表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Elgard  作者: 志門
第一章 英雄の目覚め
8/26

狩りへの慣れ

 西の森、その名のとおり大樹の村の西にある森に最近よく見かける少年の姿があった。


 少年の腰には装飾はないが物自体が珍しい短刀を下げ、小さなポーチを邪魔にならない様に巻き付け反対側には小さな剝ぎ取り用のナイフが括られていた。


 そうエリックはあの日からよくこの西の森を訪れる様になっていた。


 以前、初めての狩りと戦利品を売ることに夢中になりすぎて門限の時刻を過ぎてしまい、両親に内緒で短刀を買って来たりそのまま一人で何も言わずに狩りに行ったことがばれてしっまった。

 その日鬼の様に怒った母親のサラは朝までエリックを正座させ説教したのだった。

 さすがに明け方まで続いた説教に父親のディルックも仕方なく止めに入ったことで事なきを得た。

 あのまま続いていたらエリックは何週間か歩けなくなっていたかもしれない。


 そんなことがあったのも拘わらずこうしてまたここに来ているのにはちゃんと許可を貰っているからである。


 さすがにあれ程叱られた後に同じことを繰り返すのはバカの極みなので、二度と鬼のような母を見たくないというのもあり父のディルックに相談し一緒に説得をお願いしたところ、今度は軽い説教と守るべき約束事を決めたのち許可が出た。しかし、何故か横で伸びてるディルックの顔が凸凹になっていた。


 ともあれ許可を得たエリックはこうして毎日のように狩りに勤しんでいた。


 シドがいた頃から続けている鍛錬を午前中に終わらせ昼から西の森にきて狩りをするというのが最近の流れである。


 今日はここ何日かで狩りも慣れてきたこともあり、もう少し森の奥の方まで行ってみようと思っていた。

 この西の森は奥に行くほど緑が深くなり獲物の数も増える。ということはおのずと戦闘回数の増えるので入口付近での狩りに慣れたエリックは頃合いだと思いっていた。


 いざ西の森入口付近より先に進んでみると、確かに徐々に森が深くなっていくのが分かった。

 何より日の光が木々によって阻まれ微かに漏れる灯りもこの広い森では照らし切れてはいなかった。

 進むにつれ薄暗くなっていく視界にエリックは久々の緊張を覚えていた。


(――思ったよりも薄暗いな)


 そう感じた時奥の方から何かの鳴き声が聞こえてきた。

 独特な鳴き声に大人たちから聞いていた話に似たものがあった。

(この声はたしか猩々たちのものだ・・)

 猩々は基本群れで生活しているため一人でいるときに出くわすとまず勝ち目はない。

 なのでエリックは鳴き声とは別の方角に進むことにした。


 薄暗いとは言っても松明や灯りの魔法を使う程でもないため油断さえしなければそうそうピンチに陥ることはない。

 まあエリックの場合まだ魔法は発現していないため使うことは出来ないのでどうしようもないのだが。かといって森の中で火を扱う松明を、しかも一人の時に使うなど戦闘だったり手放した時に山火事になる恐れもあるのでもってのほかだった。


 これも一種の鍛錬だと思い気持ちを引き締めて(あらた)に進んでいくと、角ウサギを狩り終えたリッカーの集団にあった。四体いるリッカーのうち二体は角ウサギの突撃を食らったのか肩や足を怪我していた。初めての狩りの日以来、三体以上の集団で行動しているリッカーには出会っていなかった。

 森が深くなったことも関係しているであろうそれに気づき、草むらの中で身を潜めながら観察していたエリックは周囲を確認してから脳内で作戦を立てていた。

 リッカーたちにとっては角ウサギは単なる餌でしかないため雑に石のナイフで皮を剥ぐだけで他はすべて捨てていくことをここ何日か同じ状況を見たため知っていた。さらに石のナイフではかなり手古摺るようで中々うまくいってないのも見ていた。そんな経験からリッカーたちが自分たちの目の前に転がる二つの死骸に群がるのをじっと待っていた。

 さっそく皮を剥ぎだしたリッカーたちを見てエリックは右側の茂みが使えると思いゆっくりと移動しながら奴らの背後を取り、まず肩を怪我しているリッカーに狙いを定めそのあと元気のある二匹を相手取ろうと決めた。足を怪我している奴に関してはそんなに素早くは動けないと踏んで最後に仕留めると決めた。

(よし・・このこれでいこう!)

 脳内で作戦を立て終えたエリックは慎重に行動を開始した。


 まず右の茂みに移動を終え、背後をとったエリックは短刀をしっかりと握り素早く飛び出した。


 ―――ッシ、ザシュッ!!

 ―――ッ!!ゥギャギャア・・・ドサッ


 右側にある角ウサギの死体を解体していた二体のリッカーのうち怪我のある方に短刀を振りぬいた。背中を大きく抉られたリッカーは前のめりに倒れ悲痛の声を漏らした。

 敵の数が多いため少しでも早く倒さないとこちらが不利になる、そう判断したエリックは一体目を切った勢い其のままに横にいた剥ぎ取り中のリッカーの首を横一線で切り飛ばした。


 ここの所鍛錬の成果か、はたまた狩りで獲た経験か明らかに以前とは違う素早い動きと反射で短刀を振れていた。さらに心なしか力もついてきて前までは骨が邪魔して振りぬけなかったリッカーの首も今こうして切り落とすことが出来ている。

 そんな自分の成長を喜びながらもまだ息の合った最初の一体目に止めを刺した。


 これでエリックとリッカー、はじめは四体いた奴らも残すところ無傷の一体と足の怪我で思うように動けない奴合わせて二体まで減っていた。

 仲間がやられたことに怒り憤慨する二体にエリックは勤めて冷静に状況を見ていた。

 奴らと自分の間には少し距離があるため、突っ込んでも躱される可能性がある。

 そこで相手の方から怒りに身を任せて突っ込んでくるのを待った。片方は足を怪我しているため二体同時で来ることはないと判断したのである。

(・・よし!来たっ!!)

 その予測通り無傷のリッカーが怒りを露わに木に蔓で巻き付け石斧にした武器を手に襲い掛かってきた。あまりにも直線的な動きにエリックはにやりと笑い軽々とサイドステップでよけ後ろに回り込み胴体を突き刺した。


「ギャギャア!!・・ブオンッ!ガツッ!」


 ――ッス、ドスッ!!


 あっけなく絶命した仲間に混乱しながらも必死に逃げようとする最後の一体を素早く処理してエリックは勝利を収めた。


 自分の思い通りに動く体と相手にここ最近の鍛錬の成果と自らのレベルアップを感じつつ勝利の余韻に浸った。


 今では一度の戦闘ごとに緊張したり息をするのを忘れたりなど、無くなったため今回もそれほど疲れもなく済んでいた。

 一息ついて早速剥ぎ取りを行う。以前ハンナさんから貰ったナイフで処理していく。

 もう何度も使っているこのナイフは、見た目は普通だが造りがちゃんとしているためか、刃の通りがよく牙や角を切っても全く刃こぼれしたりしない。

 そんな様子に本当にいい貰い物をしたなと感謝の念が尽きなかった。


「これで良しっと。あと、こいつらの取り残した角ウサギの素材も貰っとこう。まだ早いしもう少し狩りたいな、そのあとハンナさんのところによって帰るか」


 囁きながら予定を立てたエリックは樹々の間から見える空が朱色に代わるまで角ウサギとリッカーを何体か狩り続けるのだった。



  こうして今日の狩りを終えカルメ屋に本日の戦利品を持って行った。


「こんにちはー!ハンナさんいますか?」

「はいよーらっしゃい、ってエリックかい。もうそろそろ来る頃だろうと思ってたとこだよ」

「はい!これが今日の戦利品です!」

「ハイハイ、精が出るね~ぇ、どれどれ」


 最近では見慣れた光景となったこのやり取りにハンナも慣れた手つきでポーチを受け取ると中身を確認し始めた。いつもより数の多いそれを見てハンナはエリックにこういった。


「エリック、あんた西の森の奥に行ったね?」

「えッ!?わかるんですか?」


 見事に当てられたエリックは驚いてそう聞き返した。

 いつもより多い素材でハンナさんを驚かせようと思っていた矢先、しっぺ返しを食らった気分になった。

 そんなエリックの表情を見て、


「ああ、分かるさ。あたしが何人の客と接してると思ってんだい。昨日より明らかに素材の量も質も上がってるからね、それに最近毎日あんたの顔みてんだ何か企んでるのはすぐにわかったよ。」


 と言って、にやりと笑うハンナにエリックは悔しがった。

 初めて会った日からほぼ毎日顔を合わせているこの二人はいつの間にかこれほど仲が深まっていた。


 確認が終わったハンナはロブの入った袋をエリックに渡し続けてこう言った。


「はい、今日の買取り分。」

「ありがとうございます!」

「それと奥に行ける様になったエリックに一つ忠告だよ」

「な、なんですか?」


 また、叱られるのかと身構えたエリックにハンナはこう続けた。


「西の森の奥で最近変な鳴き声を聞くって話を耳にしてね、独特の鳴き声が特徴の猩々どもと似てるようだが気になって見に行った木こりの話じゃかなりでかかったらしい。明らかに異常なそれにいま村の男たちで討伐隊を組んで狩りに向かってるがどうなったかはまだわからない。だからあんたもしばらくは奥に行くのはやめときな!資質はあるがいまのあんたじゃ到底太刀打ちできないだろうからね。」


 そういわれてエリックも確かにと思った。いくら狩りに慣れたからと言ってもそれは小型の獣を数匹相手どれる程度であまりにも大勢いたり、中型の獣はまだ狩ったことすら無い。そんなエリックに大型の、しかも頭が良く群れで動く猩々どもの相手など到底できるわけがない。いつ倒されるかはわからないといっていたのでしばらくは無理そうだった。

 しかし、そうなるとこれからやることが無くなってしまう。

 そんな考えを読み取ったのかハンナは思案するエリックに呆れた風にこういった。


「まあ、エリックのことだからどうやってこれから剣の練習しようか考えてんだろ。無理に森に行かれても困るからね、あんたに頼みがある。」


 そう言って何やら絵の描いた紙を差し出すハンナにエリックは尋ねた。


「頼み?なんかして欲しいことでもあるんですか?」

「ああ、この紙に書いてある絵の通りの薬草を取ってきて欲しいんだ。村の医者がこれから作れる薬を切らしたみたいでね、西の森から少し離れたとこにある渓流に群生地があるからとってきておくれ。」

「そうだったんですね、俺にできることなら全然やります!」

「よし、いい返事だ。ならこの紙と簡単な地図を描くからもってお行き。数はこの籠いっぱいもあれば大丈夫だろうから行く前にうちに寄りな。渡すから」

「はい、分かりました!」


 そう言って明日からの予定も決まったエリックは地図と紙をお金と一緒にポーチに入れ、ハンナに明日の午後からくることを伝えて店を後にした。


 家族以外からの頼まれごとに興奮しながら新たな探索場所に、期待に胸を躍らせながら帰路に就いたのだった。



<本日の戦果>

リッカー9体/角ウサギ3体と取り残し2体


【リッカーの牙】36個×10ロブ=360ロブ

【リッカーの頭こぶ】9×10=90

【リッカーの核石】9×100=900

【角ウサギの角】5×50=250

【角ウサギの毛皮】3×50=150

【角ウサギの肉】3×50=150

【角ウサギの核石】5×100=500


【合計2,400ロブ】






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ