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Elgard  作者: 志門
第一章 英雄の目覚め
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英雄への憧れ

 そよ風に吹かれ優雅に枝木を揺らすその姿は、そこに住む人々を見守る母のようでこの村の象徴として、今日も悠然(ゆうぜん)(そび)えていた。


 そんな大樹のある村ベルトーラで生まれたエリックは、三歳の誕生日を迎えていた。


「エリック、誕生日おめでとう!!ほら、父さんからのプレゼントだぞ~」


「え・・ホント!?なになに??」


 そう言って父さんから渡された布に包まれた長さ60センチほどのプレゼントを抱え、ワクワクしながら括られた紐を()くと現れたのは(さや)に収まった子供用のおもちゃの短剣だった。


 エリックは目を見開きながらこう言った。


「うわぁ!剣だ!!ありがと、とうさん!」


「おう!其れがあればエリックも立派な英雄様だな!ハッハッハ」


「うん!これでいろんなところをぼうけんするんだ!」


 そう言って鞘から抜いたおもちゃの短剣を眺めながら嬉しそうに部屋を駆け回り、さっそく英雄ごっこに投じるエリックを見て母親のサラは、


「こぉら!部屋の中で振り回さないの!危ないでしょっ!」


 興奮しきった我が息子を呆れながらも叱るのだった。


 そう、エリックにとって英雄や短剣のおもちゃはそれほど夢中になるものだった。


 エリックは外に遊びに連れて行って貰う時は必ずと言っていいほど大樹の広場によってもらい、月に何度か訪れる行商団と一緒に来る吟遊詩人の詩を聞きに行くのだった。


 大樹の足元にある小さな壇上(だんじょう)でリュートを片手に奏でる詩は、数々の冒険家が旅をして世界中のありとあらゆる大陸を行き来し、未だ見ぬ宝や誰も見たことの無い景色を求め到達することのできない秘境から帰還(きかん)し、其の度に世界地図が書き換えられ人類にとっての偉業として歴史に刻まれるのである。


 まさに英雄である。


 そんな吟遊詩人が歌う英雄の詩でエリックが特に好きなのはエルドリック・ガーウィン探求記である。


 詩の内容は、登場する主人公エルドリックが仲間とともに旅をして誰も見たことの無い大陸に辿り着きそこで黄金郷を発見し帰還したというよくある内容なのだが、エリックが()かれたのは詩自体ではなくその登場人物そのものだった。


 日頃から寝る前によく母親から聞かされていた物語にも彼の名前は出てきて、気になって聞いてみたところ


「この物語の主人公はね、とても強くて人々から信頼され愛された人なのよ。人が困ってる時は無償で助け、仲間がピンチの時は自らが盾となり敵を倒す・・・私の大好きな物語で・・だからエリックあなたの名前にもなってるのよ」


 そう言われ、なんだか不思議な感情を抱いたのが始まりだった。


 その感情が何なのか、日々を過ごしていくうちに段々と将来こうなりたいという願望や憧れなのだと気づいた。


 それからは、毎日のように英雄ごっこに勤しんだ。木の棒やバケツなどをかぶり、物干し竿にかかった大きめの布を母親にバレない様に取ってきてマントの代わりにしたり、木の枝を上の部分だけ皮をはいで魔法の杖に見立てたりして。


 それを知っていたであろう父からプレゼントとしてこのおもちゃの短剣を貰ったのだ。興奮しないわけがない。


 叱られはしたが、未だに胸のドキドキが収まらない中渋々席に着きなおしたエリックに今度は母親のサラからプレゼントを渡された。


「誕生日おめでとう!はい、私からはこれよ」


 そう言って手渡されたのは子供用に解説された魔法についての絵本だった。


「やったー!ありがとうかあさん!」


 こうして母親からのプレゼントを手にしたころにはすっかり叱られたことなど忘れ本に夢中になっていた。


 この世界にはありとあらゆる能力を持った者たちが存在する。中でも大きく分けて三つ。


 一つ目は、様々な修練(しゅうれん)により型は違えどそのどれもが驚異的な力となる武器を主体とした武術。


 二つ目は、その武術の派生形といってもいい自らの体を主とした体術でそこに(きた)えた精神を合わせることで体得できる気術。


 三つ目は、人の体内に潜在するマナを使用し詠唱(えいしょう)や杖を通して発現させることのできる魔法。


 そう魔法である。三つ目の魔法は個人差はあれど幼少のころから徐々に発言していくといわれている。色んな研究者が調べているが、いまだきっかけや発症時期は不明である。生まれた直後に宙に浮いたり、指先に光を灯したりする者もいるという。


 逆に、15を過ぎても発現しないものもいてそういったものは既に何らかの形で魔力に触れているとされている。それが気術だったり驚異的な身体能力だったりするのだろう。


 なんにせよエリックが魔法を発現するきっかけになればとサラは渡してみたのである。別に発言しなくともほかの生き方もあるので対して気にしないのがこの世界の人々の常識で、産後直ぐに魔法の兆候が見られない場合はこうして三歳のころから徐々に魔法書とかに触れさせるのが通過儀礼みたいなものである。


「さっそく気に入ったようでうれしいわ!分からないところがあったら聞いてね、母さんが教えてあげるから」


「うん!ありがとっ!!」


「さあ、プレゼントも渡し終わったところだしお料理が冷える前に食べましょう!」


「そうだな!エリック、早く本仕舞わないとこのご馳走(ちそう)全部父さんが食べちゃうぞ!」


「うあぁ、、ダメダメ!僕も食べる!!」


 (あわ)てて本を机の端によけるエリックを待ちながらみんなで手を合わせて食べ始めるのだった。




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