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Elgard  作者: 志門
第一章 英雄の目覚め
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初めての買い物と実戦

 シド達が旅立ってから約半年、ベルト―ラ村はすっかりいつもの雰囲気に戻っていた。

 広場では相も変わらず悠然(ゆうぜん)(そび)える大樹が村人たちを静かに見守るそのその姿はさすがの貫禄(かんろく)といえる。


 今村では月に何回か訪れる行商人のキャラバンが来ていた。

 村人たちは広場に作られた市場で広げられた商品を見ながらそれなりの賑わいを見せていた。

 そんな折、広場に向かって勢いよく走る少年の姿があった。

 一目散に自分の出店に向かってくる少年に、声掛けをしていた店主のおやじは何事かと目を見開いた。

 息も絶え絶え(たえだえ)に店の前まで来た少年はおやじに向かってこう言った。


「おじさん、俺に剣を売ってくれ‼」


 そう来るなりまくし立てる少年、最近五歳の誕生日を迎え父親からおこずかい(もら)っていたエリックは店主を見てそういった。


 エリックはシドとの約束のこともあり、丁度自由に使えるお金が手に入ったことから前々から欲しかった実物の剣を買いに広場に来ていた。

 次に商人のキャラバンが村に来たときは絶対に買おうと決めていたため、ほかの店にはわき目も()らず武器やだけ目指して走ってきていた。

 実際のところ村にも鍛冶屋(かじや)はあるが、行商人が持ってくる武器の方が安くて種類も豊富(ほうふ)なため自分に合ったのが選べることをエリックは大人たちの話で聴いていた。


「坊主、そんなに急いでどうした??金はもってんのかい?」


「ああ、これで買えるやつおしえて!」


 そう言って(こし)の袋をおやじに突き出した。


「どれどれ、、三千ロブか・・それならここら辺の(たる)に入った武器ぐらいだな。」


 おやじの言った樽に入った武器は、見た目は普通だが見習いの鍛冶師が練習のために作成したものばかりであまり店には置けないものをこうして行商人に買い取ってもらったものである。

 しかしそんな安物だからこそエリックのお子使いでも手が届いた。

 安物といえどつくりはそれなりなので鍛錬(たんれん)や軽い狩りなどでは壊れない。

 そんな中から選べと言われたエリックは予想通り帰ることに安堵しながらも、さっそくいくつか手に取ってみるのだった。


 樽の中にはいろんな武器が入っていた。短剣や長剣、自分の背丈ほどもある魔法の杖、無駄に装飾(そうしょく)された無骨(ぶこつ)な曲剣、手斧にハルバード、狩り弓に短弓。

 今のエリックにとってそのどれもが宝の山に見えた。

 なんせ初めて買う自分の獲物であるため心躍らない訳がない。


 そんないくつかある武器の中からある一つの剣に手が向いた。

 今までいくども振り回してきたおもちゃの短剣と同じくらいの長さの片刃の曲刀(きょくとう)だった。

 そう刀である。この辺境の村ではめったに見ることの無いつくりのそれにエリックは興味がわき、勢い其のまま手にしてこう言った。


「おじさん、これ貰っていい?」


「おっ!短刀かい、また(くせ)のあるもん選んだな~金は貰ったから好きにしな。ただあとから泣きついても変えてはやれんからな!ワハハハ」


 そう冗談交じりにいじわるく言うおやじには軽く礼を言う程度で、エリックは早くその剣を試してみたく来たときと同じく駆け足で家に向かうのだった。


 ここ数か月シドとの練習もなくなったため一人でできる様にと父さんから庭に木人を立ててもらいそこで練習していた。

 その他にも最近では西の森でこっそり狩りの真似事なんかもしていた。さすがに子供一人は危険なためバレない様にこっそり行うようにしていた。といっても、剣が手に入ってからの予行演習とここら辺では大して凶暴な獣は出ないため誰かに見られても大して怒られたりはしなかった。

 そもそもこの世界では数々の冒険譚(ぼうけんたん)から子供のうちに修練を積むことが良しとされているため、獅子の子落としの様に経験を積ませたり黙認(もくにん)する人が多かった。

 門限として日が沈むまえには帰ることになっていた。

 ただ、父親からもらったおもちゃの短剣では対してなんも出来ないため早く実物の剣か欲しかったのだった。


 それからというもの、本物の剣を手にしたエリックは鍛錬に明け暮れた。

 まず買ってきた剣の扱い方がわからなかったので試しに背の高い草などを切ってみる。思いのほかよく切れるそれに驚きはしたものの最初の切り口がどうもスムーズにいかないため頭を悩ませていた。


(そういえばおじさん、癖のある()って言ってたな。)


 何と言ったか、その剣の名称を思い出しつつ再度振ってみた。

 集中できてなかったため腰が引けた感じになり奥から手前に戻すようになってしまった。ところがこれが良かったのか先ほどよりも明らかにスムーズに刃が通った。

 シドから資質があるといわれたように今までの練習からなんとなくこれが正しい扱い方なのだと閃いたエリックは、ようやく練習に集中できるのだった。

 さすがに木人相手は、父さんがせっかく作ってくれたというのもあり気が引けたので森に行ってみることにした。


 西の森では先ほども言ったようにそれほど凶暴な獣はいなく、出てくるのは警戒心(けいかいしん)の高いシカや角ウサギ、キジの類の鳥や見た目醜悪(しゅうあく)な緑色のリッカーと呼ばれる小鬼、手足の長い猩々(しょうじょう)くらいである。


 猩々あたりになってくると大型のものも居たりはするがここら近辺では出てこないので大丈夫だそうだ。

 リッカーや角ウサギは人を襲ったりするがたいてい子供でも勝てるようなレベルで弱いので大人たちも大して心配するようなことではなかった。それほど魔力によりこの世界の人は強靭(きょうじん)だった。


 さっそく森に足を踏み入れると村とは違った新鮮な空気が胸いっぱいに広がった。

 獲物を探しながら以前から予習していたように草や木に登り隠れながら探索を開始した。


 森をしばらく進むとかすかに前方の草むらから音がしたような気がした。

 ゆっくり近づくにつれて、物音の正体が角ウサギだと判明した。

 角ウサギは、とても素早くジャンプ力もあるため人に攻撃してはすぐに逃げるという厄介な獣だった。角にさえ気を付ければ子供でも狩れるといわれてはいるが、エリックにとっては初めての戦闘なためいくら相手に気づかれてなかろうと緊張で手が震えていた。


(よし!みつけた。落ち着け、だいじょうぶ、いっぱい練習したんだ。)


 そう胸の内で言い聞かせながら静かに深呼吸をして飛び出した。


 ――ヒュン


 草から飛び出すときの物音により角ウサギに気づかれ、(わず)かによけられてしまった。

 緊張により踏み込みも少し浅くなってしまい武器も短刀というリーチの短さから初手を(のが)してしまった。


 いきなり現れた敵に角ウサギは特有のステップを刻みながら勢いよく上にジャンプしエリックに角を向けて落下しながら反撃してきた。

 初手を外したショックを抱えながらもなんとかそれを横に避けた。

 角ウサギは反撃の勢いのまま地面をけって逃げてしまった。

 (くや)しがるエリックだったが逃げられたものは仕方がないのでまた次の獲物を見つけに行くのだった。


 そうこうしているうちに次の獲物が目の先に現れた。

 リッカーだ。やつらも丁度(えさ)を求めて探していたのだろう三匹でギャアギャア騒ぎながら歩いていた。

 完全に意識の外にいたエリックは先ほどと同じ(てつ)は踏むまいと、長めに深呼吸をし手の震えが収まるのを確認してから短く息を吐いて飛び出した。


 ――っシ、ザクン...


 斜め下から切り上げる様に振られた短刀が今度は見事に最後尾を歩いていたリッカーに命中した。

 背中を大きく切り()かれたリッカーは前のめりに倒れ息絶えた。

 それに驚いたほかの二匹は慌てて手に持ったこん棒で反撃した。

 あまりにも拙い(つたな)動きに、シドと練習していたエリックはあっさりとそれを避けてしまった。

 そのまま流れで二匹目の首を落とし最後に向かってきたリッカーに対して蹴りを放ち仰向けに倒れたところ止めに胸に短刀を突き刺した。


 初めての戦闘に息することを忘れたのかとどめを刺した後大きく息を吐いた。



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