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第九話 ごはんを炊こう

「とりあえず、ここは危ないわ。怪我を直すのも後、ついてきなさい。」

そう言って、碧の女神は歩き出す。

俺は立ち上がり、女神の後についていく。

女神は俺が後ろについてきているのを確認すると、一気にスピードを上げた。

俺は見失わないように後を追いかける。マラソン選手並みのスピードで森の中を疾走して数分後視界が開け、湖が姿を現す。

女神は湖のほとりを右手に見える塀に囲われた建物に向かって走る。

塀に囲われた建物まで着くと門が開き、塀の中に滑り込む。

俺は塀の中に入ると同時にその場にうずくまってしまった。

「お仕事御苦労さま」

女神はそう言って、ポーションを差し出してくれた。俺はポーションをがぶ飲みし、体から痛みが引くのを感じる。


ここは十階層にある日本防衛隊のダンジョンキャンプ、物資の運び先になる。


「ほんま、助かったわ。姉貴ありがとな」

「どういたしましてと、言いたいけど、森の中で銃をぶっぱなすのは、どうかと思うわ」

「確かにな、姉貴が近くに居ること知らんかったら、ぶっぱなしてないな。姉貴なら、スタン状態になった俺を助けてくれると信じていたし、集まった魔物は全滅させると思ったしな」

「あら、買いかぶりよ。私が倒せない魔物も居るし、倒せる数も決まっているわ」

そう言いつつ笑顔で返答してくれる。

「あっ、この子が蘭の弟?」

褐色の女性が声を掛けてきた。

「ええ、森の中で銃声を撒き散らした。アホな弟よ。京、先に隊長に報告に行くでしょ。着いてきなさい。」

そう言って、姉貴は少し大きめな建屋に向かって歩き出す。

建屋はログハウス作りで、中には30才ぐらいの女性が木を切り出して作られたお世辞にもよい出来ではない机に向かって、デスクワークに勤しんでいる。

「園田隊長、O&O社の社員が物資搬入にお見えです」

「ん、早かったな。ええと、蘭の弟さんだったか?」

「はい、愚弟の椎堂京と申します」

「京君か、運搬御苦労。正直、かなり困っていたんだ。助かった」

そう笑顔で挨拶をしてくれた。

「ここの食事には、飽きてきたんだ。流石に半年間隊の携帯食ではいつ暴動が起きても不思議ではないからな」

「そうですか。それでは直ぐに搬入作業に入ります」

「ああ、お願いする。蘭、物資の置場所に案内しろ」

「承知しました」

そう言って、姉貴に続いて部屋を出る。

「隊長さん、ええ人みたいなや」

「ええ、苦労は絶えないけどいい人よ。京、あそこの建物が物資倉庫になるわ」

「流石に倉庫の中には展開出来んで、横の空き地でもええか?」

「ええ、問題ないわ」

俺は倉庫の横まで行きと手をかざすと、黒い霧が空き地にあふれる。そして、黒い霧が晴れた後にはコンテナが姿を現した。

「弟君、凄いね。この大きさのコンテナ持ってきたの?」

先程の褐色の女性が声を掛けてきた。

「アハハ、これしか、得意なこと無いねん」

「いや、普通この規模の空間操作出来ないよ。蘭より凄くない?」

「そうだな。私にもこれだけの空間操作はできないな。これは京の特技やからな」

「なんや、姉貴、誉めても何も出てこんで。ところで、例の物どうする?」

と言って、紙袋を取り出す。

姉貴の目の色が変わる。

「解凍状況は?」

「今すぐは無理や、夕飯まで冷蔵庫に入れとくのがええかな」

「それなら、預かるわ」

「蘭、その紙袋何?フラ○ツでいいんかな?」

「亜希慌てたダメよ。食べるのは夕飯の後」

「ちょっと待って、夕飯の後ってことはスイーツ!!!」

「ええ、フラ○ツの壺プリンよ」

「プリン、キター!!!今すぐ食べよう、今すぐ」

「ダメ。まだ、解凍が出来ていないし、先に食べれば、巡回に出ている隊員から文句がでるわ。それに今日からは、普通の食事が出来るわ。準備しないと」

「もしかして、コンテナの中身は食料!!」

「ええ、そうよ。京、ごはん炊くの任せていい?」

「えー、疲れてるんやけど」

「あら、そうなの?私は京が炊いたごはん食べたいわ」

「しゃないなぁ」

と言って、コンテナから米を出す。

「調理場はどこなん?」

「あの建物よ。亜希、案内してあげて」

「OKだよ。弟君、こっちだよ」

そして、煙突がある建物へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「何時代やねん」

と料理場の床にひれ伏す。

「水道施設は期待していなかったら、水瓶はよいとしましょ、煮炊きがかまど、薪で火つけるんか?カセットコンロもないんか。おいおい、しかも、食器が木製、手作り感まんさいの?姉貴、現代っ子にはここで調理は無理や」

「たははぁ、やっぱり、驚くよね」

「……………………………」

「あのぅ、いつも、どんな食事してるん?」

「隊支給のお湯で温めるだけで食べれる食事だよ。不味くはないんだけど、美味しくないんだよ」

「…………………姉、暴走しませんでした?」

「暴走はしなかったけど、十回ほど、連絡要員に志願してたかな。隊長にむっちゃ、怒られてたけど、あと、時々、鬼のように魔物を刈ってたかも?」

よくこのキャンプ潰れんかったな。ここの隊長さんマジ凄いわ。

「ええと、土鍋有りませんよね」

「ないよ?鍋でもするの?」

俺は目を見開き、亜希さんの顔を見る。残念やこの人、女子力紙やな。

『イーちゃん、ストレージの中に土鍋あったけ?』

『一つぐらいなら、有りますが二十人分は無理ですよ』

一旦、コンテナに戻り、側にいた姉貴に声を掛ける。

「姉貴、土鍋ない?」

「ええ、コンテナの中に有るわ、それより、お釜が有るから、ごはん炊くならそちらでお願い」

「流石、陽子さんやな。準備がいいわ」

「陽子自身が準備したの?」

「多分な、受け渡しに姿をみせたし、ところで、料理当番は誰なん?」

「今日は私がするわ。予定は鍋よ」

「それが良さげやな。ご飯卵かけでもええか?」

「かまわないわ」

俺はコンテナの中を確認すると、お釜があったのでザルとボールなどの器具も合わせて調理場に運ぶ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

まず、ピンク色のした米袋の口を開け、米をザルに入れる。ボールに水をはり、ざるをつける指を立てて二、三回、円を書くように回した後、素早くザルを上げる。

ボールの水を捨てて、新しい水を入れ、ザルを浸け、米を潰さないよう、両手で拝むように米を研ぐ。

それを20回ほど繰り返した後、一度水を変え、さらに20回米を研ぐ。そして、ボールからザルから上げて、ラップをする。

『ここまではOKやな、イーちゃん、30分測ってな』

『了解ですぅ』

『問題はかまどで中火と弱火の操作やな』

『かまど事態が暖まるのに時間が掛かるので、最初は強火で行くべきですぅ』

『そうなんか?初めては辛いなぁ。失敗したら、殺される?』

『………………………あり得ますぅ。しかし、多分、この中では、私たちが一番まともに、ごはんが炊けるはずですぅ』

『火加減はイーちゃんに頼らせてもらうわ。ほな、準備しよか』

かまどに薪と小さな枝を入れていき、火をいれる。

最初は小さな炎を消さないようにして、かまどの中を温める。

「あれ、亜希は?」

ふと、立ち寄った姉貴がそんな事を聞いてきた。

「そういえば、見てへんな」

それを聞いた姉貴は一旦、外に出て、亜希さんを連れてもどってきた。

「京、亜希にごはんの炊き方教えといて」

「姉貴、俺もかまどで炊くの初めてやで」

「まだ、マシだわ。土鍋で炊けるんだから。レシピも書いておいてね」

「京君、お願いします」

亜希さん、大丈夫か?

『30分ですぅ』

「そしたら、亜希さんごはんを炊こか、釜に水を入れる。量は米の1割増しが基本で、好みに合わせて増やす感じやな?で洗った米を入れ、蓋をする」

「はい」

亜希さん真剣にメモ録ってるな。

「火加減が難しいねん。最初は強火」

と言って、薪をくべる。暫くして、湯気が出始める。

「沸騰したら、直ぐに中火やな。火加減はこうやって、薪を外側して、炎を見ながら、調整なや」

「はい」

亜希さん、相変わらす素直や。

少しすると、釜の縁から泡が出てきた。そして、湯気が透明になってきた。

「湯気が透明になったら、弱火で5分」

「はい」

薪を調整して、どうにか弱火にする。

水蒸気は出なくなった。よし、いける。

「最後に火を止めて。10分蒸らす。」

10分たった後、蓋を取った瞬間、なんとも言えない匂いが鼻をくすぐる。米も立っているし、無事成功や。

「ああ、いい匂い。少し食べて良いですか?」

「少しだけやで、後はごはんを十文字に切って、そこからひっくり返す」

そう言って、ごはんを混ぜ、しゃもじに付いたごはんを亜希さんに渡した。

「美味しい」

自分でも、納得の出来である。

「いい匂いね。鍋も出来たから、食堂に運んで」

姉貴が顔を出しそう言った。俺は亜希さんとごはんをおひつに移し食堂に運ぶ。


『ごはんを炊くのは難しいですぅ』

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