灰色の魔導師
昔とある世界に不思議な力を持った女の子がいました。女の子はつやのある巻き毛の金髪金眼で器量もよく、大勢の求婚者がいましたが、ある時地底の国に住むという闇の王に目を付けられ、暗くて寂しい地底の世界に落とされ、城閉じ込められてしまいました。城はもの凄く寂しく、壁はおどろおどろしい蔦に覆われていて、到底若い娘が耐えられるはずもありませんでした。しかしこの地低からのがれすべもなく、若い娘はあきらめ王の愛撫を受けるほかしかありませんでした。若い娘は望めばなんでも手に入れることができ、叶えられました。
但し自由になることを除いてでありましたが。彼女の噂は地上にひろまりましたが、彼女を助けに来るものなどおらず、彼女の悲しみが消える日はありませんでした。
しかし指を折って数え切れないほどの年月がたちとうとう娘を助ける勇者が現れました。
いや……世界を救うための勇者でもなく、噂を聞いて憤った無鉄砲の若者でもなく、女の力を吸い取ろうとした悪い魔導師でしたが……。彼は地底の国に潜伏し、王が定期的に地底の国を不在にする日があることに気づき、地底の闇に紛れこみ彼女のもとにいく手はずを整えました。そしてとうとう彼は王以外は触れることも見ることもかなわない女のところにたどりつきました。しかしここで彼に予想外のことが起きました。彼は力だけを頂いて帰るつもりでしたが、あった途端自分をくるおしいほど求めさせそして決して手に入れられないものを感じ、気づいた時には彼女を抱えて逃げていました。彼女は驚きつつも長年願ってやまなかった地上に戻ることになりました。しかし彼女は長年幽閉されていたため、歩けなくなり、男が抱えて逃亡しました。
ところが人間界と地底のはざまで逃亡に気づいた王に追いつかれてしました。王は冷たく嘲笑って言います。「その娘はわがものだ。その娘は私の元でしか生きられない。もし娘を置いていけば、この件は見逃そうぞ」と。男は黙ったままにらみ合います。今まで黙っていた彼女が口を開きました。「どうか自分を置いてにげてほしい。私は王の元に戻るからその代わりこの男をひどい目にあわせないでくれ」それを聞き王は了承しました。しかしあくまでも口約束。連れて帰ったら今まで以上に閉じ込めて、男を殺すつもりでしたが……。しかし男は「悪いなぁ。オレは生憎女に守られるのは性に合わないんでね。」と言うや否や、ひそかに高めていた魔力を爆発させ逃亡しました。女は逃亡中なぜだと問い詰めました。すると
男は深い青の瞳をきらめかせてさわやかな笑顔で答えました。「最初はお前の力を目的にお前に会いに来たが、お前をあの監禁することしかできない馬鹿な王になぜか嫌気がさしてしまったからさ。お前はこんなくらく地味地味した所に閉じ込めるのが惜しくなった。」
彼女はその言葉に胸を打たれ、かつて自由になりたいという思いを思い出しました。
(この人、私の力を奪おうとした悪い人のはずなのに、何故・・・・・)
他の人から力を吸収しようとすることを好みそれにより大魔導師を目指すこの魔導師は実は悪人らしからぬ所がありました。時たま変な気まぐれや良心を起こして困っている人を助けようとしたり悪人に立ち向かうなど悪人らしからぬ所があります。「オレはオレの信条で生きる。その生き方は誰にも左右されない」と常日頃からの口癖でした。
それから王の執拗すぎる追手を交わし、自分に恨みを持つ輩をかわして男は少女を守りぬきました。
やがて二人が誰にも手が出せないようなところに落ち着いたところ、女はすでに力を失っていました。
なぜならば、彼女も男を守ろうとして自ら力を使い切ったからです。そして彼女は長年の幽閉生活がたたって体は衰弱していました。そんな中に彼女は男の子供を身ごもりました。男は反対しましたが、彼女は
うなずきませんでした。たとえ自分の命を引き返えにしてもこの子を生みだしたい。自分はもう長くない自分をあの奈落の底から救い出してくれたあの人のために自分の形見となるべきものを残したい。
彼女の懸命な訴えは男の心を動かしました。「好きにするといい。オレは……お前に宣言したものな。お前の自由にさせるとな」と認めたくないようでしたが、しぶしぶ頷きました。
月日が満ち彼女は残りわずかな力をつかって一人の茶髪の髪で深い青の目の女の子を産み落としました。「貴方は本当に悪にも善にもなれない。白でも黒でもない丁度貴方の灰色の髪のように。でも私はあなたのそういうことが好きよ、この世界で誰よりも。さよなら、私が愛し救ってくれた人」と最期に命がらがらにそう言って眠った。
男は残された娘を抱き茫然としながらも「オレは……。何故この女を助けそしてこのようにずっとそばにいたのだろうか。」と自分の行いに立ちすくんでいた。自分はもともと他人の力を吸収し世界の覇者となるべく生きてきた。だが、この女と出会って何かが変わった。この女は馬鹿な王にとらわれもはや生きる気力を無くした目をしていた。金色の瞳はもっと生き生きすれば輝くだろうにと何だか生ける人形になり下がっていることに無性に腹が立ったのだ。自分の生き方に性に合わないような気がして、何とか彼女に輝きを取り戻したいと思ってしまったら体が動いた。だがこの女を助けたことは後悔しない。自分の心のままに従ったまでであるから。そう思うとかつて彼女に自分の決意を述べた時と同じ悪者に似ぬさわやかな笑顔をして今も母を恋しがって泣きだす自分の娘を見てこう言った。「お前もお前らしく、お前のままにつよく生きろよ。母親のごとく誰にも囚われずにな。」娘はそれを聞き泣きやんで、まじまじと見つめやがて母親似の笑顔を浮かべた。
後にこの娘は風のように奔放に生きたと後世に伝えられている。誰にでも縛られずに生きる、それがこの娘が父親の口癖とともにいっていたという。
麻生愛海です。これからも投稿し続けていきますのでよろしくお願いします。