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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その26 最後のプレゼント

作者: 天城冴

新型肺炎ウイルス対策に失敗し、大量の死者、感染者、失業者をだした某国。生き残った人々が真冬の戸外でなんとか暖を取っていたところ、思いがけない放送が…

ところどころ街灯が消えた巨大交差点の隅に人々が集まっていた。かつて、ビルの広告塔を兼ねた掲示板が明るく光り、夜中まで窓の明かりがともっていた繁華街も、今では暗く、寒々としている。冬のさなかというのに、居場所もなくした人々が暖を取るためか、肩を寄せ合う。

「あ、ああ、こ、こんなことになるなんて」

男はコートの前を合わせて背を縮こませていた。そばにいた別の男も

「ま、まさか、先進国のこの国がウイルスに負けるとは…、い、医療崩壊して、ゴホ」

「そ、それだけじゃない、け、経済だって。わ、私は居酒屋チェーンで店長をやっていたのに…」

男は誰もが知ってる有名店の名を挙げた。聞く方も

「わ、私だって大手ホテルのフロントで、ああ、観光業も飲食業もこんなことになるなんて!起死回生のはずだったキャンペーンが、真逆の効果で」

「病気になれば飲食も旅行もいかない、人が死んだら経済なんて回らないどころか崩壊だ!医療崩壊が起こって、病人と死者ばかりになったら、経済なんて成り立たないんだ!そんな当たり前のことを政府がわからなかったなんて!ゴホゴホ」

「いや、我々ももう少し考えれば…ハックション」

うなだれる男たち。

と、一人の女性が電光掲示板を指さした。

「あ、ニュースよ!」

「ほ、本当だ、光ってる!」

「あの掲示板に明かりがともるなんて、半年ぶりか」

「あ、首相だ!」

人々は一斉に掲示板に目をやった。

“国民の皆さんにおしらせがあります、我々政府閣僚もウイルスに感染し、政府も崩壊…”

「何言ってるんだ!とっくの昔に崩壊だ、自分たちだけ安全なところに閉じこもりやがって」

「自分たちだけワクチン打って、建物でいい暮らしだろ、与党の奴等は。野党とか医者が走り回ったりしてたのに」

「若者だけでも国外の安全な場所にって野党党首に言われた時は腹が立ったけど、当然だよな。俺たちはともかく若い奴には未来があるし」

口々に政権に対し怒りをぶつける人々に構わず、首相は続ける。

“政府機能も果たせなくなりましたので、全員総辞職、与党も解散いたします。国民の皆様に大変申し訳ありません。つきましては我々の資産、預金から土地から、資材、備蓄食料などを国民の皆様にお贈りします。せめてものお詫びにお受け取りください。配布の場所と時間は…”

「お、おい本当か!」

「く、薬も食べ物も!」

「い、家も。副総理の家だけで、ここにいる全員が暮らせるわ!」

「と、とにかく行ってみよう」

小雪がちらつく中、人々は思いがけない贈り物を受け取りに動き出した。


「はあ、はあ、こ、これでいいんだな」

苦しそうな声の首相に白衣を着た男は軽く拍手をした。

「はい、首相、大変よくできました。せめて一年前、いや半年前にこれをやってくれれば、国民が半分以下になることもなかったのにね。あの利権まみれのキャンペーン、実際には飲食店にもホテルにも金は落ちず、御贔屓の旅行サイトや飲食サイトや派遣会社しか潤わないアレをやめていればね。結局はそいつらだってつぶれたけど」

「ご、御託はいい、れ、例の薬」

「ああ、彼の国の大統領も使ったという薬ですね。ええ、全く同じものを人数分用意しましたよ」

スーツケースを机の上に置く男性。

首相は目を輝かせ

「おお、こ、これで治るんだな」

周りの元与党議員たちもスーツケースに注目する。

 白衣の男はクスっと笑って

「さて、約束は果たしましたからね。それでは、皆さん、さようなら」

といってスタスタと部屋を出た。

後ろでケースを開ける音がして、我先にと薬を手に取ろうとするさまを感じながら、男は建物を後にした。


「本当に薬を渡しちゃったんですか」

港に向かう車の中で運転手に尋ねられた白衣の男は可笑しそうにうなずいた。

「ああ、そうだよ。だって、それが約束、だからね。政府閣僚、議員、財界人ら、この国に残った上級連中のすべてを国民に差し出す代わりに治療薬を渡すのがね。首相たちと、彼の国の大統領との」

「ええ!あの大統領が、ですか」

「あの薬を使ったアホのほうじゃないよ。次の、だ。何しろあの国も前の大統領の無茶苦茶のおかげで散々だからねえ。お荷物の属国政府を切り捨てたいんだろうよ」

「でも、それなら、なんで薬を」

「ああ、あの薬は効くには効くんだが、副作用がすごいんだよ。前の大統領の奇行を知ってるだろう。もともとオカシな奴だから目立たなかったけど、勝ちもしないことに固執したりしたのは薬のせいもある、半年後に病院に入ったしね。治ったとしても再起不能、財産も地位もないし、ロクなことはできないよ。あいつらに自分で這い上がる才覚があるとも思えないしね」

「え、例の大統領が入院したんですか?知らなかった」

「君らはずっとこの国にいたからね。経済も崩壊した国にマトモな情報が入ってくるかい?もっともこの国のマスメディアは元から政権癒着でロクな情報を流さなかったけど」

「それは、ニュースとか全然やってませんでしたけど。でも彼の国から来る人専用タクシーで働いてますから、少しは。博士は国外でずっとウイルス研究をしてたって聞いてましたけど、その」

「ああ、死ぬかもしれない薬を渡して良心が痛まないかって?いや、全然。第一前提その一が間違ってるよ。副作用があっても死んだ例はほぼないよ。後遺症はひどいかもしれないけどね。まあ遺伝子とか基礎疾患の有無とか、食生活などによっても違うけどね。まず、あの与党連中の不健康さからいけば副作用が酷いと思うよ。前提その2、僕はウイルスの研究者で医者じゃない。治療薬の開発に携わったけどね。つまり彼らを救う義務はない。取引をしただけだよ。彼らの罪は司法で裁くのは難しいから、せめてこの国の国民に償いをする、その代わりウイルス治療薬を渡す、とね」

「そ、そうなんですか。でも、よくそんな取引が」

「ああ、あいつ等、籠ってたくせに、結局感染したんだよ。といっても、もともと罹患してるのが議員連中や太鼓持ちの芸人、学者にいたんだろう。恐いから黙っていたらしいね。で、どうにもならなくなって彼の国に助けを求めてきた。で、彼の国で治療薬開発してた僕の知るところとなり」

「そ、それで博士がいらしたんですか」

「そう、次の安全な治療薬とワクチンの開発に協力する代わりに、この取引をやらせてもらったんだよ」

「はあ、庶民としてはありがたいですけど」

「どうかな、彼らの資産だって無尽蔵じゃないしね。それをどう活用するかが君を含むこの国の国民の未来を決めるんだろう。政府の奴等だって生き残れても後遺症に苦しむか無一文でさまようか。僕の贈り物をどう生かすかは彼らの裁量だよ」

「博士からこの国への贈り物、なんですか」

「そうだよ、実質僕を、僕みたいな異能の変わり者を追い出したこの国への最後の贈り物、だよ」

と言って静かに博士は微笑んだ。


リアルでもウイルス感染拡大、変異種が数知れずという、恐ろしいことになっていますが、相も変わらず忘年会だの会食だのにいそしむ与党関係者が多い国もあるようです。自ら襟を正すどころか、非科学的迷信じみた自分だけ大丈夫、ワクチン、治療薬があればーと思っているオジサンがなんと多いことか。しかし、治療薬もワクチンも万能じゃないですけれど。

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