか。
そうだよね、私の婚約のことを「お金で買われるような結婚」って言ってたもの。私は根に持つタイプなのだ。覚えている。なるほど、あの発言はロマンチック思考からきた言葉だったのか。
「ロマンチックで腹は膨れませんから」
ささやかな胸を張った私の発言は、ネメック侯爵令嬢に死んだ魚を見るかのような目で一瞥される。え、事実を言っただけなのにそんな目で見られることってある? ロマンチックや愛でお腹いっぱいになることなんてないよ?
「本当ですよ? それに、私は恐らくユージーン様にとっての『面白い変な女枠』なんです」
「どういうこと?」
ネメック侯爵令嬢は首を少しかしげる。サラッサラの髪も同じように少し揺れる。何で髪を洗えばそんなにサラサラになるのだ。聖水か? ボンボンだけが買える聖水があるの?
「ユージーン様はほっといても女性の方が寄っていくボンボンのご子息です。そんな選り取り見取り、遊びまくりの方が私を婚約者にするなど『面白い女』『変な珍獣』あたりで面白がっているだけです」
「……ボンボンって……それだけじゃないと思うけど……」
「まぁまぁ。私がその枠だったとして、三ヵ月くらいできっと飽きられます。疲れますよ、三ヵ月ずっと面白いことしなきゃいけないんですから。ロマンチック思考をしている暇なんてないんです。だから食べてお腹を膨らましている方が現実的です」
「あなたは素でいるだけなのに、意識したら違うあなたになってしまうでしょうから……確かに大変ね」
今のって褒められてるのかな?
「まぁ恋愛はよく分かりませんし、お金の悩みがありすぎて恋愛どころではなかったので……ほんとにデートに不満はありませんよ? むしろ今日はネメック侯爵令嬢のため息が普段より多いのが気になります」
このまま延々デート談義になっても退屈なので、今日一番気になっていたことを聞いてみた。ネメック侯爵令嬢は驚いたように口元に手を当てる。
「ごめんなさい。不快だったわよね」
「いえ、全く。体調が悪いのか悩み事かなと予想はしましたが」
お育ちの良いお嬢様は返答から違う。私は素直に感動するが、ネメック侯爵令嬢は私のデート事情ではなく自分のことで額に手を当てて悩みのポーズだ。
「実は王妃様からお茶会の招待状が来ているの」




