表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

そうだ魔法だ!アナスタシアがお前を狙っている!

 「ユーリ坊ちゃま。奥様がお呼びです」

 

 子供部屋で勉強していたユーリに担当メイドのアナスタシアが声をかけて来た。先日ユーリに恥ずかしい思いをさせられたアナスタシアであったが、ユーリの身体能力を見て、「是非担当にしてください」とルケインに申し出たのであった。その理由の半分はマルフォイのようにエロガキ、もとい性欲に忠実な者ではなく女性として(アナスタシアの)理想的な男に育て上げようと言う画策があるのは秘密だ。


 そうして漢ユーリ育成計画中であり、頭の良い子になって欲しいとアナスタシア主導の下こうして勉強に勤しんでいるユーリである。

 

 「はい。分かりました。今行きますね。ありがとうございますアナスタシアさん」

 

 きちんとメイドにお礼を言うユーリ。ユーリは素直である。どんな者にも敬意をとアナスタシアが教え込めばこの通り。澄ました顔で「はい、行ってらっしゃいませ」等と言っては居るが心の中では「良し!」と拳を握りしめていた。

 

 そうしてユーリが部屋から出て母エルザの元へと向かうのであった。


 「呼ばれましたか? 母さん」

 「来ましたか、ユーリこちらへ」

 

 呼ばれ、ユーリはエルザの元へと向かう。その視線はエルザの隣にいる女性へと注がれている。

 

 「ユーリ、この方があなたの先生になる。エルフのシャロンです。ご挨拶しなさい」


 じぃっと紹介された女性を見る。見た目は10代後半位だろうか。銀色の長髪に線の細い体。細身かつ豊満な体はマリア先生を超えるかもしれない。だが。

 耳?

 耳が細長く突き出ている。それが気になってしまう。そうだ。挨拶しなくちゃと、ハッと我に返って挨拶した。


 「ユーリです。宜しく御願いしますシャロン先生」

 アナスタシアに言われた通り紳士なつもりで挨拶するユーリ。


 「宜しくねユーリ君、すごい才能の持ち主だってエルザが褒めちぎっていたよ」

 

 その声は高く綺麗な声をしている。


 才能……あるのかな?

 

 初めて使った魔法で壁を木っ端みじんにしてしまったのだ。時間も30分以上も掛かってしまっていた為ユーリにはそんな風に思えなかった。

 そう内で思っているユーリは首を傾げてしまう。

 

 「ユーリ、エルフは魔法に長けた種族なのユーリ見たいな子の先生にはぴったりと思うわよ」

 

 「あの?」

 「何? ユーリ君?」

 「もしかして失礼な事かもしれないんですけどエルフとは何か聞いてもいいでしょうか?」

 

 シャロンがキョトンとした表情になり、笑った。

 

 「どうしてそう思うの?」

 「先生がエルフって言うのなのに僕が知らないから……それを先生に尋ねるのは失礼かもしれないって」

 

 重ねてユーリは今アナスタシアの毒牙。ユーリ漢育成計画のまっただ中である。女性に対して失礼な事をすればアナスタシアが怒るので常に気を張っていた。


 「いえ、大丈夫よ。エルフと言うのはね、種族の一つなの。11番目に生まれた種族と言われていてね、昔の数字で11を表すエルフと名付けられたのよ。私達の特徴はこの長い耳、魔法や弓の扱いが得意な者が多いの。私は魔法ね。だからユーリ君の先生になったんだよ」

 

 柔らかい笑みを向けられ照れてしまうユーリ。

 

 「はい。宜しくお願いします」

 「ユーリ。くれぐれもこの間のような事はしないようにね?」

 「は……はい!」

 

 アナスタシアを裸にしてしまい反省文1万回を書いた辛さは身に染みていた。

 

 何のことか分からない。と首を傾げる。シャロン。

 「分かれば良いのよ。シャロン。ユーリを頼むわね?」


 「えぇ、エルザの息子なんだからね。立派に育ててみせるわ」

 

 とそう言ってついておいでと庭まで連れて行かれるユーリ。

 

 「さて、ユーリ君。一度君の魔膚を見せて貰えるかな?」

 

 そう言われ、上着をたくし上げるユーリ。

 シャロンの細く白い指がユーリの胸に触れる。

 

 ぴくっと体が反応するもユーリは受け入れる。

 そのままシャロンは指で魔膚の表面をなぞっていく。 

 「うん、分かったありがとう」

 「どうなんでしょうか? シャロン先生」

 「うん、ユーリ君。魔法に得意分野があるのは知ってるかな?」

 「はい、本に載っていました。魔膚で大体分かると書かれていました」


 「うん、それで君の場合なんだけどね」

 「はい」

 「少し複雑過ぎて分からないの、もしかしたら時空魔法と呼ばれる魔法なのかもしれない」

 「時空魔法ですか?」


 少なくとも今まで読んだ本には載っていなかった。

 「そう。どんな魔法の種類があるのか分からないんだけどね。時間と空間を操る魔法と言われている、そもそも扱えた者がいるかどうかすら分からないんだけどね」

 「そうですか……じゃあ試してみるしかないんですね?」

 「うん、だから今日はマナの動きを見た後に少しその魔法を意識して使ってみよう」


 「はい! 先生!」

 

 元気で宜しいとシャロンは頷く。

 

 「それじゃあマナを体の中に取り込んでみて貰えるかな?」

 

 「はい!」

 

 元気に答え、ユーリは胸に手を当てるとマナを取り込む為に集中する。

 

 (これは……)

 

 シャロンはマナの動きが読めるようになる魔法を使っている。その動きは圧巻の一言だった。

 規格外。そう呼ばざるを得ない量のマナがユーリの心臓へと取り込まれていく。

 魔膚がいくら巨大であろうとも人の身で扱えるマナの量には限界がある。心臓に許容量があるのである。


 (これが異邦人と人とのハーフの影響?)

 異邦人の筋肉はこの世界の人とは質が違う。同じ質量で何倍もの力を持つ。そして心臓は心筋の固まり。筋肉の中でも持続もあり、力もある。それが異邦人の物となるとまさに別格なのであろう。

 

 一人驚愕をうけつつもシャロンは続きを促す。

 

 「そのまま丹田までマナを移動してみて」

 「はい!」

 

 ユーリがへその下までマナを運ぼうとするのが分かる。だがマナが濃密に貯まり過ぎているのだ。シャロンの目には全身が輝く程マナを蓄えたユーリの姿が映っている。

 (あまりの総量でマナが散ってしまっているんだわ)

 「ユーリ君、一度どこでも良いわ。マナをぎゅっと締め付けるようにイメージして」

 「……はい!」

 

 言葉を告げユーリの全身に散ったマナが心臓へと集まっていく。締め付け、圧縮する。シャロンの目から見ても類を見ない程のマナ量が圧縮され、球状になっていく。それは少しずつ小さく、小さくなりやがて結晶の様に小さくなっていく。実際の所マナを扱う際はその場所に集める。よりも一度集めたマナを移動させる。と言う方が動かしやすいのだ。


 (綺麗……)

 マナの結晶。とてつもなく圧縮されたマナ。それは磨き抜かれた金剛石よりも遙かに輝いている。

 

 (この子……凄いかもしれない)

 扱えるマナ量もさることながらすぐにここまで圧縮して見せるとは。

 シャロンの胸が踊る。この子なら世界一の魔法使いも夢ではない。

 

 「いいわ。今度はそれを思った所へ動かしてみて」

 「…………」

 

 集中しているらしい。返事は無いが話しをちゃんと聞いてる事はマナの動きを見ればすぐに分かる。マナの結晶が体のあちこちに動く。右腕、右足、丹田、左足、左腕、顔。体をぐるりと回転させて言っているのか徐々にもっさりとした動きだったのが段々と軽快な動きになっていく。圧縮させた分だけ魔法は威力が強くなる。そしてそれはイメージが強固な印でもある。そのため動きも付けやすいのだ。


 だがシャロンは調子に乗ってしまった。

 今だかつて見たことがない魔法の弟子、その才能に目を奪われ重大なミスを犯してしまう。

 

 (時空魔法……空間……空間を切れないかしら?)


 「ユーリ君。右手に集めた後に、空間が二つに割れるように。ううん。いくらでも良いわ。目の前の空間がいくつかに割れるようにイメージしてみて」


 「は……い」

 集中しすぎているのだろうか、何かスイッチが入ってしまったかのように表情すら作らず己の内側を意識している。恐らく今目の前で何が起こっても気がつかないであろう。シャロンはゾクゾクしながらその目に魅入られそな自分を自覚する。

 

 と、右手まで動いたマナが解放されようとしている。魔法の発動間近、そしてそれはユーリの手から解放された。


 次元断。名前を付ければそう呼べるかもしれない。

 ユーリの周囲に映る物がずれる。幾百、幾千と。

 

 (あ!)

 

 しまった、と咄嗟に思った時は遅かった。視界には自分がいた。

 

 空間が割れる音。それはガラスが割れるような甲高い音だった。


 死んだかもと。咄嗟に目を瞑るシャロン。

 

 じっと目を閉じ。


 (あれ?)

 

 痛くない。


 そう思って目を開ける。

 周りを見渡すがどうやら不発だったらしい。

 いや、使ったマナ量に対して起こそうとした事象が大きすぎたのか。その場合不発、又は不完全な形で発動することになる。

 

 と、ユーリの顔を見るシャロン。

 何故だろう。ユーリの顔が赤い。

 シャロンから目を背けるもちらちらとこちらを見ている気がする。

 どうしたんだろう?

 あれ、おかしいな?なんだかすーすーする。

 

 そう思い自分の体を見てみる。

 

 一瞬思考が飛んだ。

 

 裸である。

 まさに布きれ一枚身につけて居なかった。

 咄嗟に自分の体を両手で覆い隠す。


 恥ずかしい。

 へたり込み体を少しでも隠そうとするシャロン。


 「み……みた?」

 「は……はい……ごめんなさい……」

 

 顔を真っ赤にしながらユーリはそう答える。

 とても申し訳なさそうな声である。

 

 そしてユーリが家へと走っていく。


 (ちょ……おいていかないで!)


 体を動かせば色々とみられてしまう。それだけは避けたい。だがユーリが居なくなれば……

 

 一人全裸で人の庭にいるエルフ……

 完全に痴女であった。


 「も……戻って来てぇ」

 最早その声は涙声。ぐずぐずである。


 だが神はシャロンを見捨ててはいなかった。

 てててっとユーリが駆け足で戻ってくる。

 手には白い何かを持っている。

 

 「ごめんなさい……これ……取りに行っていたんです」

 

 涙が出てきた。

 渡されたのはバスタオル。

 

 「うん……いいのよ……ごめんね……私が悪かったの」

 

 「な……何をしているのですか二人とも?」

 

 ユーリの背後から声がする。

 ぞくり。

 ぎぎぎっと使い古したからくりが音を立てるかのように首を動かしその声の主を見る。

 

 目の前には笑顔の母エルザ。

 

 「ユーリ……説明して貰いましょうか?」


 身振り手振りで慌てふためくユーリ


 48のお仕置き技。

 発動なるか。


 そう思われたがシャロンが何度も説得したお陰でなんとか事なきを得たユーリだった。




 後日。


 「ユーリ! お前エルフの裸を見たのか! 見たのか!? 見たんだな!?」


 と鼻息を荒くしてマルフォイに詰め寄られ。

 

 「ユーリ坊ちゃま。理由が何であれ女性の裸をみだりに見てはいけません」

 

 と正座でアナスタシアからお説教を受けたのであった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ