1日目 昼 眞島悠人
招待状に書いてあった最寄りのバス停でバスを降りると、本当に山の中だった。1時間に1本しかないバスが遠ざかっていく。僕以外に誰も乗っていなかった。ほかの招待客はもう着いているんだろうか。
同封されていた地図を開きそれに沿って歩く。少ししたら確かに目の前に城が見えてきた。
「ほんとに、」
あるんだ。こんなところに城が。
明らかに西洋風の作りで、少し驚く。こんな場所があったなんて。
どうすればいいのかと門の前につったっていると中から女性が出てきた。おとなしいメイド服を着ている。メイドってほんとにメイド服着るのか。
「本日はお越しいただきありがとうございます。」
彼女はぴっちりと礼をした。
「ご案内いたします、こちらです」
後ろをついて歩く。庭はさほど広くない。建物自体はたぶんそこそこ大きんじゃないか。
前を黙々と歩く女性の胸の名札には香坂、とあった。
「あなたのほかにもいらっしゃるんですか」
「この家には私と主人しかおりませんが」
不思議そうに返された。何でこの人名札付けてるんだ。
「ああ、これでしたら今日お客様がいらっしゃるということでつけさせていただいたのです。」
これがプロフェッショナル。
「どうぞ、おはいりください」
扉を開け、エスコートされる。エスコートではないか。
入ってすぐのところにはホテルのロビーのような雰囲気の場所があり、ざっと1クラスは組めそうなぐらいの同い年ほどの人がいた。めいめいソファーに腰掛け談笑している。話題の中心部はさけ端の方、一人の少女が腰掛けているソファーセットに向かった。
「となり、いいですか」
返事はない。
しばらくして彼女はこちらを向きキョトンとした。
「ええ、もちろん」
声に何だこの人はという雰囲気がある。向かい側に座るべきだったかな。
何か暇をつぶそうと鞄を開けた。
「あなたは」
隣から声がする。少女がまっすぐな目でこちらを見ていた。
「もし、今目の前で。この世界が終わりを告げるのだとしたら、どうするの」
ゆっくりと、一言一言確かめるようにつむがれている言葉。
「あなたの信じている、今が。おわるのだとしたら」
「えっと、そうだね。なにもしない、かな」
少し驚いたような顔をされた。
「どうして」
「終わるものを変えることなんてできないんだろうから。ああ、強いて言うならば。目の前の世界を目に焼き付けるかな。いつでも思いだせるように」
「そう。なら、もしそれが変えられることだったらあなたは動くというの」
「んー、かもね」
「そんなことなんてないだろうって?」
「そう思ってる」
「そうなのね。ああ、名前を聞いていなかったわ。私は吉田奈々。あなたは」
なな、今朝の奏太のメッセージの相手を思いだした。
「眞島悠人。よろしく」
「ゆうと、よくある名前ね。どう書くの?」
「君もよくある名前だろう」
いいながら空に名前を書いて見せた。
「そういえば――」
がん。目の前のテーブルに荷物が置かれる。
「あっ、どうもー」
荷物の主は悪びれもなくいった。
「どうも」
「こんにちは」
「こんちはー」
「俺今井晃っていうんだけどよ、」
そういって彼は延々と自慢話を語った。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。」
奈々を見るととても疲れた顔をしていた。あいつどれぐらい一人でしゃべったんだ。話つくしたらどっかいったし。
「皆さまには部屋を用意いたしました。どうぞくつろいでくださいね」
そういって香坂さんは一人ひとりにルームキーを配って回った。
「おかしな話よね」
奈々はこわばった顔で震えた声を出す。
「とつぜん、よびだされて、とまっていけだなんて」
「でも、君はきたんじゃないか」
「そう、私は来たのよ。私は、来たの」
言い聞かせるように繰り返す。
「今はとても、来れて良かったって思ってるのよ」
彼女は強引に口角を上げて笑った。