予想もつかなかった。
クゥを頭に乗せたまま、塔の近くへと着地する。
町からは見えないもんだから迷うかと思ったけど、そんなことはなく、無事つくことができたことに、ホッと胸を撫で下ろす。
だって急いでって国王様にも言われたし、迷子になってましたー!なんて言ったらどんな白い目で見られるかわからないもんね。
そういえば昔、スーパーで迷子になったときに、一人でてくてく家まで帰ってお母さんに驚かれたっけ。そのあとめちゃくちゃ怒られたけど。
いまだに方向音痴ではないようで安心した。
それはともかく、相変わらず首が痛くなるような塔を見上げながら!よし!と気合いを入れて歩き出そうとしたら…お迎えが来てました。
はい、眼福なおにいさんこと、タジールさんです。
「始祖様、お迎えに上がりました。」
にこやかに手を差し出してエスコートしてくれるのは嬉しいんだけどさ…なぜに私が来るってわかったの?
え?GPSとか仕込まれてないよね?
二度目のエレベーターに乗ってシア婆のいる塔の上に向かうまでに、ハテナマークで頭がいっぱいの私に、タジールさんが苦笑しながら軽く説明してくれた。
なんでも精霊たちが騒がしかったとかで、シア婆は私がここへ向かっているんじゃないかと気がついたんだそうだ。
で、タジールさんを迎えに寄越してくれたらしい。
GPSが仕込まれていないことには安心したけど、そんなに不思議そうな顔をしていたのかと思うとちょっとショック。
(そんなに顔に出てたかなぁ?)
どうやら私にポーカーフェイスは無理なようだ。
そんなこんなで着いた塔の上にシア婆は静かに佇んでいた。
私に気付かず、ただただ何もないところを見つめている横顔はなぜか嬉しそうにも悲しそうにもみえて、声を掛けるのがはばかられる。
そのまま何分か経って、やっとこちらに気付いたシア婆は、私の顔を見て笑顔を見せてくれたあと、すぐに驚いた表情に変わった。
視線の先には私の手、いや、手に持っている日記帳がある。
「…それを…それを一体どこで…」
私にそう尋ねるシア婆の声は震え、懇願するように日記帳へと手を伸ばす。
「リングルの教会で預かったというか貰った?んです。どうぞ。大した事は書いてありませんでしたけど、書いてあった内容が一部気になって…シア婆なら何か知ってるかなって…」
私から日記帳を渡されたシア婆は悲痛の表情でそれをゆっくりとさすった。
そして呟いた名前に私は…
「モモカ様…」
パズルのピースがカチリとはまるような不思議な感覚を覚えたあと、頭が真っ白になり、意識を失った。