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勇者と魔王のセカンドライフ  作者: ミライ
第1章 アルデウス学院 少年編
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第二話 生意気な同級生

 少しだけこの大陸の話をしよう。


 この大陸には東西南北、に付け加え中心に大きな国があり、それぞれの国、地域に地方名が付いている。


 東はアースド地方、西はエスラン地方、南はザバス地方、北はウェルロ地方、中心はセラル地方といったように五つの地域でこの大陸は分断されている。


 それぞれの地方の王がその地域を統治し、年に一度のセラル地方での会議に赴き、一年の総計を述べ合い、隣国、地域との問題を解消する……のが、この大陸の平和を保つ基本的な唯一のやり方であった。


 だが、ある事件をきっかけにセラル地方での会議は無くなった。 いや、無くされた。

 とある神を信仰する教徒たちによって。



 会議開催一ヶ月前の、セラル地方ヴィクトリア王国の国王の暗殺。



 ヴィクトリア王国はセラル地方の中心、また大陸の中心に位置しており、本来ならばこの王国の宮殿で会議を行うはずだった。 だからこの国王が殺されてしまった場合は、その会議を開催することができない。


 臨時の王政府たちが開催するのではないのか。


 もちろん、臨時の王政たちも開催しようとは思ったのだろうが、何しろ緊急事態すぎて、政府側も上手く連携が取れていなかった。


 会議が開かれない。


 だからこそ、この事件はあっという間に大陸中に広がった。 それほどまでに大きな事件だった。 現場付近に住む王の側近の名のある戦士たちも消息を絶っていた。



 会議を開こうとすれば国王を殺す。



 そんな一枚の紙切れがヴィクトリア王国の国務室に届き、年に一度の会議は無くなってしまった。

「もう一度開こう」そう切り出した王様もいたが、やはりというべきなのか開催の一週間前に暗殺されてしまっていた。


 犯人は捕まっていないが、国民は全員気付いていた。


 あの時の犯人と同じだということを。



 年に一回の会議をやめさせる、ということは大陸の中の地域がバラバラになるということでもあった。

 それがとある神を信仰している教徒たちに、どんな利益を与えるのかは分からない。

 ただ、確かに言えることが一つだけあった。

 それは




 アースド地方とザバス地方の領地をめぐる争いが始まったということだ。





 ー





「——君たちはもう子供ではない。 今はもう大人へと変わっていく時期だ。 ここでは甘え、だらける者を矯正させる所でもある。 今からでも遅く無い。 今まで魔術、剣術に触れてこなかった者よ、今すぐ手を動かし、国に忠義を誓い……」


 ひたすらに長かった。

 だらだらと長ったらしく演説と注意事項を話す彼は、この学校を卒業して、城の警備を任されるようになったらしい。


 道理で、忠義とか忠誠だとかの話をするわけだ。


 その仕事が偉大であるかはさておき、言っては悪いが彼自身、大きい声量の割には、あまり迫力が無いように見える。



「……以上だ」


 話が終わった。 それを聞いていた生徒全員が、彼が頭を下げると同時に、うな垂れるように頭を下げ返した。 どうやら、みんな疲れているらしい。


 そりゃそうだ。 彼の話だけで一時間弱は使っているのだから。


 続いて担任の発表、進路について、国歌斉唱……などを聞いたり歌ったりしたが、どれも彼の話を聞くよりはみんなマシに感じただろう。


 国がどうとかこうとか、十歳になったばかりの子供に理解できるわけがないのだ。




 ー




「えーと、この度このクラスの担任を受け持つことになりました。 アトリック=ケアリーです。 このクラスの皆さんは大変優秀と聞いているので緊張していますが、皆さんよろしくお願いします」


 そう言って丁寧に頭を下げるのは、今日から俺たちの担任になったケアリー先生。


 ケアリー先生は今年が教師として初勤務らしい。

 基本的にアルデウス学院には老齢の教師が多い。 若者の方が力は強いが、知の方では年配の方の方が強いってことだろう。

 だから、ケアリー先生はある意味で珍しい教師でもある。

 銀色の短めの髪に、黒い瞳。 どこの家の者かは分からないが、優秀なところのはずだ。



「先生って、強いんですか」



 ある一人がそんなことを呟いた。

 驚いて、クラス中のみんなが彼の方を驚いて見た。 俺も同じように驚いてそっちを見た。

 一人はそれを聞いても微動だにしなかったが。


 そして彼の髪、目、体格を見てみんなは納得するかのように目線を先生へと戻した。 全員が戻すということは、かなり有名で名の知れている特徴の家柄、ということだろう。



 当然、俺も見聞きしたことぐらいはあるはずだ——





 ……前言撤回。


 あれは誰だったかな。


 あっ、確かフーロック、エレスルナ家ほどではないけど、そこそこの力を持っているっていうことは聞いたな。

 この国では御三家って呼ばれるぐらいの……


「そう思うだろ、そこの茶色の髪したフーロックのお前も」

「うぇっ!? え……あ、そ、そうですね」

「ふん……」


 突然話を振られて、上手く反応ができなかった。

 肯定してしまったけど……いいよね、ケアリー先生。


 というよりもなんだあの生意気な態度。 まるで自分が一番強いみたいな言い方じゃないか。


 まぁ、(あなが)ち間違いじゃないんだろうけどさ……


「エレスルナのお前も同じか?」

「……」

「はっ、無視ってことはなんだ。 俺の方が弱いってことか?」


 ミスリーは彼に話しかけられてもやはり、微動だにしなかった。机の上に置いてある魔道書のような分厚い本をただ黙々と見つめ、読んでいるだけだ。


 それより彼は本当に十歳なのだろうか。 十歳にしては生意気だし、言葉遣いがかなり汚い。


 そして、何より……身体が出来上がりすぎてる。


 鍛え抜かれたその腕や足は大きさ、硬さは違えど、さっき出会った行商人を彷彿(ほうふつ)とさせる程だ。


 そこまで彼を観察して、俺はようやく思い出した。


 あっ……プライア家の人か、と。



 彼の名は、プライア=ストレン。 ファーストネームの通り、プライアの血を継ぐ子だ。


 プライア家はこの国の御三家と呼ばれるうちの一家。 フーロック、エレスルナにはやや劣るが、国内随一の『拳術』の使い手であるという。


 拳術というのは本来なら、人族ではない鬼族が習得するものだが、どうやらプライア家は昔、人と鬼との婚約があったそうで、そこからこの拳術が伝授されてきた。

 その婚約によって、鬼の血が多少流れているからか、プライア家の髪の色は赤く、また筋肉量も人族とは比べ物にならない。

 プライア家曰く、その赤い髪は『力の象徴』だそうだ。


 だからこそ十歳であろうと、彼の身体つきはとても(たくま)しかった。


 では何故、俺の記憶が鮮明に覚えていなかったのか。


 理由は単純だろう。


 プライア家は人族との馴れ合いを好まないから。


 御三家だから全員が仲が良いか。 と聞かれるとそういうわけではない。 それぞれの家にそれぞれの風習や決まりがある。 特にプライア家の場合はそれが特殊すぎた。 だから、俺の両親とは恐らく気が合わなかったのだろう。

 正直者ばかりだが、我が強くていつもうちの両親と喧嘩していたっていう話を聞いたこともあった。



「それで先生……決闘を申し込みたい」


 その言葉に教室中が騒ついた。 いくら御三家の内の一人と言えども目上の人に、まして教師に決闘を申し込む人なんて聞いたこともないのだろう。


 俺も教師に決闘を申し込んだことのある人の話など、聞いたことがない。


 ケアリー先生はどう反応するのだろうか。 やっぱり怒るのだろうか、それとも案外引き受けてくれるのだろうか……

 少し緊張しながら、俺は彼女の表情を伺った。



「はい、それじゃあまずみんなに、それぞれ自己紹介をしてもらいます。 訓練学校と言えども、人とのコミュニケーションは大切だからね。 一番右端の列の子からお願いします」



 ケアリー先生はそう言って微笑んだ。



 その鮮やかな無視を決め込んだ姿勢に、思わず逆の意味で教室が凍った。 驚きとまではいかないが、それと似た類の意味で。


 ガタッ!


 無視されて黙るかな。 そう思ったが、ストレンはそうではなかった。

 彼は椅子から勢いよく立ち上がって、ケアリー先生を指図しながらまた言ったのだ。


「アトリック=ケアリー。 余は其方に決闘を申し込む!」


 正直者、というよりただの我儘ではないかと思う。 我の強いと言われるのにも非常に納得だ。


 流石のみんなもウザそうに彼をジトーッと見ている。 みんな思っていることは同じだろう。

 もっとも、彼には俺たちの突き刺す視線なんて目に入っていないっぽいが。


「……プライア=ストレン。 今はHR(ホームルーム)中です。 誰が喋って良いと許可しましたか」

「しかし……」

「先生は授業中に決闘を受けるほど暇ではありません。 文句があるなら終業後、残ってから言いに来なさい」

「む……では、終業後に言えば決闘を受けてくれるということだな」


 ストレンのその言葉に、ケアリー先生はため息混じりに「まぁ、いいでしょう」と言った。


 先生も厳しめに指導したろうに、強情なやつだ。



 そんな波乱がありつつも、俺たちのクラスは無事にHRを終わらせることができた。








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