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僕はなぜかマギーにポツリポツリと話していた。あいつのことを。そして日本へ帰ったら絶対に探し出して連絡してみるって。
マギーも「うん、それがいい。もしかすると友達の心が癒せるには時間がかかるかもしれない。でも、それにはまず、翔さんからのアプローチが絶対に必要だと思うから」と。そのマギーの言葉は僕の心を落ち着かせてくれた。
「マギーありがとう」
するとマギーは僕を抱きしめていた。まるで母親のように。ただのハグなんだけど。マギーはずっと抱きしめていてくれた。ドキドキ感より、安心感の方が勝っていた。
「はい、そこまで」
レイコだった。おにぎりと水を差し出された。僕たちは離れる。
「マギーのお父さん、ずっとこっちを見て睨んでるわよ」
ぎょっとしてそっちを見た。向こうは他の試合に夢中になっていた。冗談だったらしい。
あははと笑ってレイコはまた行ってしまった。
それからまた僕たちは試合をした。今度は負けた。でも楽しかった。充実した一日だった。誰もがこの試合を楽しんでいた。カナダ人も日系人たちも一緒に。
誰もが満足した顔でまたトラックの荷台に乗り込む。今度は皆が一斉に帰る。男女入り組んでいた。僕が乗るトラックにマギーが乗り込んだ。おいおい、このティーンエイジャー、父親も乗っているのに大丈夫か?
ふと手にしていたグローブに気づいた。返すの忘れてた。
立ち上がろうとしたとき、トラックが出発していた。その勢いに尻餅をつく。
隣の車にマイクがいた。グローブを振ると気づいてくれた。車から顔を出す。「マイクさん、グローブ、大事なグローブを返さなきゃ」
「いいよ。君が持ってて」
手を振っていた。マイクは別の収容所に帰るのだ。その車は先に走っていった。
「くれるってことかな」
「そうなんでしょ」
僕たちを乗せたトラックもスピードを上げる。もう夕方になっている。そこから三時間ほどかかる。皆、最初は興奮で野球の話が尽きなかったが、一時間ほど揺られると静かになっていた。マギ―が僕の肩にもたれかかって眠っていた。夕べは遅くまで外に出ていたし、今朝は早くにおにぎりを作っていた。疲れたのだろう。他の人たちも誰かにもたれかかって眠っていた。幸せそうだった。こんなに座り心地の悪いトラックの荷台なのに。
大きな月が正面に見えた。
「月明かり、あなたを想う、その笑顔」
なぜかおっきお祖母ちゃんの俳句が心に浮かび、口に出していた。その時、寝ているはずのマギーが微笑んだ気がした。
僕も睡魔に襲われたみたいだ。いつの間にか寝ていたらしい。人の気配で目が覚めた。周りに人が大勢いる。椅子にもたれかかって眠っていたらしい。クリスが目の前に立っていた。なんか怒ってる?
「探したの。ずっとホテルに戻ってこなかったから心配したのよ」
ここは日系センターだった。ドンという太鼓の音がどこからか聞こえてきた。人々がそちらへ移動していく。
「太鼓が始まる、行こう」
外へ出ると通り向かいのシティホールの前で、三人女性の太鼓の演武が始まっていた。活気づく声と共に一糸乱れぬバチさばき。見学者も多い。
僕はまだぼうっとしていた。太鼓を見ながらそっと他の人々を眺める。
確かにここは翔の時代。アイフォンで写真を撮ったり動画をとる人たちもいる。戻ってきていた。
あれは夢だったのか。それにしては生々しさが半端じゃない。さっきまでマギーが寄り掛かっていた温もりが肩に残っているようだ。でもあの世界は戦中のカスロだった。大勢の日系人、そして収容所対抗の野球。
その後、緊張気味のクリスのパネラーの語り。今までに勉強し、日系人にインタビューしてきたことを皆に発表していた。なかなか上手にまとめられていると思う。大きな拍手をもらっていた。




