9
いつもお読みいただきありがとうございます!
ブクマや評価、いいね嬉しいです。
「ユージーン! せっかくバートラム嬢に付き添わせたのに全然距離が縮まっていないじゃないか!」
相変わらず王子は暑苦しい。
「仕方ないでしょう。あの男子生徒が保健室に入ってきて、近くにあったハサミを持って先生に襲い掛かったんですよ。それどころじゃありませんでした」
「いやぁ、あの事件にはびっくりしたっすね~」
「確かにそうだが……きっかけがないとずっとこのままだぞ?」
王子のお節介が暑苦しい。
「もうさっさとデートに誘やいいじゃないっすか、二人とも」
「俺もか?」
アーロンの言葉に王子も反応する。
「だって子供じゃないんすから。他家から婚約の話がきちゃうかもしれないんすよ? それなら、やれタイミングが~とか、やれもっと仲良くなってから~、なんて言わずにさっさとデートすりゃいいんすよ。なんなら俺の婚約者にデートどこに行くのがいいか聞いときますよ?」
そうだった、こいつには意外にも婚約者がいるんだった。
「俺としてはまずはカフェがおすすめっすね。女の子に人気の店たくさんあるんで。あ、殿下は特に護衛がめんどうでしょうから学園のサロンでもいいんじゃないっすか~? あそこのケーキ、けっこううまいっすよ~。いや、バートラム嬢ならランチ一緒の方がいいかもしれないっす。この間、特別メニューのステーキを食い入るように見てブツブツ言ってたんで」
珍しくまともなことを言うアーロンを驚愕の目で見ていたユージーンとケネス王子であった。
「殿下の想い人は誰か知らないっすけど~。バートラム嬢なら惚れただの腫れただのよりは借金肩代わりの方がいい気がするっすね。リアリストっぽいし。ユージーンのとこの両親は公爵家の権力に物言わせて婚約迫るタイプじゃないんだし、ユージーンの個人資産とか人脈でバートラム家に支援できるなら両親も納得して婚約させてもらえるんじゃね? だってユージーンのとこの両親、珍しく恋愛結婚だし」
「俺の方でバートラム家の内情は調べておこう」
キリっとした顔で王子が言うが、そんなことより他にやるべきことがあるだろう。
***
「では目安箱に入っていた意見書を読み上げます。『災害補助金の申請手続きが煩雑すぎるのでもう少し簡略化できないか検討して欲しい』」
「おぉぉ! やっとまともな意見書キターーー!!」
「確かに。今までで一番まともだ。これまでなぜか恋愛沙汰が多かった」
アーロン様と王子は盛り上がり、眼鏡令息は苦笑している。
「これ、生徒会と全く関係ありませんね」
盛り上がったのもつかの間、ユージーン様がツッコミを入れる。
「あ……あー、うん」
「……それもそうだな」
バツが悪そうにする王子とアーロン様。うなだれる眼鏡令息。
私は黙っていた。いや、大体黙っているんだけれども。ちょっとだけ手が震えている。これは武者震いというやつだ。
「確かに関係はありませんが、これは殿下が生徒会にいらっしゃるからこその意見書かもしれませんわ」
落ち込んだ空気の中、ネメック侯爵令嬢の声が通る。
おぉ! 実はその通りよ! あの男爵令息を焚きつけて書いてもらった甲斐があったってものよ! 目安箱ってあんまり機能してなさそうだし。あ、これは言ってはいけない。
でも王子がこの件に着手してくれれば助かる家が増えるのよ。それに王子の功績にもなるもんね。
「最近災害が起きたのだとすれば辺境の男爵家か、子爵家の領地でしょう。下級貴族の意見はなかなか上がってきません。上級貴族が意見をまとめあげて会議で審議されなければ表にも出ないでしょう」
淡々としたネメック侯爵令嬢に頷いて王子は先を促す。私も激しく頷きたいがやめておく。
「ですから、この意見書に賭けたのではないでしょうか。相当お困りなのかもしれませんわ」
もう、将来の王妃はこの人がいいんじゃないかな。辺境の男爵家・子爵家のこと気にしてくれてるなんて最高!
「バートラム嬢はどう思う?」
「殿下、彼女の家の領地では先代の時に災害が起きています」
王子が話を振ってくる。さらにユージーン様が我が家に関する情報を追加する。
そーなんです、それで借金まみれなんです。
私は武者震いをおさえながら口を開いた。




