第四話 学園ランキング戦 その四
百メートル四方の会場に、二人の少女が降り立つ。
一人は、純白の甲冑のようなプロテクタを着けた姿で、刀を片手に持って佇んでいる。
もう、一人は、ドレスのような赤いプロテクタの姿で、両手でカドリングガンを持って、試合開始の合図を待っている。
「昨日の様子を観ると花菱さんが、有利そうだな。さくら君は、遠距離高火力を苦手にしているのだろう」
「昨日までならな」
「ふっ、1日で苦手はかえられんよ」
「そうかもしれないな」
会長といろはが、雑談をしている。
ブー 試合開始の合図が鳴り響く。
最初に攻撃を仕掛けたのは、花菱さんのほうだった。手に持つガドリングガンをぶっぱなすと同時に魔力を練り、氷の礫を広範囲にばら蒔く。明らかに、アウトレンジからの攻撃に徹し、内側に入らせない作戦のようだ。さくらも前面のバリヤを厚くして、ダメージを受けないように、少し距離を取る。
「花菱さんは流石だな。ガドリングガンの破壊力と、あの魔力は力強いな」
そう、会長が呟く。
さくらは、相手の攻撃を受けないように、少し遠目から、様子を伺っている。花菱さんは、距離が空いている時は、ファイヤボール、中間距離はガドリングガンで、さくらのバリヤにダメージをいれる。
不意にさくらの姿が霞んだ様に見えると、猛スピード間合いを詰まる。花菱さんは、それに合わして、ガドリングガンで迎え撃つ。
ガガガガガガ、ガドリングガンから激しい炎が迸るそんな激しい弾幕が跳んでいる所を、さくらはスピードを落とさずに、まるで、弾丸をすり抜ける様に進んでいく。フッとさくらの姿が消えた。と思った瞬間、ガキーンと大音響が会場に響く。
会場には、花菱さんの横を通り過ぎ、刀を一閃したさくらの姿と、気絶した花菱さんの姿があった。
「何が起きたんだ」
会長が叫ぶ
「超スピードで突っ込んで、急停止、再度トップスピードで間合いを摘めて、急所の首筋を刀できったんやろ」
「はぁ、それはそうだが急所とは言え、一撃でバリヤを破壊できる訳ない」
会長は手のひらで顔を抑え、天を仰いだ。
周りの生徒会の役員も、驚きで、目を剥いている。
「結果的に、破壊しとるんやから、できるんやと思うで、目の前でおきとるんやさかい」
ありのまま、状況を説明する。
「鬼灯君、昨日、彼女に何をしたんだ」
会長が昨日の事を思いだし、いろはに問いかけた。
「調整しただけやけど」
いろははそう答えた。
「いろはが、完璧に調整したせいもあるんやけど、主な原因は、さくらの実力やで。昨日まで、調整失敗しとったから、普通の三分の一も、出力出でへんかったのちゃうか」
「冗談だろ、出力が三分の一、そんな状態で、彼女は勝ち続けていたのか」
終いに、会長も青い顔をしながら、呆れている。
「普通なら、いろはが調整しても、10パーセントも出力が変わらんはずや。だから、この結果はさくらの実力やな」
「ちょと、待って。いろは君が調整したら10パーセントも出力がかわるの。調整なんか機械が自動でするんやから、結果が変わる訳ないじゃない」
紬先輩が問いかける。
「普通なら、そうなんやけど、いろはは、無花果博士の息子やさかい。フィードバックの調整が完璧にできるねん」
「ちょっと待て、無花果博士に息子がいたのも驚きだが、鬼灯くん、君はフィードバックの中身を知っているのか?」
「ノーコメント」
「会長さん、フィードバックの細かい内容は、機密やさかい。いろはは何も応えんで。というか。そんなこと知っていたら、世界中から、狙われるから、知ってる訳ないやん。ただ、調整の仕方を知ってるだけやで」
実際、フィードバックの大幅な改良ができれば、世界地図が変わる騒ぎになる。
「まっ、花菱さんは、射撃型やから、一撃で決まったけど、次はそない上手くいかへんと思うで」
と俺は締めくくった。
それから、個室に昼食が運ばれてきた。俺といろはは、席を外そうとしたのだが、クラス代表の優勝戦も、一緒に観るよう勧められた為、引き続き、会長と一緒に観戦することになった。
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お昼が過ぎ、クラス代表の優勝戦が始まろうとしていた。
「さくら君の相手は、葵英雄、葵家の御曹司か」
「前評判通り、いい生徒やね。」
「そうだな、紬。戦績も全勝やしな」
「たかちゃんでも、あんな長い両手剣扱うの難しいじゃない?」
葵君は、150センチはありそうな両手剣を構えている。
「確かに、あの長さと重さの得物を扱うのは、私には無理だ」
体格のいい、高倉先輩でも扱うのは、難しいようである。
そして、生徒会のメンバーで、試合分析の雑談をしていると試合開始のブザーがなり響く。
両者とも様子見の為か、その場を動かず隙を伺っている。
三分くらいたった。いきなり、さくらが猛スピードで間合いを詰め、斬撃を三回放つ。迎え撃つ葵君は、その斬撃を両手剣で受け止め、返す刀で上段から、降り下ろす。さくらは、間一髪の処で、攻撃を避け、大きく間合いを取った。
「さくらさんは、流石だな。流れるような動きと、あの素早い斬撃」
「葵君、強化魔術上手すぎるんちゃうか」
「確かに、あのパワフルな動き、相当強化魔術が上手なんだろう。しかし、少年、それはさくらさんも同じだろ。あの流れるような動き、何かしらの強化魔術を使っているのだろ」
「はぁ、普通そう思いますな、だけど、さくらは、一切、強化魔術つかっておません」
「ん、強化魔術なしに、あの動きか?」
「桐生院流は、強化魔術やのおて、マナを直接使って身体強化するねん。だから、魔術強化より、しなやかに動けてますやろ」
「本当だな」
会場は、さくらがスピードを生かして、バリヤを削ろうとしているが、葵君のパワーを生かした防御術にあまり、上手くいかず。逆に時折、葵君の重たい一撃を受けている。ただ、葵君のほうは、積極的に攻撃ができず、受けの体制になっている為、膠着状態になっている。
さくらが、少し間合いを取ると、刀を鞘に納め、腰を落とす。数分間、会場が重たい空気に支配される。ッ 弾けるようにさくらの姿が消えたと同時に、葵君の両手剣が唸りをあげて、打ち降ろされる。一瞬、さくらと両手剣が重なって見えたが、紙一重に躱し、一閃、居合で胴を切る。キィン、甲高い音の後、葵君は前のめりに倒れ動かない。
WIN 柊と電光掲示板が勝者を讃える。
こうして、さくらの優勝が決定した。
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「さくら君が優勝だな」
「近接戦闘型が、ワンツーフィニッシュてのも、珍しいね」
麻生先輩がそう漏らす。
「あの二人が特別やとおもうで、普通なら、花菱さんで、決まりやろ、遠距離高火力は正義やからな」
「確かに、遠距離攻撃は対人戦としては、有利に違いない、また、剣術は一朝一夕では、身に付くことはできんからな」
とこんな感じで優勝戦の感想を皆で話していると、表彰を終えたさくらが戻ってきた。
「さくら君、おめでとう」
「流石、さくらやな」
「さくらさん、凄かったよ」
皆がそれぞれ、お祝いの言葉を陳べる。
「ありがとう」
さくらが笑顔で喜んでいる。
「ところで、生徒会に参加する件は、決心がついたかな」
会長さんが切り出した。
「すみません。お誘いは嬉しいのですが、お断りします」
さくらがキッパリと謝辞をする。
「う~ん。こちらとしては、主席でランキング戦の優勝者を逃したくないのだが、どころで、先ほど、入る部活は決まっていると言っていたが、なに部に入る予定なんだ?」
「料理部です」
「料理部?あまり聞かない部だな」
「みっちゃん、料理部は前の天道会長がやってた部だよ」
「天道会長は、そんな部活をしてたのか?」
「何でも、自分が入りたい部活が無かったから、一年生の時に自分で作ったみたい」
「はぁ、流石というか、なんというか、天道会長らしいな」
「あら、会長さんたち、天道兄のこと知ってるんや、わいらも、天道兄から、部活に悩んだら、料理部にしとけ、っていわれてな。しかも、料理部って何すんねんて聞いたら、自由と答えやがんねん。」
「ははは……、だけど、其れなら、ダンジョンに潜るのも一苦労だろう。さくら君、幸い今は、仮入部の期間だから、とりあえず参加して、私たち生徒会と一緒に潜るのはどうだ」
会長が妥協案を提示する。
「ですけど……… 」
さくらが渋る。
「すみません。会長さん、こっち来てくれますか?」
俺はある提案する為に、会長さんを壁際に呼ぶ。
「会長さん、さくらはちょっとアホなとこあって、いろはと一緒にいることを行動基準にしてるんですわ。そこで、提案なんですけど、俺といろはも部外協力者にしてもらえへん。さくらは、いろはと会える理由さえあれば、生徒会に参加するとおもうねん」
「それなら、部外協力者ではなく生徒会の一員でもいいが?」
「う~ん、確かにそっちでもええけど、いろははダンジョンに潜らんで、ほとんどの時間を、開発に費やすはずやから」
「ああ、構わない。逆にいろは君にメンテナンスして欲しいぐらいだ」
「そしたら、決まりやな」
会長との密談も終了したので、
「さくら君、鬼灯君も生徒会に入ってもらうことでどうだろう」
と会長が切り出したところ、
「はい、それなら、生徒会に入ります」
と、さくらが答えた。チョロ過ぎる。
『やっと、ランキング戦終わりですぅ』