戦利品と雑貨屋
西の森、村から少し進んだところにあるその森で三体のリッカーを倒したエリックは初めての戦闘とその緊張からか近くにある樹にもたれかかるようにして座っていた。
目の前にはつい先ほど倒した三匹の獣の死骸がある。
直ぐに他の獣が寄ってくるということはないが、あまり放置すると素材の質も下がり良く無いためそろそろ剥ぎ取り処理をしてしまわないと行けない。
徐々に戦闘の興奮から覚めてきたので疲労を感じる身体を持ち上げ処理に入った。
普段からしっかりと鍛錬を積んでいたためそれほどしんどくはないはずだが、初めての戦闘ということもあり気持ち的にも疲れは感じていた。
そんな中リッカーの牙とこぶをはぎ取る。以前シドから剝ぎ取り方は習っていたため、手古摺ることなくできた。
次に身体の中心、胸あたりに埋まっている核石を取り出す。
核石というものは人以外の大体の生物に存在していて様々なことに使用できるので人類にとっては必須の資源となっていた。
そのため他の部位の素材よりもいい値段で売れるのだった。
そんな核石にもそれぞれ属性が存在したりもするが今はそれは置いておいて、こちらも難なくとりだしたエリックは他の二体も同様に処理していった。
初めての戦利品は以下のようである。
≪リッカーの牙12・リッカーの頭こぶ3・リッカーの核石3≫
人生初の成果に胸躍らせるエリックはホクホク顔で先ほどの疲れなど何処へやらといった風に勝利を噛み締めていた。
日が沈むまでもう少しあるので、戦利品を腰に巻いたポーチにいれ充分に休憩を挟んでから再度、探索を再開するのだった。
しかし探しても探しても次の獲物は見つからず、日も落ちかけ諦めかけたところ今日森に入ったときにみたのとは別であろう角ウサギ二匹が草をむさぼっていた。
二度目の戦闘からしばらく時間も空いたため今度は緊張もそれほどなく、落ち着けていたのでまず周りを確認した。
角ウサギは一撃離脱を得意としているためどうしても二匹同時は難しくなってくる。
そのためエリックは先に周囲の環境を把握して逃げ場を最低限予測しておけば対処できるのではと考えた。最初の戦闘での失敗がここで身になっていた。
右手には大きな岩がありさすがの角ウサギといえど越えられはしないと踏んだエリックは、まず岩とは反対側に位置する角ウサギを仕留めてから右側の角ウサギを引き寄せつつ岩と挟んで逃げづらくしようという作戦を頭の中で考えた。
さっそく実行に移すために左側に位置取りした。
今回は緊張からくる焦りや手の震えもないため落ち着いて初撃を放つことが出来た。
一気に飛び出ししっかりとした踏み込みから横一線に振りぬいた短刀は見事に角ウサギを一発で仕留めた。
その直線状にいたもう一匹の角ウサギもこちらに気づき、地面をけって跳びかかってきた。
ステップの無い単調な動きだったためエリックはそれをあっさりと躱しすれ違いざまに短刀を振りぬいた。
腹を切り裂かれた角ウサギはその勢いのまま地面を転がり息絶えた。
こうして本日三度目の戦闘も無事エリックの勝利という形で終わった。
いつもの動きが出来たことに満足しつつ日も暮れ始めていたため、余韻に浸るのもそこそこに剥ぎ取りを始めた。
こうしてエリックは今日一日の成果を手にまた広場にある市場に素材を売りに行くのだった。
市場に来たエリックはあらかじめ聞いていた素材が売れそうなお店を探しながら歩いていた。
夕飯時ということもあり出店には様々な料理が並びお祭りの様相を呈していた。村人にとっては月に数度あるかないかの事なので、みんな待ってましたとばかりに行商人のキャラバンが来たときはこぞって飲み食いするのだった。
そんな市場のいい匂いに今日一日疲れた体がエネルギーを求めて悲鳴を上げていた。
だがエリックには屋台に並ぶ料理を買う金など持ち合わせていないため、無くなく通り過ぎた。
そうしてようやく誘惑から抜け出した先に目的の店があった。
ベルト―ラ村唯一の雑貨屋<カルメ屋>でそこは狩りで獲た素材や森からとれた採取品などを買い取ってくれるいわば何でも屋に近い店だった。
初めて訪れるカルメ屋でエリックは、カウンターに頬杖を突く店主であろう女主人に自信満々に今日の成果を突き出した。
「おばさん!これ、買い取りおねがい!」
入るなりそんなことを宣う少年に女店主はこういった。
「おいガキんちょ!誰に向かっておばさんなんて言ってんだいっ!嗚呼ん!?口の利き方教えてやろうかっ!?」
そういう女店主ハンナは浅黒い肌に腕には如何にも修羅場を潜ってきたような傷があり、顔は二十代後半とは思えないほど凛としていて髪を後ろで一つにまとめていた。
怒鳴られてすっかり縮み上がったエリックは、今日人生初の戦果を挙げて浮かれていたこともあり勢い余って言って仕舞い酷く後悔していた。
そんなエリックの様子にハンナは呆れたように溜息を吐きこう続けた。
「いいかいガキンチョ。あたしの名前ハンナ、年もまだ二十代でおばさんなんかじゃない!分かったらあんたの名前も教えな。それと初対面の人には敬語使えって教わらなかったのかい?」
こう言われたエリックはおずおずとこう返した。
「え、えとエリック・・です。。すっ、すいませんでした。」
精一杯の返しに満足したのか、それとも端から気にしてなどなかったのか嘘のように表情を一変させハンナは笑いながらこう言った。
「ハっハっハwまあそう縮こまるなよ!別に取って食おうってわけじゃない・・・でエリックと言ったかい?さっき言ってたやつ見してみな」
そういわれ持っていたポーチを素直にカウンターの上に置き中身を広げた。
それを見たハンナは一つ一つ手に取りながら素材の状態を確認するようにじっくりと眺めた。
この村に帰るころには完全に解けていたエリックの緊張の糸もここにきて新たに張りなおされていた。
神妙な面持ちで鑑定の結果を待つエリックは次第にソワソワしてきていた。
待つこと二分、素材を調べ終わったハンナはにやけながらこう言った。
「このリッカーの素材、牙もこぶも綺麗に処理されてるしこっちの角ウサギの角もいい状態だ。核石もちゃんとあるね。けど、この角ウサギの毛皮は大雑把に剥ぎ取られてて処理が甘い。これだとそんなに大した値段にはなんないね。まあ肉の方はどんな見た目でも大して変わらないからいいが、見たところあんたが狩ってきたようだけど剥ぎ取り用のナイフなんかは持ってなかったのかい?」
そう順に説明された戦果の内訳に売れないといわれたようで一瞬ひやりとした。
確かにエリックは今日初めて短刀を買ったばかりでそれ以外ではおもちゃの短剣しか持っていなかったため仕方なく短刀で剥ぎ取りを行うしかなかった。牙やこぶ、角は何の問題もなく処理できたがさすがに毛皮と肉に関してはそうもいかなかった。なんせ刃の幅が大きいため細かい作業にはどうしても不向きだった。それを見透かされたエリックは申し訳なさそうにこう言った。
「き、今日はじめて狩りに行って武器もこれしか持ってなかったから・・ごめんなさい。。」
すっかり委縮してしまったエリックはもう怒られていないにも拘わらず何故か謝ってしまった。
その言葉に溜息を吐きながらもハンナは
「別に怒っちゃいないよ。逆に初めてでこんだけ出来てりゃ上等だよ。他の奴らは狩るどころか装備無くして帰ってくる奴もいるくらいなんだ。そういう意味じゃあんたは向いてるよ!」
そういった。
続けてちょいと待ってなと言い、カウンターの後ろにある倉庫に入っていき小さな鞘に収まった剥ぎ取り用のナイフを持ってきた。
「ほれ、やるよ!餞別だ、それとさすがにあたしも大人げなっかたしね。そのわびさ。」
言いながらカウンターに置かれたそれをエリックの方に押しやる。
「それとこれ、今日の買取り分の金額は全部入ってる。」
そう言って渡された包みには2,000ロブ入っていた。それを見てエリックは
「えっ!?こんなに??いいんですか?」
ナイフも頂いた手前、明らかに多い買取り金額にエリックは戸惑った。
さすがに貰いすぎなのでナイフだけでも購入するというと、
「なあにガキが偉そうに遠慮なんかしてんだい!貰えるもんは貰っときな!それと金額に関してもあたしからあんたへの投資みたいなもんさ。その代わり次も何か狩ったらうちにきな、それでチャラだ。」
といわれエリックは仕方なく受け取ることしかできなかった。
とは言え内心、思いがけない収入と自分にここまでよくしてくれたのが嬉しくて次からも絶対このお店に来ようと固く誓うのだった。
その後はしっかりと感謝と次回も来ることを告げ店をでた。
帰り際誘惑の香りに惑わされつつも、日も半分ほど沈みかけていたので一直線に家に向かった。
案の定、家の前で待っていたサラにどこに行っていたのか聞かれ言い訳をしていたが腰に下げた動かぬ証拠がありあっさりとバレ、こっぴどく説教されたのだった。
こうしてエリックにとっての激動の一日の幕が閉じられたのだった。
〈本日の戦果〉
【リッカーの牙】12×10ロブ=120
【リッカーの頭こぶ】3×10=30
【リッカーの核石】3×100=300
【角ウサギの角】2×70=140
【角ウサギの毛皮】2×15=30
【角ウサギの肉】2×100=200
【角ウサギの核石】2×100=200
【小計】=1,020ロブ+おまけ
【合計 2,000ロブ】