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ユーリ君は母からありがたくないプレゼントを頂いたようです。

 エルサレム邸よりも尚広く、大きな運動場が用意され石作りで出来たその建物はそこに集う少年少女の気持ちを映すかの如く白く、沢山の子供達が集まり勉学に励む事のできる部屋が幾つも並んでいる。


 そんな場所にがやがやと沢山の子供達が押し込められ将来的には子供達の楽園へとなるようなならないような。そんな場所、学園。


 異世界からの勇者が建設したその学園の一つであるここは、ソクラクラミス国の南方に位置する領土、エルサレムやユーベリッヒ、テリズムと行った三領土に住む少年少女が通うことになるフィッツガルド王立学園。

 

 その部屋の一室Cクラスと名付けられたその部屋で今少年が一人、20人ほどの少年少女を見ながらもドキドキとまたはカチコチとも言えるように身を縮めながら壇上に立っている。

 

 少年はその歳頃の身長にしてはすらっとした細身に背は高く、またその顔は男らしく悪くはないのだが珍しい黒髪を長めに伸ばし、ゆるくウェーブの掛かったその髪は異邦人被れした家族には好評だがなんともその場のものにはそのセンスは伝わらず結果ダサイなどとも言われてることには気がつかない。

 

 つまりユーリである。


 ついにこの時が来たのである。


 8歳になったユーリが異世界の勇者が作った学園へとこれまた勇者が伝えた「らんどせる」なるものを肩に掛け登校したのも柄の間。

 

 各部屋へと配置されめがねを掛けた女性教師に各自自己紹介を始めると伝えられ待つ事20分、名前の表記上最後の方の紹介となってしまったユーリはそうしてそこに立っていた。

 

 ――ここで失敗しちゃ駄目なんだ! 


 そう、自己紹介。

 専属メイドであるターシャ曰く

 「いいですか坊ちゃま! 自己紹介とは自らを周りの者に印象づける大切な場です! 男子たるもの紳士にかつ華麗に! 大人の男だと印象づけるのです!」などとぐっと拳を握り力説していたのを思いだし実行する。


 「初めまして。ユーリ=エルサレムです。宜しく御願いします」

 

 簡潔に。それが一番だと紳士なつもりで挨拶する。

 

 「なんか面白くなさそうな子だね」

 「あの髪ださいね」

 「弱そうだなー」

 

 ぼそぼそと声が気こえてきた。聞こえてる……聞こえてるよ……ターシャの嘘つき!全然駄目じゃないか!とあの専属メイドの性癖の犠牲になったユーリはそれでも微笑む。

 

 「はーい、ユーリ君良く出来ましたね。それじゃあ席に座ってくださいね」

 

 「今日が皆さんの初めての登校になりましたけど実技のやテストの成績の結果でクラスが変わるまではみんな仲間ですから仲良くしてくださいね」


 だが子供達の顔はあまり浮かない。

 それというのもこのCクラスと言うのが原因である。 

 勇者が作った学園。

 ここは教育を施し未来を担う子供達を育てると言うことなのだが学力面よりも実技が優先される。

 それも魔王が居なくなったとはいえ、国間の戦争や魔王の意志をつぎ襲撃する魔族がまだまだいる為。その結果未だ戦力増強といった面も強いのだ。

 

 そして子供達のその悲しそうな表情。

 このクラスは4クラスある内もっとも実技の成績が良くないものが集まるクラス。とどのつまり落ちこぼれ組だ。

 

 「はい、みんなの気持ちも分かりますが。まだまだみんなの成長はこれからです。だからみんなも頑張れば卒業する頃にはSクラスにだって成れちゃうかもしれないですよ。それに魔法の授業もまだですからね」

 

 子供だてらに遠くを見つめ、光りを映さない濁った目でやさぐれそうになっている子供達へと先生は励ましの声をあげる。


 

 「それに実技ばかりじゃないですよ。あまり評価はされてないとはいっても沢山の知識も大事ですからね」

 

 「はい」と少しだけ希望が見えたのか光りを灯した瞳となった子供達が声を上げる。


 「それじゃあ今日はみんなと仲良くなる為にもグラウンドで簡単な遊びをしましょう」

 

 そう先生に先導され、歩いて行く。

 

 「ユーリ様」

 

 声を掛けられ振り返ると一組の男女。

 

 「えっとレオ君とフィーネさん? でも様って?」

 「私とレオ君はエルサレム領から来ています。それで同じクラスにもなりましたしご挨拶しようと思って」

 

 丁寧に、だが快活そうな短い金髪を揺らしながらレオが呼びかけ、茶色の髪をショートに切り揃えたフィーネが言葉を続ける。二人は平民なのだろう。身につけている服装からそうは思うが、丁寧過ぎてユーリには少々歯がゆいものがあった。

 

 「丁寧に話さないでもいいよ。それに僕は養子で次男だから将来領土を継いだりもしないし普通に接して貰えたらいいな」

 

 それに初めて声を掛けてくれたクラスメイトだ、できれば仲良くなりたいと思っている。

 

 「それで金髪じゃなくて黒髪なんだな」

 

 納得と言った顔でレオは頷く、エルサレム家のものは皆金髪、特に黒髪は東方の一部地域のもの位しかいない珍しい色だ。

  

 「分かった。宜しくねユーリ君」と応えて来る二人と握手を交わしユーリ達は外に出るのだが。

 

 外にでたグランドにはそこに合ってはならないであろうものが何本も重なり置かれている。

 

 木剣や木槍、様々な訓練用の武器が置かれていた。


 丁度その数20本。ぴったり人数分。

 

 「えっと? なんだろうねあれ」

 

 フィーネが自分の目を疑ったのかごしごし目を擦った後幻覚でなかった事を確認し告げた。


 「なんだか嫌な予感がする」

  

 レオの顔色が悪い。

 

 グランウンドへと集まった少年少女へと振り向く。

 

 「ではこれから模擬訓練をします」

 

 え? 声が出ず騒然となるクラスのみんな。

 

 「もう訓練ですか?」

 

 実技の授業は今日はない筈である。

 

 「そうです。他のみんなよりも遅れている分。今日から必至になって訓練するんです」

 

 「ええ,決して皆さんが上位のクラスに移れば先生のお給料がアップするとかそういう事ではないですよ」

 

 聞かれもしないのに先生は良い訳がましくめがねくぃっと上げながらその場の者に告げる。十中八九お給料が目当てのようだ。

 

 「特に三ヶ月後にはクラス対抗武術大会があります。それで良い成績を収めて貰えればそれはなけなしのお給料にボーナスがでるなんて事は絶対にないです。先生は純粋にみんなが強くなれるように応援しているんですから」

 

 誰も疑ってはなかったのだがそれを言ってしまっては本心はダダ漏れであろうが先生は気づく様子がない。どうやら彼女のお給料は雀の涙ほどらしい。

 

 因みに学園とは行ってもこの世界において子供の労働力は捨てがたいものがある。その為学園の子供達は皆何らかの依頼や、任務をこなす事で報償を得、一部は学園の収入にもなる。

 

 必然、最下位クラスが稼げる金額は最も低く担当する教師のお給料は少なくすかんぴんな状態であるらしい。

 「さぁみなさん。それじゃあ武器をもって二人一組になってください」

 

 ――う~んどうしよう。

 

 皆が木剣を選んで持っている中、ユーリみ見るのだが少なくなっていく木剣の内木刀が混じってる事に気がつく。

 それを見て木刀にしようか迷ったのだが形だけでもやはり慣れ親しんだものを持ちたいと思い木刀を選び持った。

 

 「あら、やっぱりユーリ君も刀術を学んでいるの? エルサレム家の方みな刀術を学んでいるらしいですからね」

 他の子供達は我先にと木剣を握っている。

 刀術は習う機会も少なく通常の剣とはやや扱いが異なる為、専門で刀術を学んで居ないものは扱い辛い、そう言われている為あまり学園では人気がない。

 現に自分から木刀を選んだのはユーリだけであった。 それが原因か目立ってしまったようである。

 

 ――失敗したかな?

 

 そうは思うがこれくらいなら良いだろうと思ってしまった。

 

 「なら上のマルフォイ君のようにもっと強くならないとね。エルサレム家の皆さんの刀術は強いと有名ですから、頭だけじゃなくてちゃんと実技も頑張らないといけませんよ」

 

 「は……はい」

 

 驚く事に兄であるマルフォイは学年でも有数の力を持っているらしくSクラスらしい。と言っても家でユーリと共に訓練していたのだから不思議はないのかもしれないが。

 

 だがユーリの実技の成績はかなり悪い。丁度同年代の子供の力加減が難しく結果最下位に近い成績をとってしまっていた、逆にターシャによる(勇者式)詰め込み学習とユーリ専用の魔法であるツヴァイの魔法のお陰で既に学力と言う点では2歳上のマルフォイよりも進んでいる。

 

 結果学力はトップ、実技は下層と言う見るからに頭でっかちな子供の印象を教師達に残してしまっていた。 

 「それじゃあ皆さん二人一組になってください」

 

 ユーリを取り残し皆が相方を作っていく。先の自己紹介が不評だったのだろうか不思議と置いてけぼりになる。

 

 「ユーリ君、組まないかな?」

 

 天からの助けかなんと木剣を持ったレオが声をかけてくれた。

 

 「うん。ありがとう」

 

 どうやらレオはかなり人が良いらしいとほくほく顔でユーリは答える。


 フィーネは同じ女の子の相手を見つけたようで手には木杖を持っている。

 

 「それじゃあ今から勝ち抜き戦をします。それじゃあ始め」

 

 言われそれぞれの得物を構えるユーリとレオ。ユーリは言わずもがなレオも剣を嗜んでいたらしく構えは堂に入っている。

 

 「それじゃあ行くよ」

 

 レオが告げると同時踏み込みながら剣を袈裟切りへと斬りかかるとユーリは木刀を掲げ剣先を下げるとかつんっとぶつかり合う澄んだ音がなり一撃を流すと距離を取る。

 

 力を使わないように。力を隠す必要のあるユーリが今ターシャより訓練させられているのは身体能力を極力使わない柔を信条とする刀術だ。 

 

 レオが少しばかり目を見開くとまた踏み込み力の限り剣をふるって来る。

 

 一合、二合、三合――と十合めを打ち合った時は木刀のぶつかり合う音すら鳴らず横滑りに木剣を流すと。ユーリは内心喜ぶ。たまにだが理想的な受け流しができたと。

 

 とまたもやレオが剣を振ってくるのだが今度はユーリの剣がはじき飛ばされ木刀を落とすと跳ね上がった木剣がそのままピタっとユーリの脇で止る。

 

 「あれ? 勝てた?」

 

 不思議そうな声音でそう漏らす。

 

 ちょっと失敗しちゃったのかな。

 わざとらしかっただろうか。

 

 最初の友達になってくれたレオに全力を出して相手にできないのは残念ではあるが。


 「うん。受け流せなくて失敗しちゃった」

 「振っても全然当たらない気がしてたのに、全然手に衝撃が伝わってこなかったよ」

 

 「それまで」

 

 先生の声で話しが中断されほっとしながら周りを見ると他の子達は既に決着がついていたようで終わるのを待っていたらしい。

 

 「それじゃあ今度は勝った子達同士、負けた子達同士で組んで続けて行くよ」

 

 そのまま他の子達とも同様にして受け流しの訓練をしながらも負け続けて行くのだが他の子は何も感じず嬉しがっている。そもそも受け流しの僅かな衝撃の違いを感じたレオが鋭敏だったのだろう。彼は順当に勝ち上がっている。

 

 「ねぇフィーネさん」

 

 隣に来ていた彼女へと尋ねてみた。目の前で模擬戦をしているレオを指さし。


 「レオ君強くないかな?」

 「うん、レオは本当はSとかAクラスでもおかしくないんだけど――」


 「けど?」


 「今からそろそろでると思う」

 

 じっと見てみるとユーリを相手にしていた時よりも動きがかなり悪くなっている。


 ――どうしたんだろう?

 

 なんて思ってる内にレオのぎこちない構えの隙をついて相対する少年が木剣を振り下ろしピタリと頭上で止めた。

 

 ――レオ君なら簡単に防げそうだったのに。

 

 視線を横に向けどうして?と視線を送ると。

 

 「レオは凄く緊張症なの。注目されるともうテンパっちゃって……」


 あ~あ、負けちゃったなんて言いながらもそう説明してくれた。

 

 「でもユーリ君人の事気にしてる場合じゃ……」

 

 憐憫の眼差しを向けられる。それもその筈。ユーリはそのまま負け続け最下位になってしまっていたのだから。

 「あ~。うんそうだね」

 「悔しくないの? 一度も攻撃してなかったみたいだけど?」

 

 少々呆れの混じる目を向けられそうつげられるのだがどうしようもない事だと一人思う。


 もっと力加減が上手になればいいのだろうが現状では攻勢に出て加減を間違えないと言う自信はなかった。

 

 「仕方がないから」

 「そう、変わってるね」

 

 「そうかな?」

 「うん、他の男の子は負けたりしたら悔しがるもん」

 「そっか。うん、そうかもしれない」

 

 悔しいと思う気持ちも多少はある。だけどそれは負けた事ではなく、友達になってくれたレオに対して手加減しか出来ない歯がゆい思いだ。

 

 「負けちゃった」

 

 総当たり戦が終わったレオがこちらへと足を向けてくる。その顔はどよーんと暗い。


 「また緊張症がでちゃったんじゃない?」

 「やっぱりフィーネには分かっちゃう? もう視線が集まると何も考えられなくなっちゃって」

 

 ユーリとは別種の悩みか、だがなんとなくレオに親密感を覚えてしまう。

 

 「笑わなくたっていいだろう?」

 「ごめん、ちょっとおかしくなっちゃって」

 「そうだよ、ユーリ君はその前にもうちょっと強くならないと」

 「え? ユーリ君が?」

 「うん、だって一勝もしてないよ?」

 

 フィーネの言葉にレオが首を傾げる。

 

 「それではみんな戻りますよ」


 先生が声を掛けて教室へと戻り席へとつき始めるみんな。

 

 ユーリも席に着こうと歩き始めるのだが、


 「あ、ユーリ君は待ってそこの席」


 指を差されたそれをキョトンと目を丸くして見る。

 

 先生の顔を見て指をさす。


 「ここ……ですか?」

 

 「はい、建設した勇者様が考えた発憤装置です。なんでも今の状態から抜け出してやる気を促す効果があるらしいです。訓練で最下位になった子はここに座る伝統なんですよ」

 

 座る。とは言うがそこには椅子がなかった。

 机、と言えるものもない。

 

 ただ地面に木の箱が置かれ箱の横にはご丁寧に「みかん」と書かれている。


 「えっと……」

 

 先生の目を見るのだが先生は鷹揚に首を大きく頷かせる。

 

 「やだー恥ずかしい」

 「クスクス」

 

 

 どうやらユーリの定位置が誕生してしまったようであった。

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