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私とウィンドと訓練

 私は夕飯のパンを食べてしまうと、ミリーから聞いた詠唱のポイントについて、ノートにまとめながら、改善点を考えた。

 今の私に言えることは、魔法は詠唱が全てではないということ。

 それを具体的にどうしたらよいか、取り留めもない考えをノートに羅列していく。


 それからは、食後と疲れからくる眠気によって頭が回らなくなってきたので、体を清めた後、温かい寝間着に着替え、ベッドに横になる。

 その際に、ウィンドに言われたように腕輪を枕の下に入れておくのを忘れない。


 これで何が起きるんだろう、そんな事を考えながら目を閉じると、早朝からの働き続けた私は、慣れないベッドにも関わらず、スッと眠りの中へと墜ちていった。





 夢。そう、これは夢だ。

 体が、意識が、ふわふわとする感覚。

 辺りも霧がかかったように不鮮明で、ただ、白い石で出来た大地が広がっていることだけが分かる。


「いらっしゃい」



 そして、そこにはウィンドがいた。

 ウィンドは私に向かって歩いてくる。


「ちゃんと、腕輪を枕の下に入れたんだね。偉い! じゃあ、今からアリアが少しだけ強くなれるように手伝ってあげる」


 ウィンドがそう言った瞬間、ウィンドの姿が変わった。


「アリア、昨日の自分に勝てるよね?」


 その姿は、私そのものだった。

 少し違和感があるのは、鏡写しではないからだろう。

 この状況に驚きはするが、全てはウィンドのしたこと、何が起きてもおかしくない。


「今からするのは、昨日の自分を超えるための訓練」


 ウィンドは私の声で、表情で話すので、先程までの違和感が強くなったように感じる。


「私を倒すかアリアが諦めるまで、この夢は続く。もし、アリアが負けたら、また最初から始まるけれど、夢だから怪我の事は心配しなくても大丈夫。じゃあ、さっそくだけど始めようか」


 私はウィンドが詠唱の体制に入ったのを見て、慌てて詠唱の体制に入った。





 私が昨日の私に勝つことができたのは、四回目のことだった。

 どうして、三度も負けたのかというと、一回目は訓練という言葉を甘く見ていたから、二回目は全力を出せていなかったから、そして三回目は今日学んだことを生かせていなかったからだった。


 訓練と言いつつも、ウィンドは本気で殺しにかかってきていたし、昨日の私がそれこそ全てを出し切るくらいの全力で向かってきた。

 魔力切れになるまで魔法を使うし、爪を立てて引っかいてくるし、噛みつきだろうが、目つぶしだろうが、髪を引っ張ろうが関係なく相手を倒すことだけに全力だった。


 そして、相手は昨日の私、体力や魔力の量はほぼ変わらない。

 つまるところ、決定打になるのは、昨日の私が知らない知識を使って、新しいことに取り組むことができるかどうかだった。

 もし思いつかなければ、倒すことに集中している昨日の私と、考えながら戦っている今の私では、前者の方が強いのは当然のことだろう。


 訓練なんて甘い考えではいけない。

 全力で相手を倒す。

 成長するために、何が何でもやってやる。

 そんな、気持ちを確かめさせられた。


 殴られて腫れた瞼や、垂れている鼻血、一部が切られたり、破れたりした服、相手の歯を殴って切れた手。

 満身創痍という言葉がふさわしい状態でも、私は手をぐっと握った。


「勝った・・・」


 油断すれば全身の力が抜けそうな中、私は呟いた。


 その瞬間、ウィンドの姿が元に戻り、私の体の状態も元に戻っていた。


「アリアおめでとう!」


 先ほどまでの体の倦怠感も消え、そこに残ったのは、先程までの戦いの感触、そして一つの新たな力。


「詠唱の工夫について気づいたね! 途中なんて、”吹っ飛べ!”って一言で魔法を使っていたし」


 面白いものを見た、と言わんばかりに楽しそうに話すウィンド。


「ありがとう、ウィンド。あのときはもう無茶苦茶で、もう全部を吹き飛ばしたくなって、気づいたら、それが魔法になってた。スレイニーさんが言っていた、魔法は理論じゃないというのも、今なら分かる気がする」


 私が話すのを、ウィンドは、うんうんと頷きながら聞いている。

 私は自分の新たな可能性に興奮していた。





 ミリーとの約束の時間前に目覚めると、水差しに入れていた水を飲み、焼いた卵とパンを軽食として食べる。

 もう少し食べたい気もするが、この後のトレーニングに障らない程度に軽めにしておく。


 そして、着替えなどの身支度を済ませると、まだ鳥も鳴き出さない時間に部屋を出る。


 早く自分の力を試したい。

 降り積もった雪に、足がくるぶしまで埋まる。

 それにも関わらず、私の足は、早足から徐々に駆け足になっていく。

 闘技場まではもうすぐだ。





大水


吹っ飛べ!


 私の目の前で水の奔流が弾ける。

 しかし、全ての水を吹き飛ばすことは出来ずに、私は水に飲み込まれた。

 それから十メートル程流され、姿勢を立て直したところで、私の顔の横スレスレを通って飛来した氷柱が地面に突き刺さる。

 あと拳一個分ズレていたら、私の顔に突き刺さっていただろう。


 私がどっと冷や汗をかいているとスレイニーから声が掛かる。


「ここまでにしましょう」


 その声が聞こえた途端、塗れていた服も、削れていた地面も、全てが元通りになった。


「ありがとうございました」


 私は礼を言いつつ、立ち上がる。


「いえいえ、それにしても、昨日の今日とは思えない程の成長ですね。詠唱に頼らずに魔法を使うことができつつありますので、あとはその魔法の方向性を決めることが出来るようになれば、詠唱破棄としてはある程度及第点と言えるかもしれませんね」


「魔法の方向性ですか?」


「ええ、魔法に何を求めるか、といっても良いかもしれません。たとえば、アリアさんの”吹っ飛べ”という魔法は、アリアさんの前方に強風を起こす魔法ですが、その範囲や威力、形状など工夫点は幾つもあるかと思います。アリアさんが発動するときに、その魔法にどのように働いて欲しいかを意識することが大切かもしれないですね」


「なるほど」


 同じ魔法でも使い方によっては、違う魔法のように見えることがあることが分かった。

 例えば、スレイニーの水を放出する魔法一つ取って見てみても、その水は直線に勢いよく飛んでくることもあれば、蛇行することもあり、さらには覆い被さるようにして飛んでくることもあった。


 つまり、私の風についても、創意工夫によっては色々な方向性を持たせることができるようになるのかもしれない。


 一人頷く私に対して、ミリーの声が聞こえてくる。


「おーい、スレイニー、アリア、終わったら代わってよ。私たちも使うからさ」



 私が声の方を向くと、ミリーとヨルが闘技場の観客席の最前列に立って、私たちの方を見ていた。


「ええ、代わりましょう。ミリーさん、ヨルさん、どうぞ」


 スレイニーの言葉を聞いて、私とスレイニーは観客席へと向かい、ミリーとヨルは観客席から飛び降りてくる。


「ヨル、このままだとアリアに負けちゃうよ?」


「・・・まだ負けないよ。多分」


 二人はそんなことを言いつつ、戦闘の準備に取りかかる。

 私が観客席へ辿りついたころ、二人の模擬戦が始まった。





 今日の二人の模擬戦は魔法が主体の内容だった。

 突風を起こすヨルと、風の刃を剣に纏わせ、突風を切り裂くミリー。

 二人とも、風の魔法を中心に使っており、その使い方は見るだけでも勉強になる。

 そんな二人の模擬戦の最中、スレイニーが話しかけてくる。


「ミリーさんは武器に剣を使っていますので、切れ味を意識した結果、風の刃の魔法が得意になったようですね。一方でヨルさんは、拳での近接戦がメインなので、相手との距離を取るため、緊急手段としての突風を使う癖があります。しかし、そのように使ってきた為か、その突風には攻撃としての力が殆どありません。ミリーさんはその部分を改善を狙うようですね」


 二人の攻防を見ながら、スレイニーはそう言った。


「つまり、ヨルさんの魔法の使い方は、現状、アリアさんと似ているとも言えそうです。ですので、もしミリーさんと戦うとするなら、どんな魔法が使えるとよいかを考えながら見ると良いかもしれませんね」


 私は「なるほど」と頷くと、二人の戦いに再度視線を戻す。

 そこでは、ミリーがヨルの放つ突風を切り裂き、ヨルの懐へ飛び込んだ所だった。

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