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Elgard  作者: 志門
第一章 英雄の目覚め
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名も無き一族

 この世界には様々な現象が存在する。


 ある大陸には、時間の流れがそこだけ違うかの様に、絶滅したはずの生物や希少な鉱石、又は見たことの無い進化を遂げた生物が存在し、今もなおその大陸だけは別の時間軸かのように存在し続けている。ある冒険家の話によれば、


「あれを目にすれば分かる。今までの世界観が完全に破壊されたよ。まるでおとぎ話に登場する主人公だと勘違いしてしまう程に素晴らしい体験だった!目に映るものはすべて伝説の中で聴くようなものばかり、自分の背丈よりも何倍もある植物、像よりもでかく獰猛な牙をはやした猪のような生物、絶滅したといわれる二足歩行の恐竜、透き通ったように輝く見たこともない鉱石。あれは、噂に聞く神のみぞ扱える鉱石に違いない!!他にも、森の奥深くに存在する黄金郷、何千メートルあるかわからない大きな滝、それを囲う程先も見えない何らかの生物の遺骨、明らかに文明が存在した証拠もあるが普通の人間では扱えない巨大すぎる武器や建造物。語れば切りが無いが、違う次元に踏み入ったかと感じるほどに、自分の存在がちっぽけに思える瞬間だった!」


などと、熱冷めやらぬまま語っていたそうな。


 またある大陸には、死者のみが存在を許され一度足を踏み入れれば帰還することは許されず、黄泉の世界へ引き摺りこまれ其の者が亡者となるまで現世に帰ることは出来ないと云う。ある冒険家の話によれば、


「あれはやばい!明らかにダメな奴だ。紫雲はいいが紫霧はやべー。今すぐ引き返すしかない!逃がしてくれるかは別として全速力で来た道を引き返そう。他の奴らにも教えてやんないとな!これが読めてるってことは俺も運が良かったってことだ。忠告だ!紫色の霧を見たらすぐに引き返せ。この世に未練がねー奴は寧ろおすすめするが。生きたきゃ俺と同じように鼻水垂らしてでも全力で来た道を戻れ!!」


と、語り継がれていた。


 他にもあらゆる冒険家が文字通り自分の生涯、命を賭けて数多の謎や未知の体験を求め世界中を旅して周り嘘か本当か、その話を酒場で語り、それを酒の肴にまた違う冒険家が話に花を咲かす。


さらに話を聴いた吟遊詩人が音に乗せ語り継ぐ―――


「♪~流れに身を任せ~生きる壮大に~描く生涯に~夢は大きく挑むは難し~燃やせ、燃やせよ魂を~くべろ、くべろよ我が時を~大海を越えその先に、見ゆるは遥かなる大地。共に背預ける戦友(とも)を目に、見るは黄金郷。交わすは安酒。樽空け~呑み明かせ~朝まで明かせ~肴に困りゃさあ時だ~灯せ、灯せよ篝火に~照らせ、照らせよ我が希望(ゆめ)を~火つけに涙はいらねぇ歓声をくれ~未だ見ぬ世界に祝杯を~♪」


 この様に詩にされるのは冒険家にとって最高の誉れであり自慢だった。この他にも、天候が千変万化する大陸がありそこを旅した冒険家の詩や巨人にまつわる詩、空に浮かぶ大地の詩、海に住む怪物との死闘を謡ったものなど多岐にわたり存在する。


 つまり詩になると云うことは、人々にとってそれだけ夢や希望、憧れとして抱かれていることに他ならない。


 ある人にとってはヒーローのようであり、またある人にとっては将来の夢である。



 ――ある辺境の村。この大陸では珍しい、中央に聳える大樹、普通の樹よりも五倍はあろうかという程迫力のある其れを囲むように人々は暮らしていた。村の直ぐ傍には見事に日の光を反射させ綺麗に澄み切った川もあり、子供たちもはしゃぎながら魚とりに夢中だった。そんな住み心地の良い村にある変化が訪れようとしていた。


「サラ!がんばれっ!!あと少しだ!」


「ううん゛、、ハァハァハア、、ウ゛うんんん――」


「――ォ、、ォンギャ、ぉぎゃあおぎゃあおぎゃあぁぁ――」


「う、生まれた、、生まれたぞ!サラ!!よく頑張ったな!」


「サラさん、生まれましたよ!元気な男の子です。」


「ハアハァ、、よかった、元気に生まれてきてくれて。」


 サラはそう言って、産後の疲れがあるとは思えないほどの幸せそうな微笑みを浮かべて我が子を抱えこういった。


「あなたの名前はエリック。かの英雄から頂いた名前よ。あなたのお父さんと一緒に決めたの。どんな時も英雄のように強く生きて欲しいという思いから・・・」


 サラがそういうとそれに応える様に、頬を触る母の手を産声を上げながらも強く握り返した。


「フフッ、この様子なら大丈夫そうね!あなたの成長が楽しみだわ。生まれてきてくれてありがとう――」


 そう、慈愛に満ちた顔で言うサラの側で滝のように涙を流しながら号泣する夫、ディルックは息子の誕生に歓喜に浸るのだった。



 こうして、大樹の広場から聞こえる英雄の詩を奏でる吟遊詩人の歌声とともに、病室で高らかに響きわたる産声が、これからの未来を描く協奏曲のように鳴り響いた。これが後世に語り継がれる今は名もなき一族の最初の一人目の誕生だった。


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