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 僕たちは見覚えのある建物の前にいた。ロンが自分の鍵を取り出す。

「帰ってきてなかったこと、ばれてるみたい」

 ひそひそ声で言う。少女たちも顔を曇らせる。

「この人数はばれるわよね」

「なんで?」

 不思議に思った僕。

「いつもならここ、電気が消えてるの。でも誰かが帰ってきてないってわかってたら電気、つけておく」

 ああ、なるほど。単純なこと。

 けど、ここって今夜のイベントがあったところだと思うけど・・・・。内装が全然違う。別の場所だったかもしれない。奥から誰かがやってきた。

 険しい顔をしている中年の男性だ。

「あ、お父さん」

 レイコが僕たちの一番後ろへ隠れた。

「こんな時間まで何をしていたっ。ほら、他の家族も心配してた。さっさと部屋へ帰りなさい」

「はい」

 レイコの父親が僕に目を止めた。さすがに僕には顔を緩める。しかし、何者か探る様子。

「失礼ですが、どなたでしたかな」

「明日のことで参りました宮崎と申します」

「ああ、わかりました。ユースベリーの宮崎さんですか? 明日、一緒に行かれますか。さあ、どうぞ」

 なんだか事情がわからないけど、奥へ勧められた。僕をここへ連れてきた少年少女たちはもう姿を消していた。大丈夫なんだろうか。

 奥へいくと広い厨房。その向こうに小さな部屋があった。ドアをノックする。

「マイク、ちょっといいですか」

 

 二十五、六の青年がソファに寝ていた。

「すみません。他にもゲストがいらっしゃいまして、ご一緒させてください」

「はい」

 もう一つ、大きなソファがある。

「毛布は棚にあります。使ってください」

 なんかよくわからないが、屋根の下で眠れるらしい。明らかに他の人と間違えられている。けど、とりあえずここに寝かせてもらえそうだった。

 二言、三言、マイクと会話をして横になった。僕は一日中車内の人だったけど、疲れていたみたいだ。すぐに寝入った。明日の朝、すぐにここを出てホテルへ帰ればいい。


 僕はバタバタと階段を上り下りする音や皿を洗う音、女性たちの笑い声に目を覚ました。見るともうマイクという青年はいない。そこまで気づいて飛び起きた。

 ここはどこだ? そこへ控えめなノックの音。

「翔さん、起きてる?」

 すぐにマギーだとわかった。

「はい」と答えるとすぐにドアが開く。

 白いエプロンと三角巾を頭につけていた。輝くような笑顔にドキッとする。やはり、この子、かわいい。

「お腹空いたでしょ。キッチンからもらってきちゃった。早く食べて」

 見ると皿には三つの塩おにぎりがあった。キッチンからマギーを呼ぶ声がした。

「はあい、今、Coming」(行きます)

 日本語と英語が一緒になってる。なんか面白い。

「行かなきゃ、じゃ、後でね」


 風のように現れて、すぐに去ってしまったマギー。僕はマギーのくれたおにぎりを一口食べてみた。ほどよい塩加減。そして中に角切りの大きなたくあんが出てきた。甘目でおいしい。

僕がたくあんをポリポリと食べていると、そこへ別の少女が姿を現した。確かレイコって少女。


「あ、もう、マギーでしょ」

 僕が食べているおにぎりを意味している。

「お腹空いてるだろうって思ったから、私ももらってきたんだけど」

 こっちの子もおにぎりを持っていた。しかも三つ。なんか急にモテてる?

 その子はせっかく持って来たけど、どうしようって考えてるみたいだった。

「僕のためにもってきてくれたんなら、いただきます。けど、そんなに食べられないから一緒に食べましょう」


 そういうと少女の顔がほころんだ。僕の隣に座る。けど、食べかけのおにぎりを見つめていた。

「やだ、マギーったら、たくあんの方、持ってきたなんて」

「あれ、たくあん、おいしいけどね」

 仲がいいって思ってたけど、少し対抗意識があるらしい。

「私、たくあん、食べないの。だって、臭いがきつい」

「たくあんの臭い?」

 初めて聞いたぞ。たくあんの臭いを気にするコメント。

「そうよ。白人たちの前に出る時は気をつけろってみんな言ってる。よく歯を磨くようにって」

「ふ~ん、知らなかったな」

 レイコの顔が厳しくなる。

「父さんが好きでよく食べてる。たとえ時間がたっていたとしても、たくあん食べたってわかるの」

「じゃあ、気をつけます」

 僕が冗談っぽくそういうとレイコはにっこりした。


*****日系はたくあんを出掛ける前に食べない*****


「翔さんって、本当にマギーの婚約者? 今までそんなこと、きいたことなかった」

 僕がこの質問に答えることはしない方がいいだろう。

「マギーがそういうならそうかもしれません」

 へんてこな答え。

「そう。いいの。私はどうでも。私、ずっとボブが好きだったから、これでマギーのこと、諦めてくれる」

 夕べのボブの顔を思い出した。背も高くて白人の中でも見栄えのする少年だった。さぞかしモテるだろう。


「私のもらってきたおにぎりはからし菜っ葉の塩漬け」

 うん、ピリリとする。

「ねえ、なんでこんなにたくさんおにぎり、作ってんの」

「やだ、今日はレモンクリークでの試合があるの。そのために翔さんもここへ来たんでしょ。一緒に行くために。女性たちは炊き出し、暗いうちから始めてる。大量のおにぎりを作って持っていくため。帰りは夕方になるから、お昼ご飯と夕飯を兼ねてのおにぎりなの」


 やっぱり。ここのイベントのためじゃないんだ。なんとなく違うだろうって思ってたけど。

「みんな今日をすごく楽しみにしてたの。冬が来るからこの大会でしばらくは観戦できないし。ボブたちも行くの」


 そう話しているところへどやどやと男たちが部屋の前を通った。玲子ははじかれるように立ち上がる。見られたらまずいらしい。一緒に泊ったマイクと夕べ会ったレイコの父親がいた。それともう一人、四十代くらいの男性も僕を見る。


「翔さんですかな。わたくしはマギーの父親です。今日は一緒に連れていくように、娘に言われました」

「はあ、どうも。宮崎です」


「では、参りましょう。話は車に乗ってからでもできますから」

 何台もトラックが集まっていた。そう、夕べの違和感がわかった。路上に止められていた車のほとんどがかなり旧式の車ばかりだった。このトラックも映画の中しか見られないようなごっつい形をしている。マギーの父親に手伝ってもらってトラックの荷台に上がり、簡易のクッションを尻に敷いて座った。その隣にマギーの父親、レイコの父親も座ってくる。野球のユニフォームを着ている青年も座ってきた。Asahi、朝日って、あのバンクーバーアサヒ軍のユニフォームだ。その青年と目が合い、向こうは目礼をしてくれた。


「いやあ、本物ですか」

 僕がそう言うと周りがどっと笑った。

「僕はダグ、あそこに座っているケンも朝日のメンバーでした」

 そういうと皆がそれを誇らしげに思っていることが雰囲気でわかった。すごいと思う。

 皆は英語で話したり、日本語をつかったりしている。数時間揺られて、昨日クリスと来たばかりのレモンクリークへトラックがついた。

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