表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界はひとりで十分  作者: 鰹節
1/1

異世界転移?

息抜きに楽しく書けたらいいなと思い書いた作品です。良かったら見ていって下さい。

 クラスメイトの絶叫と共に、教室が突如として青白い光が包まれた。俺が、“地球”に居た時の記憶はここで途切れていた。為すすべもなく光に包まれ、目を開ければ野原に俺は立っていた。


「なんだよ……これ!」


 焦り、怒りそれらが混じって俺は自分の思考がぐちゃぐちゃになるのを感じた。人は焦りや怒りなどの感情を持つと、頭が回らないと聞いたことがあるが、それは本当のようだ。しかし、そうしていても仕方ないので、焦りと怒りを頭から押しのけて冷静になる。


「クラス転移なのか……? だとしたら、なんで俺は一人なんだ?」


 自分の周りだけが青白い光に包まれた可能性は高い。だが、クラスの全員が絶叫したのが耳に残響として残っている。なら何故、俺は一人なのか。


「もし、異世界なら、王国もある筈。そこに向かうしかない」


 立ち止まっていても意味がない。ここで餓死してしまうならば、異世界を少しでも知ってから死にたい。今まで異世界に憧れてきた気持ちが俺の原動力となり、歩みを進ませた。


◆◇◆◇◆


 晴天、緑色の野原。世界を照らす太陽の暖かさに俺は包まれながら異世界を堪能していた。王国にたどり着くとは限らないと思った俺は、近くにあった森へと向かっていた。幸い俺にはキャンプの知識と技術がある。野宿となってもなんとかなる。


「ギャアアアア!」

「っ!?」


 森に入り少し経った頃、背筋が凍るような悲鳴が森の奥聞こえた。悲鳴に足が竦み、恐怖で涙が出る。そもそも森に入るのが間違っていたのかもしれない。ここは異世界。化け物や怪物がいてもおかしくない。野原でそれらが見えなかったということは森に生息している可能性が高いのだ。


「ここはマズい……絶対に居る。逃げないと」


〈“拒絶”を使用。恐怖を拒絶しました〉


 怯えながらその場を後にしようとした時。何処からか機械の音声が聞こえた。それと共に恐怖は俺の中から消える。まるでそれを拒絶(・・)したかのように。


「なにが……?」


 恐怖が無くなり、俺は立ち上がる。森の奥を見ても恐怖はもう感じなくなり、好奇心と共に謎の自信が生まれた。


「今なら行ける気がする」


 化け物に会えば即死。そんな装備だと分かっているのに俺は森の奥へと進んだ。恐怖と同じく逃げることすら拒絶したような感覚を持ちながら。


「この辺か……っ!?」


 草を掻き分け先に進むと、四肢が雑に噛み千切られそこから大量の血を流し、死んだ人がそこに居た。


「お、おええええ!」


 人の死体など今まで見たこともない俺にとってそれは衝撃が強く、吐いてしまった。死体を見た瞬間、先程まで消えていた恐怖がまた俺に襲いかかる。


〈“拒絶”を使用。恐怖、吐き気を拒絶しました〉


「また、だ。また怖くなくなった」


 謎の機械の音声と同時に恐怖、そして吐き気までもが無くなる。それでも死体を見れば気持ち悪くなるが。それでも何かないかと見ていると、人の腰脇に武器があった。


「これは……刀?」


 武器を鞘から抜けば、銀色に輝く刀が姿を表した。戦国時代の刀は約1kgとあると聞いたことがあるが、そこまでの重力は感じない。


「まぁ、何にせよ。あるなら貰うか」


 何も無い状況よりかはマシなのだから貰う方が良いに決まっている。他にも不思議な石が入った皮袋と、硬貨と思われる物が入った皮袋を拝借した。


「さて、と。ここから離れないとな」


 座っていたせいで付いた草などをパンパンとはたき落として立ち上がる。踵を返し引き返そうとした時、ゾクリと身体に悪寒が走る。何かに見られているかのような感じ。


「──そこに居るのか……?」


 まるで「ああ、居るぞ」と言うかのように、獣の低い唸り声が聞こえた。慌ててはいけない、化け物はまだ近づいて来てない。ゆっくりと振り返って、後ろ歩きで逃げるんだ。


「冗談だよな? そう言ってくれよ」 


 振り返れば、太く長く伸びた爪に高さがニメートルはあるだろう身長、茶色い剛毛に、牙は剥き出し、血で汚れている口からは涎が溢れ出ている。そう、熊だ。だが、ただの熊ではない。その目は赤くて、俺に殺意を向けているのが嫌でも分かる。


「グルゥ」


 ゆっくりと後ろに下がり逃げる。熊は首を傾げ、俺を見つめるだけ。冷や汗をかきながら俺は上手く言っていることに安堵の溜め息をつく。


〈“拒絶”を使用。安堵を拒絶しました〉


 しかし、謎の機械の音声と共に安堵すら消え去った。先程から感情という感情を拒絶される気がする。頭が異常に冷静になりながら獣を見続ける。体長のせいだろうか? 離れていないように見える。


「違う、こいつ近づいて来てる……!」

「グルゥ、ガアア!」


 気づいた頃には時既に遅し。熊はその体格に似合わないスピードで俺に近づき、その爪を振り下ろしてきた。


「クッ!」


 自分が出来る全力で横に飛ぶ。ギリギリ、それでも頬に爪が掠り、簡単に切り裂かれた。


「ば、化け物め!」


 刀を抜き、乱雑に振り回す。当然、そんなのは当たるはずもない。熊は爪で器用に刀を弾く。当たらない焦りと熊への恐怖が、異常に俺を苛立たせる。


〈“拒絶”を使用。焦り、恐怖、苛立ちを拒絶しました〉


 またもや冷静になる頭。だが、それはありがたい。冷静な判断が出来なければ、死ぬ可能性は低くなる。しかし、低くなるだけで死ぬかもしれない。最善の手はどうにかして熊の目をごまかし、逃げること。そのためには考えなければ。



「考えろ! 考えろ!」


 刀での牽制。そんなものが、意味をなしているのかなんなのか。熊は苛立ちを表しながら唸り声を上げる。


「グルァ!」

「か、はっ!」


 苛立ちが頂点に達したのか、熊は爪を振り下ろした。しかし、先程とは違い見えない一撃。結果、俺は何も出来ず正面からそれを受け、吹き飛ばされる。


「あァアァッ!?」


 後ろの木にぶつかり、吐血する。三つの爪に切り裂かれた自分の身体を見て驚愕する。その後に来た激痛に顔をしかめる。


「化け物、クソが、ふざけやがって!」


〈“拒絶”を使用。怒りを拒絶しました〉


 悪態を吐きながらふつふつと煮えたぎった怒りは無くなり、謎の虚無感が俺に襲いかかる。動かそうとしても身体は動かない。死を迎える。感情が湧いてきても、謎の機械音と共に消え去り、何も思えなくなる。死ぬのを嘲笑うかのように熊が振り下ろす爪がゆっくりと見えた。


〈“拒絶”を使用。相手の攻撃を拒絶しました〉


「は……?」


 謎の機械の音声と共に熊の爪は停止した。熊の顔が強張っていることから相当な力が入っていることが分かる。しかし、何故熊は止まったのだろうか?


「よく分かんないけどさぁ、卑怯とか思わないでくれよ?」


 痛みを訴える身体に鞭を打ち、横に転がっている刀を手に取る。止まっているならば、心臓を穿つのは俺にだって出来る。


「はああああ!」


 未だに止まっていた熊の心臓部に体重を乗せながら刀を刺す。なんの抵抗もなく貫通した刀を引き抜くと、熊は後ずさりし、後ろに倒れた。


「はぁ、はぁ、はぁ。うっ!」


〈“拒絶”を使用。吐き気を拒絶しました〉


 生き物を殺したことで気持ち悪くなり吐き気がしたが、謎の機械の音声と共に無くなる。


「くっ……そ!」


 熊を倒してもこのザマである。もう、身体は動かず、木にもたれ掛かるように俺は倒れた。


「ま、強敵に勝てたんだ……なんの力も無い俺にしては良くやった方だよな……」


 身体の激痛が殆ど感じなくなる。何もしないで死ぬよりかはマシだったのだ。悔いが無い訳ではないが、良しとしよう。そう思わないと今から死ぬ現実を受け止められなくなる気がした。諦めよう、思い描いた異世界とは全く違ったのだから。これ以上求めても意味がない。


〈“拒絶”を使用。諦めを拒絶しました〉


 諦めすら消し去られ、俺は乾いた笑みを浮かべた。少ししてからだろうか、意識がもう無くなりかけた時、男性の声が聞こえた。


「君、大丈夫かい! 酷い怪我だ、早く治療を!」


 駆け寄ってきた男性は両手を俺の傷口に近づける。聞き取れない変な言葉を呟くと、男性の両手は淡い光を放つ。その光がなんとも心地よくて、優しいものだった。既に無くなりかけていた意識はそんな幸福な感覚を覚えながら途切れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ