異世界転移前
「知らない天井だ」
目が覚めた。まだぼんやりとした頭のまま、体を起こす。
そこで初めて違和感を感じて、辺りを見渡す。本来いま自分がいる場所は自分の部屋のはずだ。でもここは何も無い真っ白な謎空間。………
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!??!」
ここどこ!? 急激に頭が冴えていく。すると周りにクラスメイトが制服姿で倒れていることに気づく。
そこで自分が制服姿ということに気づき、自分の叫び声でクラスメイトが目を覚まし始めた。
う〜ん…これは夢なのだろうか、頬をつねったり思い当たることを考えたり色々なことをクラスメイトの叫び声を背景に行っていた。
考えが堂々巡りになっているとき、
「目が覚めたのですね」
とても綺麗な声が聞こえてきた。その声につられるように反射的に声のする方を向くと息を呑むほどの美貌をした女性がいた。
これは…筆舌に尽くし難いという言葉が初めて頭に浮かんだ。他の皆も同様に言葉を失っている。
「急なことでとても申し訳なく思っております。私はアテリアという名の女神でございます。単刀直入に言います。あなた方には、いわゆる異世界に転移してもらい、魔王を倒していただきたいのです。」
…自分は冷静な方だという自負があったけど、いきなりの展開に正直ついていけない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
女神の話をまとめるとこうだ。
・今代の魔王は強すぎて異世界の人間だけでは手に負えないということ。
・そこで勇者の適正がある自分達が選ばられた。(ちなみに勇者の適正持ちがこれだけいるというのは奇跡的なことらしい)
・なお、今回のような魔王が強すぎるなんてことは異例らしく、過去にも数える程しか起こってない。
・普通なら魔王が出現しても異世界の人達の中から勇者を選出して、魔王を討伐する。
・異世界にはステータスという自分の能力を数値化したものがある。
・魔王を倒すために女神が好きなスキルをくれる。(しかし強力すぎるものや適正が無いとスキルを与えられないらしい)
・5分後に個別で女神と会話する場を設けるので、欲しいスキルを伝えてほしい。
だいたいこんな感じだ。
俺が欲しいスキル?そんなものは決まってる、『運』だ!俺は運が欲しい!じゃないと当たらないんだよガチャでいいのがよぉ!
俺には最近とてもハマっているゲームがある。その名も『ヒューマン』シンプルな名前だがとても奥が深い。
簡単に説明するなら、異世界で1人の人間として人生を送ることができる、というゲームだ。
最初は村人スタートだが成り上がって冒険者、貴族、王様にだってなれたりする。かなり自由度の高いゲームだ。
ゲームだから色々なイベントがあるんだけど、それを有利に進めるにはガチャを回すしかない。そのガチャの景品が魅力的すぎて、いつの間にかガチャ大好き人間にまでなっていた。
ガチャでいいアイテムを出すために俺は運が欲しい。もちろんガチャのためだけではない。
俺は運という力に可能性を感じている。なんせ運だけで敵に勝つとかいうヒーローもいるくらいだし。
とにかく、俺には運というスキル以外に考えられない。絶対に運が上がるスキルを貰ってみせる!
「次は柵木 楽人さんの番です。こちらへどうぞ」
なんだか緊張してきたな…もし運を上げられないとかだったらどうしよう…
そんな、気持ちで俺は女神が設けた対話スペースに向けて歩き始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
〜アテリアside〜
ふむ…今回は勇者の数がとても多くて、喜ばしいことですが、皆さんの第一希望のスキルやそれに連なるスキルの適正が無い場合が多いですね。
やはり幸運はそう簡単に続かないということですね。気を取り直して次の方にいきましょう。
「次は柵木 楽人さんの番です。こちらへどうぞ」
呼びかけて数十秒してその人はやってきた。
ほぉ…キレイな二重に長いまつ毛、切れ長な目とちょっと暗い雰囲気が絶妙にマッチしてて…はっいけないいけないトリップしちゃってたわ!
「さっそくだけど、どんなスキルが欲しいの?」
慌てて本題に入る。
「『運』というスキルが欲しいです!」
え、え、運?…こんな人はじめて見たわ
「運というのはステータスの基礎値の一つで、微々たる力しかないものよ?」
「はい!それでも欲しいです!」
すごい熱意ね…
「なんでそのスキルが欲しいのかしら?」
これほど熱意があるのだからきっと大きな理由があるに違いないわ。
「好きなゲームのガチャでいいアイテムが欲しいからです!」
………はっ!いけないいけない。またトリップしてたわ。まさか、そんな理由で…
「ちなみになんというゲームなの?」
つい気になってどうでもいい質問をしてしまったわ。
「はい!ヒューマンというゲームです!」
!? その名前はよく知っている。なぜなら私もとてつもなくハマっているからだ。まさかこんな所で同士に出会えるとは…
「実は私もそのゲームにハマっているのよ」
「ホントですか!?」
とても目をキラキラさせているわ…こんな彼に私は今から残酷なことを言わなくてはならない…
「実は…あなたが転移する異世界ではゲームができないの…」
「!!?!?………そんな……ガチャが回せないなんて……ゲームができないなんて……」
よく考えたら分かるはずなのに、そんなことが頭に浮かばないくらいガチャもといヒューマンが好きなのね…
「分かったわ!あなたには特別にガチャというスキルを与えるわ!」
本来、勇者は最初はスキル一つ。なぜならそれがその勇者の固有スキルになるからだ。でも彼は運を望んだ。これは固有スキルにしてはあまりにも弱い。だから特例として2つ目のスキルを与えよう。
「いいですか?本当は一つしかスキルを選べませんが、特例として与えたいと思います。」
まぁ二つと言っても一つ目は所詮、運だ。確かにあった方がいいことに違いないが大したことではないだろう。
その後、女神はガチャの説明をして楽人との面談を終え、その後もつつがなく他の勇者との面談も終わっていった。
そして、勇者たちの面談が終わったのち異世界の詳しい説明をしてすぐに異世界に転移させてしまった。
そう、楽人に与えたスキル『ガチャ』も凄まじいが、問題は『運』。女神はこれがあってもなくても大差ないと判断したが、これが大間違い。楽人も同じような考えだが、のちに真にすごいスキルだということをいやでも分かってしまう。