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【連載版】私は脅迫されております!  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売


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いつもお読みいただきありがとうございます!

ユージーン視点です。

「ユージーン。くしゃみが出そうなのか?」


ユージーン・オールドリッチは思い出し笑いを慌ててひっこめた。どうやら自分は相当変な顔をしていたようだ。鋭いのか鈍いのか分からないアーロンに突っ込みを入れられるほどに。


「少し鼻がおかしかった」


「そっか。風邪には気を付けろよ~」


危ない危ない。自分が女性のことを思い出して笑うなんて。


しかも今は生徒会室で会議中だ。第一王子が失脚して辺境で鍛え直しになったので、第二王子であるケネス殿下が張り切っている。この人、クールな見た目なのに隠れ熱血系で少しめんどくさいのだ。


「じゃあ早速、設置した目安箱に入っていた要望書を読んでくれ!」


第一王子がとある男爵令嬢(ピンク頭)にうつつを抜かし、婚約者であるアンネット嬢に冤罪をかけて陥れようとした件は、とある伯爵令嬢が持っていた証拠で阻止された。もちろん影の証言も多数あったのだが。


ユージーンは、その伯爵令嬢が生徒会室に現れた時のことをいつもぼんやり思い出してしまう。彼女はなかなか鮮烈だった。うっかりしていると「ウィロウ・バートラムか……」なんて彼女の名前を言ってしまいそうになる。


「王子殿下へのラブレターは除いていいですか?」


書記の眼鏡をかけた真面目な令息が、真面目な顔をして王子に聞いている。


「え? そんなのあるのか? ラブレターに見せかけた暗号なのか!?」


ケネス殿下は兄である第一王子が学園からいなくなった後、俄然張り切って生徒から幅広く意見や要望を聞きたいと『目安箱』を設置した。実はケネス、足を骨折して学園を休んでいる間に第一王子の騒動が起こってしまったので、自分の無力さを嘆いているのだ。だから張り切っている。


今日は記念すべき『第一回:目安箱を開ける会』なのだ。


「すぐに読めるものからにしますね」


「あぁ、そうしよう!」


「えーと『ソフィア嬢が廊下で何度も転んでいて可哀想なので、廊下をきちんと平らに整備して欲しい』」


「……」


「目安箱は匿名で意見書や要望書を入れるものですが、差出人は『ドジっ子萌え』と書いてありますね」


また思い出し笑いをしそうになっていたユージーンは、目安箱に入っていた記念すべき一通目の要望書に頭を抱えた。なんだ、ドジっ子萌えって。


しかも後から分かることだが、アーロンにまた変顔を見られていて「ユージーン、よっぽど鼻詰まってるんだな」なんて思われていた。


「ソフィア嬢とはどこのご令嬢だろうか? ソフィアという名前の令嬢は学園には5人いるだろう?」


「おぉ、全て覚えておられるんっすか。さっすが殿下ぁ!」


アーロン、ヨイショするな。お前は絶対生徒の名前を覚えてないだろうけど。

それに「~っす」という話し方、まだ直っていないんだな。


「家名は書いていませんね」


「そんなに廊下って凸凹しているのか? 俺は躓いてこけたことなんてないぞ」


「俺もないっす」


「ゴミでも落ちているのか?」


「学園で雇われた清掃員によっていつも清潔に保たれています」


「ピカピカ過ぎて転ぶのか?」


「それならもっと大人数の被害が出ているはずです」


「あ、もしかして」


何かを思いついた様子のアーロンに一斉に目が向く。


「いや、俺、廊下で二回ほどこける令嬢見たことあるって思い出したっす!」


「そうか、じゃあ要望書は本当のことなのかもな」


「いやぁ。同じ令嬢がこけてたから俺、てっきり足腰が弱いのかと思って! 学園の周りを毎日走ればいいってアドバイスしたんすよ! 何なら走るのに付き合うぞって。それからはそのご令嬢に会わなくなったような……」


アーロン、お前、騎士団長の息子だからって脳筋すぎるだろ。よくこけるなら疑うのはまず、病気だ。


「病気じゃないですか? 足腰ではなく体が弱いとか? 脳に病気を抱えているとよく躓くようになると本で読んだことがあります」


「え、病気なら大変じゃないか! じゃあそのソフィア嬢にはまず検査をしてもらわないと!」


「あのぅ……私からよろしいでしょうか?」


「もちろんだ!」


男三人で大真面目に話をしていると、会計の女子生徒がためらいがちに手を上げた。


「これは私の推測……なのですが……いえ、あの、ウワサも入っていますが……」


女子生徒はとても言いづらそうだ。そういえばウィロウ・バートラムはハキハキと非常に気持ちよく喋る令嬢だった。打てば響くとはあのことだ。「ノーモア借金」とか。予測不能すぎる令嬢だ。いや、令嬢と呼んでいいのか、あれは。


彼女のことを思い出してまた笑いそうになる。


「おそらく、ソフィア嬢とはソフィア・ラーヴァさんのことだと思います……。えっと、彼女はよく転ぶんです」


「ラーヴァ男爵家か。大病なら金がかかるよな……支払いは大丈夫かな」


「いえ、その……」


「どうした? どんな意見でも言ってくれ」


尚も言い淀む女子生徒にケネスは優しく聞く。


「ソフィアさんがよく転ぶのは、男子生徒の前だけなんです」


意を決したように女子生徒は述べた。


「「「は?」」」


「特に伯爵位以上で、いわゆる見目麗しい男子生徒の前で転びます」


「「「……」」」


思ってもみない発言に、ケネス、ユージーン、アーロンは沈黙するしかない。


「女子生徒の間では有名なお話なんです……」


「つまり……ハニートラップか?」


「いえ、玉の輿狙いです。助け起こしてもらって、お礼だと言って刺繍したハンカチをプレゼントしたり……作ったクッキーを差し入れしたり……してるんです。まず、ドジっ子アピールをして、それを利用して距離を縮めようとしてるんです。男子生徒の中には彼女をドジっ子と認識している方もいますが……女子生徒の認識は違います。ちなみに、今の所まだ彼女を好きになって婚約解消……という被害は出ていません」


「廊下の凹凸は関係ないっすね。てか俺、実は狙われてたってこと?」


のほほんとしたアーロンに対して女子生徒は苦笑しながら頷く。


「じゃあ、男の気を惹くために毎回転んでるのか? やばい令嬢だな。体張り過ぎ。あとワンパターン」


アーロン、同意しかないがさすがに言いすぎだ。


「三代前の王妃が孤児院に慰問の際、目の前で転んだ少年に手を差し伸べようとして斬りつけられたことがある。玉の輿狙いというだけならまだいいが、そんな事件が起きるかもしれないな」


ケネス殿下、事を大きくしないでください。確かにその可能性はあるので警戒は必要ですが。



後日、そのソフィア嬢はケネス殿下の前で転んだ。ケネス殿下は一瞥をくれただけで、アーロンや他の護衛を兼ねた側近に令嬢はその場で取り押さえられた。今回は厳重注意と謹慎で済んだが、これで懲りるだろう。


それにしても、女子生徒のウワサ程度の情報は影から入ってこない。「玉の輿狙いでよく転ぶ令嬢」の話よりも、「毒らしきものを所持していた厨房関係者」や「花壇に武器らしきものを隠していた不審な作業員」などの情報が優先されるからだ。


「殿下。今回の件で自分の頭の固さを痛感しました。大真面目に病気なのではないかという阿呆な仮説を立てていた自分が恥ずかしいです。そこで、生徒会にはもう少し女子生徒を入れるといいのではないでしょうか。そうすればウワサや情報も入りやすくなります。女性ならではの視点も大切です」


まさか自分の頭がこんなに固いとは思っていなかった。恥ずかしい。これでは第一王子の二の舞になる生徒が出るかもしれない。


「う~ん、確かにそうだな。まさか気に入った令息の前でだけ転ぶなんて芸当は想像できなかったな。令嬢は気になる相手に校舎裏でこっそり告白したり、恋文を書いたりするのかと思っていた。にしても誰を生徒会に入れるんだ? 兄の婚約者だったアンネット嬢にはさすがにこれ以上迷惑はかけられないし……」


「一人、適任がいます。ウィロウ・バートラム伯爵令嬢です」


公私混同と言われようと構わない。

この時のユージーンは珍しく微笑んでいた。

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