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Elgard  作者: 志門
第一章 英雄の目覚め
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約束と別れ

少し主人公より目立つキャラの回になってしまいましたがストーリーに重要なのでかかせてもらいました。少し長いですがどうぞよろしくお願いいたします。

 大樹の村ベルト―ラに冒険家の一団が訪れてから一年が経とうとしていた。


 エリックは、シドの仲間たちと過ごすうちにこの一年でかなり打ち解けてきていた。旅団の人たちも子ども相手でもよくしてくれて村の人からは慕われていた。かくいうシドも今では村中の子ども相手に取っ組み合いや本気になってかくれんぼをしたりと相変わらずだった。そんなある日旅団が宿泊する宿、<大樹の盃>にいつものように遊びに行くとシドの仲間たちからこんな話を聴いた。


「――ところでエリック、なぜ魔術師や剣豪たちがこぞって冒険家になるか知ってるか?」


 こう話す男ムジは、シドの旅団の斥候役を務めておりいつもバンダナに体全体を覆うローブをまとっていた。短く刈られた髪に顎鬚(あごひげ)(たくわ)えたいでたちでいつもエリックに色んな話を聴かせてくれる。


 酒を片手に唐突(とうとつ)にムジからそんな話を振られたエリックはすぐに答えることが出来ず分からないという仕草でムジに続きを諭すのだった。


「それはな、ある冒険家たちの話から始まるんだが――」


 と語りだすムジの話にエリックも聞き入るのだった。



 ――ある冒険家たち、今でもその伝説は語り継がれ様々なところで物語や詩となって登場する。そうエリックも依然(いぜん)母から聞いたエルドリック・ガーウィンの所属していた旅団の話だった。

 今から百五十年前、エルドリックは田舎町から冒険家になるべく王都にある魔法省を訪れ仲間を探していた。冒険家は複数人で組んだ方が安全かつ効率も上がることからクランを作ることが推奨(すいしょう)されている。そのため、魔法が主なこの世界では魔法省が冒険家の寄り合い所として直々に募集や宣伝などを行っていたりする。エルドリックもそれに(なら)い良い募集条件の仲間を探していたのだった。たいていの人はここで見つかるのだが彼の場合は目指す目標が高く、他の新人たちとは違い(するど)く燃える様に(たけ)った()をしていたため中々いい仲間に出会えず足止めされていた。諦めてソロで探索者になろうと魔法省を後にし王都観光に洒落込(しゃれこ)んでいるとある酒場に辿り着いた。景気付けに一杯吞んでからこの王都を後にしようと敷居(しきい)(くぐ)ってカウンターに座ったところ、ある人物に声を掛けられた。


「お前さん、その恰好(かっこう)してるってことは田舎から出てきたばっかの冒険家志望かい?」


 そういう男はこの王都でも目立つ白銀の髪とエルドリックと似たような恰好をして同じような瞳をしていたため、つい一杯だけのつもりが夜が明けるほど話し込んでしまっていた。そうこれがエルドリックにとって最初の仲間であり生涯の相棒であり右腕となる人物との出会いだった。彼の名前はギルバート・フルヴェスター、そうシド・フルヴェスターの曾祖父(そうそふ)である。二人はこの出会いの勢いのまま次の日にはクランを結成するほど息の合う同志といえた。

 こうしてこの王都から、伝説ともなった黄金郷アジャ・イムカへ旅立つ最初の一歩目が踏み出されたのだった。

 黄金郷アジャ・カムイ、それはその名前をかたるだけで常に馬鹿にされ白い目で見られてきたものだった。誰が言い出したのか、それは一時一世を風靡(ふうび)した話題だったが次第に誰も辿り着くことの無い架空の話となった。故に、未だその名前を出すだけで「あるわけねーだろ、そんなもんw」「まだそんな法螺(ほら)信じてんのかwうけるわww」という始末である。

 そんな馬鹿みたいな幻想を信じて彼らは共に、数々の試練(しれん)苦難(くなん)を乗り越え、数多(あまた)の大陸を彷徨(さまよ)い時には壮絶なケンカをしては旅路(たびじ)で出会った仲間たちに(いさ)められ、強敵との死闘では背を預け合い、同じ(かま)の飯と(たる)いっぱいの酒を()()わした。そんなエルドリックのクランはすさまじい勢いで人類が未だ到達したことの無い領域(りょういき)を進み続けついに目的の場所、【黄金郷アジャ・イムカ】に辿り着いたのだった。

 一説によれば、黄金郷には古来よりそこを守護する巨神兵(きょしんへい)アルバトスという巨人兵がおりエルドリックたちに立ちはだかったそうだ。彼らは数多くの試練を潜り抜けてはきたが、そのどれもが比にならないほどアルバトスとの闘いは熾烈(しれつ)を極めた。このままでは厳しいと判断したエルドリックは自分とギルバートを残しそれ以外の者は戦線離脱(せんせんりだつ)するよう指示をだした。残った二人は時間稼ぎという名目で必死に闘い死闘を(えん)じていた。しかし、彼等も苦難や試練を幾度(いくど)も乗り越えてきたからか次第にアルバトスの動きにもなれいつもよりも(たく)みに言葉も発することなく連携(れんけい)が取れ、力の差が(ちぢ)まるどころか上回り始めていた。そんな二人の戦闘を遠目からみていた者たちはまるで二匹の獅子(しし)が狩りをしているかの様に錯覚(さっかく)したという。そのことから物語では彼ら二人を<黒獅子のエルドリック><銀獅子のギルバート>と呼ばれクランの呼び名も二人の息の合った闘いぶりから<黒銀の天秤>となり後世まで語り継がれることとなった。そしてついには巨神兵アルバトスをたった二人で倒してしまったのだ。

 信じられないほどの死闘を演じて見せた二人はボロボロの体を引き()りながらも互いにこぶしを合わせ勝利の余韻(よいん)を嚙み締めるのだった。その日からは来る日も来る日も(うたげ)に明け暮れ、生きて仲間と過ごせる喜びを味わいながら帰路(きろ)()くまでの間はしゃぎ回ったのだ。それもそのはず、ここまで来るのに二十と余年苦楽を共にした仲間とこの誰も見たことの無い絶景を(さかな)に酒を吞めるのだから。

 この戦いから数年、帰還した二人は文字通り伝説として、人類初の偉業(いぎょう)を数多くなした冒険家として語り継がれた。

 この話が世界中を瞬く間に駆け巡り、噂が噂を呼んで自分も黄金郷に行けば宝の山を手にできる、富も名声も思うが(まま)という風に広がり、一気に時代の流れが確変し激動の時代へと突入したのだった―――



 ――という経緯から今も数多くの能力(ちから)あるものが冒険家になるのだとムジは言った。


 この話を興味津々で聴いていたエリックは確かに自分も居ても立ってもいられずソワソワしてきていた。


「すごいだろう!?うちの団長は?なったて英雄の末裔(まつえい)様なんだからな~ワハハハハ」


 ムジは自らの団長をこうやって物語に絡めてからかうのが好きだった。シドもいつものことというのもあるがあながち間違ってもいないためいつも軽く文句を言うくらいしかできなかった。


「どうだい、エリックも冒険家になりたくなったか??(笑)」


「ああ!シドってすごい奴だったんだな~はやく大きくなっておれも冒険家になる!!」


 そういわれると悪い気もしないシドはこうしてまた身内話を止めれないままながされるのだった。


 シドの旅団と過ごすうちにエリックも言葉遣いが変わってきていた。

 それもそのはず、もうすぐ五歳の誕生日を迎えるエリックは明確に自分も彼らの様になりたいと思うようになっていた。


 この日、エリックはムジから聞いた話で頭がいっぱいになり眠るときもずっとそのことばかり考えてあまり眠れなかった。


 このようにしてエリックはシドたちから様々なことを教わった。剣術や魔法についても教わり自分が成長していくにつれて段々とこう思うようになった。


 シド達と一緒に冒険したい―――


 だがそれはあっさりと断られてしまった。


 まだあまりに幼すぎるためシド達には付いて行けないという理由からだった。

 ならばと、エリックはシドにいつもやってるチャンバラで一本取れたら連れて行ってと約束を交わしてみた。すると、シドは大笑いしながらも快く了承してくれた。


「ハっハっハっハっハっ!!!面白れぇ!のったぜその話!」


「ちょっと!なにゆってんのよあんた!?」


「そうですよっ!そんなことを言って子ども相手に本気なんか・・・」


 そういう二人の女性はシドの旅団で魔法での火力を担当するロゼ・イーシャとヒーラー役を務めるミシェル・ヘルンだった。シドはミシェルの話を遮りながらこういって、


「わぁーってるってそんなこと。大丈夫だ心配すんな」


「誰もあんたの心配なんてしてないわよ!子供心を弄ぶなっていってんの!」


 また、ロゼに叱られるのだった。


 シドは言い出すと聞かない節があるので泣く泣く二人も引かざるを得なかったが、もうすぐ次の旅も始まるため仕方なく見守ることにした。


 だが結果は(あん)(じょう)シドの勝ちだ。昼から行われたチャンバラ勝負は日が暮れるまで続いたがエリックは一本も取れなかったのだ。

 それもそのはず、なんせフルヴェスター家は伝説に名を(のこ)す一族である。つまり、流れている血も紛れもない偉人の者であるためその資質は計り知れず、代々受け継がれてきた魔法騎士の家系であるため剣の腕もこの大陸では五本の指に入るほどである。

 そうこの世界での血筋というものはそれほどに重要なのである。(まれ)に血筋に関係なく突出した能力を持つ者も出てくるが世間の常識ではそうとされている。


 まあいずれにせよ、五歳未満の少年が大の大人に一本といえど取るのは厳しということだ。シドもさすがによその子を勝手に連れまわすわけには行かないのである程度力を使って勝負していた。


 一本も取れず負けたことが悔しくて素直には認められず泣きじゃくるエリックにシドはこう言った。


「エリック、お前には見込みがある!だからそう落ち込むな。今すぐ俺らと来なくったってお前にはいくらでも時間がある。その間に腕を(みが)け!そしてお前の信頼できる仲間を見つければいい。俺らは先に行ってお前が来るのを待っててやる!そん時まだお前の気持ちが変わらねえならまた勝負してやる。」


 (さと)すようにいうシドは落ち着き始めたエリックをみて返事を待った。


「・・・ぇっっぐ、ぅうっ・・ぐすっ、、ほんどに?ヤグそぐだからな゛!!!」


「ああ、嘘じゃねぇ。約束は守る。絶対だ、なんたって俺は英雄の末裔様らしいからな!」




 ――シドとの勝負の日から二か月後、シドの旅団が旅立つ日が訪れた。


「んじゃ、世話になったな村長。また旅が終わったここに戻らせてもらうよ。まあ何年かかるかわからねーがここは居心地がいい・・サラさんにディルックさんも、世話んなったな。」


 そう別れも挨拶を告げるシド達にエリックは必死に涙をこらえていた。


「エリック。あの約束はいつまでも忘れねぇ。だからお前も早く俺らのとこまで来いよ!」


 そう言って乱暴にエリックの頭を撫でまわすシドに堪えてた涙が止まらず遂に溢れ出した。


「ぐすっ・・うん゛分かった。。」


 そう精一杯振り(しぼ)ってそういったのだった。


 こうして大樹の村のみんなに見送られながらシド達は一年半の時を過ごしたベルト―ラ村に別れを告げ、大手を振ってまた新たな旅へと踏み出したのだった。




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