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私とロックと戦の講義

 結局、ミリーとヨルの模擬戦はそこでお終いとなった。

 ヨルは突風を中心とし、時折、瓦礫を風で飛ばすなどの工夫はしていたが、それはミリーには届かず、ミリーの接近を許してしまった。


 それにしても、二人とも無詠唱で魔法を使っていたのに驚いた。

 特に、魔法が苦手というヨルでも、当たり前のように無詠唱を使っている辺り、この世界での魔法の基準の高さを感じてしまう。


 魔法で強くなる道のりは長い。



「はぁ・・・」


 私は思わず、ため息をついた。

 そんな私を見て、ミリーがサンドイッチを食べながら声をかけてくる。


「ため息ついてどうしたの?」


「ええと、二人とも魔法が凄いな、と思って・・・」


「そうかな? 私としては、アリアの成長速度の方が驚きだけどね。何か秘密でもあるのかい?」


 それには、ウィンドが原因なんだけれども、ウィンドの事をあまり話す気持ちにはなれない。

 神ということを伏せて話をしないといけないことや、ウィンドを紹介したときに、彼女のことだから何かしらやらかしそうな気がしているためだ。


「ありがとうございます」


 私はそう言いつつ、「あはは・・・」と誤魔化すことしかできなかった。


「そうだ。今日から学園の授業を見学にいくんですけれど、お勧めの講義ってありますか?」


 その言葉に、ヨルは丼を片手に目線を逸らし、ミリーはそんなヨルを見て苦笑すると、私に向かって話しかける。


「私は、実戦風魔法の講義が一番好きかな。風の魔法の歴史書や理論書を読んで、風魔法の有効な使い方を考えたり、実戦に使えるまで練習したりする実戦タイプの講義だね」


「なるほど、私にも良いかもしれませんね」


 私がそう言うと、ヨルもまた頷く。


「確かに、それは良いかも・・・。俺も来年はその講義を取ろうかな・・・」


「その前に、今年を無事に終えられるように頑張ろうね」


 ミリーの言葉に、ヨルは誤魔化すように丼を口にかき込み始めた。





 今日は四つの講義を体験することにした。

 午前中はミリーお勧めの実戦風魔法の他に、詠唱魔法学を受講したが、現在講義で取り扱っている範囲の魔法体系が異なっているからか、少し私には合わないように感じたため、受講は見送ることにした。


 今は昼食を終えた後の休み時間。

 午後のロックの講義が始まる時間には、まだ時間があるので、実戦風魔法の講義で貸し出された本の要約集を読んでいたが、これが興味深い。

 特に私が興味を持ったのは、無風の魔法を応用した防御魔法の使い方、風と他の属性魔法を組み合わせて生み出す混合魔法の二つだ。


 風の魔法でありながら、風は起こさずに、空気の壁を作って物理も魔法も防ぐ方法。

 そして、風と水の属性の組み合わせで氷属性を作る方法。

 どちらを選んでも私の力になることは間違いない。

 一日悩んで、明日結論を出すことにしようと思う。





 そうして、ロックの講義時間となり、大講義室に行くと、席には見覚えのある紺色の髪の少女、ヨルが教室のど真ん中の机に突っ伏して寝ていた。

 その他には、人の姿はぽつぽつとしか見えない。

 きっと、普段通りの講義があっている状況なので、人が来れなかったのだろう。


「こんにちは、ヨルさん、講義始まりますよ」


 私はヨルに声をかけると、席一つ分開けてヨルの隣に座る。

 私の声に反応がない、これはまだ寝ているみたいだ。


 私は再度声をかけようかと、ヨルの方に身を乗り出した。


 そのとき、「準備は出来ている?」という幼い声が聞こえてきた。

 その瞬間、悪寒が走った。

 ヨルは飛び起き、休み時間後で気が緩んでいた周りの生徒は姿勢を正し、私は乗り出した体を元に戻し、教壇を見る。

 声の主、ロックはいつの間にか教壇に立っていた。


「ええ、こんな子どもが教官?嘘だろ?」


 そんな声が後ろの席から聞こえてきた。

 ロックの外見が十歳前後に見えることから、その反応はおかしくない。


 その声を発した人の方を向いて、ロックは話す。

「私はロック。この講義を担当する。外見で判断する人は三流、内面で判断するのは二流、それに加えて適正と能力を判断できて、初めて一流への一歩を踏み出せる。覚えておくように」


 ロックの視線の先にいたのは、黒髪に一筋のピンクのメッシュの入った髪型をしている不真面目そうな男。

 その男は、少し青ざめたような顔をしていたが、バツが悪そうに、それから何かを言うわけでなく、窓の外へと視線を向けた。


 その様子を見たロックは、何も無かったかのように机の上に置いた一冊の本を開いた。


「では、始める」


 その瞬間、教室の風景が変わった。


 どこかの戦場だろうか。

 剣戟の音、怒号どれもが本物のように聞こえる。

 しかし、飛んできた魔法や石つぶては、私に当たることなく、すり抜けていく。

 目の前にいるはずなのに、私たちに注意を向ける人もいない。

 血の臭いや、爆風も感じることがない。

 あくまで、見た目だけのようだ。


「今回は、個人の継戦能力を高める方法について考える。この男に注目するように」


 そう言うと、風景の時間が止まった。

 その中で一人の男性がうっすらと光り、その男の頭上に三本の線が見える。

 三本の線はそれぞれ、緑、青、紫色をしていた。


「頭上に見える三本の線は、緑が体力、青が魔力、紫が気力を示している。体力が尽きれば死に、魔力が尽きれば魔法が使えなくなり、気力が尽きれば気を失う。それを前提に、この男の戦い方を見るように。講義後、気づきや男の工夫、改善点についてレポートに纏めること。なお、席の移動は自由とする」


「それでは、始め」というロックの言葉で風景の時間が動き出した。





〜???side〜


 帝国の奴らが、急に宣戦布告してきたのが一月前。

 何をもって、不可侵契約を破棄しようと考えたのか、その原因が分からない。

 互いの国の軍隊が大きな打撃を受けてからは、魔物退治を生業としている冒険者も戦争に駆り出される始末。

 このまま、戦争が長引けば、帝国にも致命的な結果を与えることになってしまうというのに、それでも止まらない戦い。

 明らかにおかしい。


 そう思っていても、今は余計な事を考えている余裕はない。

 目の前に集中しなければ。


 大剣を力任せに横に薙ぎ払う。

 剣で受け止めようとした男を、剣ごと叩ききる。

 男の剣は折れ、脇腹に深い切り傷ができていた。

 あれでは、もうまともに動くことはできないだろう。


 しかし、敵は一人だけではない。

 何人もの人間が次から次へと襲いかかってくる。

 相手の剣を受け、力で押し切り、スペースが空いたら、大剣で叩き切る。


 三十分戦っては体力回復ポーションを使って、疲れを回復させる。

 八本あった内、残っている体力回復ポーションは残り五本。


 体力は誤魔化せても、緊張の糸を張り続けた結果、着実にストレスが溜まっていく。

 そして、次の体力回復ポーションに手を伸ばしたとき、ストレスをごまかし続けていたツケが回ってきたのだろうか。


 戦場に降り注ぐ魔法の雨。

 何かに襲われて、声を上げることなく倒れる両陣営。


 その急激な変化に、剣を構える事しかできなかった。


「五十二匹」


 耳元で聞こえた声と共に、全身に痛みが走る。

 足に、腕に、背中に、腹に、全身に、ナイフが突き刺さっていた。


「何が・・・」


 声を出そうとしたが、その瞬間、喉が焼けるように熱くなった。


「喋るなよ、虫けら」


 そこには、黄緑色の髪、紫がかった肌をした人とよく似た生物がいた。

 その生き物の手には、血の滴るナイフが握られていて、その生き物は男の返り血を浴び、不愉快そうな視線を向けつつも、口角だけはニタリと引き上げていた。

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