第十七話 ごはんを再び炊こう
寮の食堂でいろはと一緒に食事をしていると、麻生先輩が笑顔で向かいに座る。
「京ちゃん、リスト持ってきたよ」
手には一枚の紙が握られていた。俺はその紙を受け取り書いてある内容を確認する。
「…………………………アホか?」
「京ちゃん、先輩に失礼だよ」
麻生先輩が頬をふくらませて抗議する。
「あのな、麻生先輩。流石にこれは無理や。リュック3つでも入らんで。それにお金がないなら買いようがあらへん」
俺はそう言って断る。
「京ちゃん、いけず」
「麻生先輩、これって、オーダーに出して依頼料払うのはダメか?」
いろはがいきなり、変な提案をする。
「いろはちゃん、それだよ。それなら、払えるよ」
「いろは、要らんこと思い付くなぁ。まっオーダーならある程度ならかまへんけど、問題が二つ程ある」
「何?」
「一つは俺も現金をそんなに持ってない。精々、三万ぐらいや。後、会社にいかなあかんので、買い物する時間も限られてる」
「だめじゃん」
麻生先輩か泣きそうな顔をしている。
「そしたら、通販出来るようにしたらいいのでは?」
「いろは、通販しようにも外のお金がないねん」
「流石に、ダンジョンで稼いだお金を全部使えるのは不味いけど、金額、一万とか決めて買えるようにしたらいいのでは?」
んんん、いろはがやけにいいアイデアだすな。
「確かに有りかもな。しかし、その管理するシステムだけでも、かなりのお金がかかるんちゃうか?学園が出さんやろ」
通販にするにしても買える品目は規制する必要がある。盗聴器やカメラなんかを取り寄せたら偉い騒ぎになるし、一応、学園内は機密だらけでもある。
買えるものの管理、生徒の残金管理、届いた物品の管理、いろんな物が必要になる。
「お金は皆で出せばいいのでは?これだけいれば、数千万ぐらい集まると思うし。発注をうちの会社に出せば、学園内の電子マネーで取引できるし」
おっ、なんか具体的になってきたぞ。
「いろはちゃん、いけるよ。それ」
「麻生先輩、簡単にゆってるけど、これ提案書作って、みんな説得して、学園に交渉しなあかんのやで。かなり、うっといで」
「うぅぅ、難しくてもやらなきゃいけない時はあるんだよ。京ちゃん。いろはと京ちゃんは提案書作って、私はみんなを説得するから、学園の交渉はみっちゃんに丸投げしよう」
そんな感じで、やる気満々の麻生先輩に押しきられ通販システム設置計画(仮称)を準備することが決定した。
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金曜日に物資を受け取った後、週末は予定通りキャンプに向かう。八階層まで問題なく到達して、キャンプに向かって光で合図を送る。
『おっ、返ってきた。そしたら、降りようか。イーちゃん、周囲警戒お願い』
『ハイですぅ』
そして、八階層の山を降る。
降った先には、亜希さんら5名の防衛隊のメンバーが待っていてくれた。
「亜希さん、おおきに、助かります」
そう挨拶をした俺の手を亜希さんが涙目で握る。
「弟君、心から来るのを待っていたよ」
そう涙声で挨拶をする。
「ど、ど、どないしたんです。何かあったんですか」
「うん。ごはんが上手に炊けない」
「………………………御愁傷様です」
確かに亜希さんかなり不器用だった感じがする。
姉貴は不味い飯でも平気で食べるが基本、超が付くほどの美食家である。炊き上がりを失敗したごはんを殺気を放ちつつ食べてるはずだ。
「まっ付いたら、炊き方、教えるんで行きましょか」
「うん、弟君。ありがとう」
そうして、防衛隊の人と一緒にキャンプにむかった。
途中、何度か魔物に遭遇したが防衛隊の人が討伐してくれたので、自分では後ろから見ているだけで、キャンプに無事着くことができた。
「亜希さん流石やな。魔物、簡単に討伐するやなんて」
「毎日、訓練で討伐してるからやね。それに外苑は余り強い魔物も居ないし」
「まっ、防衛隊に所属してるんやから強いの当たり前か」
「確かに学園の生徒よりは強いかな。防衛隊の中ではペイペイだよ。だから、毎日、十階層で訓練してるんだし」
一般的に言われてることに、ダンジョンに潜って魔物を倒せば倒す程、マナの総量が増える傾向が高くなる。科学的根拠が無いのだか、経験則的に知られてることだ。
「京、着いたの。ご苦労さん。ついて早々悪いんやけど、亜希にもう一度、ごはんの炊き方教えてあげて」
「姉貴、それは亜希さんからもお願いされたで。だけど、姉貴、あんまり亜希さん虐めたあかんで」
「京、貴方は食べていないから言えるのよ。焦げたごはんや、お粥のようなごはん、芯が残ったごはんは食べれたものではないわ」
目が怖い。うん、ちゃんと教えよう。
納品を済ませて、園田隊長に挨拶した後、食堂に向かう。
其処には亜希さんが待っていた。
「とりあえず、亜希さんの思う通りやってみてください。あかんとこ有ったら、ゆうんで」
「うん、解ったよ」
そう言って、倉庫に米を取りに行く。
米はこの前と違って、普通のコシヒカリだった。
亜希さんは米をボールに入れようとしたので、直ぐに止める。
「米はボールやなくて、ザルに入れるねん」
「え、ザルに入れたら研げないよ」
「最初は研がずに汚れを落とすだけやから、ザルをボールに浸けて、指を立てて二、三回して直ぐにあげるねん」
「何で直ぐに上げるの?」
「米は乾物やから、水に浸けたら吸収するんやけど、こうして、直ぐに上げると水のコーティングが出来るらしい。で、コーティングが出来るとぬかの匂いが米に移らへんねんから、風味がよくなるねん」
こんな感じで亜希さんが作業を進めながら、間違っている所と釜の火加減等を細かく指導しながら、ごはんの炊き方を教えた。
「うん、旨く炊けてる。ありがとう。弟君」
指導のかい有って、旨く炊くことができ、その日の夕食はとても美味しかった。
姉貴のお叱りを受けずに済んで良かった。
夕食後は、コンビニで仕入れたくるみ餅を姉貴と食べる。
「コンビニでも中々美味しいな」
「か○袋ぼどては無いけど、いい味出してるやろ」
「老舗と比べるのはかわいそうだわ。それに此処ではコンビニスイーツでも贅沢品だしね」
「そらそうか、甘味は大事なのにな」
こうして、どうでも良いことを喋りながらキャンプの夜を過ごした。
『亜希さんは料理下手ですぅ』