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「まったく君はマザコンなんだから」
呆れられている。
「そうじゃないよ。あっちが勝手にかけてきて、勝手にしゃべってんだから」
僕は妃呂美から、白い液体で曇ったワイングラスをひったくり、水で洗いはじめる。そんな僕の慌てぶりを見て、クスクス笑っている。
「君は几帳面というか、神経質っていうか・・・・」
「ちょっと気になるだけだよ」
そう、妃呂美はよく僕のことをA型男子って言ってからかう。妃呂美はO型女子だ。O型のオーって、おおらかで細かいこと、全然気にしないっていうオーなんだろう。よくそういう場面に遭遇する。よく泡立てたスポンジで二度洗いしたら、元のようにピカピカのグラスになった。うん、満足。
「ねっ、両めだま焼きとトーストを所望」
「はいっ、ただいま、お作り致します」
気だるそうに椅子に座った妃呂美の前にブラックコーヒーを置く。そして、冷蔵庫から卵のパックを取り出した。
僕はよく飼いならされた年下のボーイフレンド。母たちが強いから、「仰せのままに」という侍従的な動きができる僕。もう女王様はご機嫌を回復されたらしい。満足げにコーヒーを飲んでいる。
冷凍庫から食パンを取り出し、トースターへ入れた。フライパンに火をかけようとした。
「あっ、待って」
急に行動を遮られる声が飛ぶ。驚いて振り向くと、ニヤニヤした妃呂美が立ち上がった。
「ねえ、翔ちゃんの困った顔、すごくそそられる。ベッド、行こっ。その後で朝食ね」
ティシャツ一枚だけの胸が背中に押しつけられる。僕はそのまま動けなくなった。ドクンと心臓が跳ね上がる。
「ほら、来てよ」
僕は腕を引っ張られ、そのままベッドへ再び押し倒された。