行けユーリ! 背後に忍び寄る毒牙から逃れるのだ。ルケインは羨ましいようです。
ユーリは庭をかけずり回っている。
あわわわわわと慌てながら走るその後ろには幾つもの氷のつぶてが弾丸となってユーリを襲う。
シャロンの翌日の訓練でシャロンが考えついた魔法を実戦していた。
ツヴァイ。そう名付けられた魔法。取り込んだマナを自分自身に使い時計の針が高速で動くイメージ。それがもたらした事象はユーリの思考速度、運動能力を加速させる魔法だった。
そしていざどれくらい動けるようになったか調べていたのだがそれが拙かった。
急激に体の動きが速くなったことに体が驚いたように思わずユーリがこけてしまったのだ。
もにゅっ
だがユーリを柔らかく受け止めたものがあった。さらに拙い事に、ほぇ?とその柔らかい感触を堪能してしまったのだ。視界いっぱいに広がったそれはもにゅもにょと両手で触ってしまった。
「はっ……んん」
なんだか甘い声がしたのだ。ユーリはその声を生涯忘れないだろう。
あれ?と思って一歩後ろに引いてみると。
そこにいたのは銀髪エルフ事シャロン先生。
シャロンは胸を腕で覆っている。えっと……自分の手の平を見てわきわきと動かすとシャロンをまた見た。
目と目が合う二人、その目を見てると汗が滝のように出てきた。
「ユーリ君?」
その顔は少し赤い。でも目が笑っていなかった。
「ちょっとその魔法でどれだけ動けるのか試してみましょうか……」
シャロンが両手を上げると周りから凍りのつぶて。しかも尖っている。
シャロンから発せられる空気そのままに生み出されるその氷がユーリへと襲いかかったのだ。
「ごめんなさ~~~~~~~~~~い」
そして二倍速になった体でかけずり回りつぶてを避ける。避ける。ひたすら避ける。先回りして放たれたつぶてを身を捻ってよける。庭は徐々につぶてが散らばり足場を無くしていく。さらには降り注ぐつぶてが段々と大きくなっていく。
こわいこわいこわい!
シャロンは笑顔のままつぶてを放ち続けてくる。それはもうものすごい笑顔だ。でも行動と顔があってない。怖い。
足場が無くなってきた。ユーリは気づいていない。シャロンに誘導されている事を。
そんなユーリの目前には庭の壁が迫る。
「ユ~リく~ん、今度はユーリ君の体がどれだけ丈夫か試してみようか」
とても楽しそうな声。そして笑顔。
陽気な太陽に照らされて明るくユーリを照らしていた。だが太陽が見えなくなり太陽の光を遮るように巨大な氷のつぶてができあがっていく。
(ふわぁあああああああああああ!)
がくがくと足が震え冷や汗がどっと出る。
ユーリの何倍も大きなつぶてユーリへと襲い掛かり。
少年の叫び声が辺りに響いた。
◇◆◇
「どうなんですか? ユーリの魔法は?」
ユーリの義母エルザがシャロンに尋ねた。ターシャによるユーリ育成計画のメンバー、ルケイン。エルザ、シャロン、ターシャが揃い踏みだ。
「凄いですよ。やっぱり時空魔法で間違いないです特異属性ですね。それにあれだけの魔膚ですから他の魔法でも十分一流レベルになれると思いますよ」
「それは凄いですね」
手を口にやり口元がにやけるのを隠すエルザ。
「剣の方はどうなんだい?」
養父ルケインそんなエルザの顔を見た後、ターシャの顔を見てそう尋ねた。
「まだまだ体の動きは荒いですけど身体能力は高いです。体術にも興味を示していますから今の内に鍛えたらかなりの実力者になると思います」
言葉を受け嬉しくなるルケイン。その顔を見れば一目瞭然だ
最早本当の我が子同然に思っている二人。
どれだけ親馬鹿ですか!
そう思われてる事を二人は知らない。
「ただ達人になるのはいいのですけど……」
シャロンが口を開く、少しだけ影がさしたようなその瞳で。
「このままではユーリ君は女ったらし、いえ、エロの達人になる可能性があります!」
力強くそう告げられた。隣ではターシャがほろりと涙を流した。
二人は犠牲者だ。既に裸を見られ。シャロンに至っては胸まで揉まれてしまった。
本人にその気はないだろうが天然で不埒な行為を働いてしまうのだから困ったもの。
「うむ。それは良いことじゃないのかな?」
うむ、羨ましい、いや男としてまさに本懐。空気を読まずにルケインがいう。
「あなた……?」
告げるエルザの目は冷ややかだ。そしてメイドとエルフもルケインを射貫くように冷ややかな目で見ている。
「お仕置きが必要のようですね……」
ほほほ、と笑みを浮かべながらルケインの襟を掴むとずるずるとエルザが立ち去っていく。
その日エルサレム家では男の泣き叫ぶ幻聴が聞こえたらしい。
後日。
「あの子を紳士に育てあげるのです!」
エルザの許可がで、ターシャ、シャロンのユーリ漢化推進委員会が発足した……らしい。