突然の別れ
「あれ?サーラさん、もう登録は終わったんですか?」
一人脳内パニックに陥っていた私は聞き覚えのある声に後ろを振りかえる。
そこにはどこかほっとした様子のミーナが立っていた。
「あ、ハイ、終わりマシタヨ、それはもう万事滞りナク」
完全に脳がショートしてカタコトになってしまった私の返答にミーナは不思議そうな顔をしている。
「サーラさん、何かあったんですか?」
魔導鏡とやらで働き先に連絡が取れたのであろう。
明るいミーナの表情を曇らすわけにはいかない。
「ううん。大丈夫。ミーナは?連絡とれたの?」
「はい!それで…急なんですけどこれから出発する商隊がナディア国まで行くみたいなんです。だからその…」
ああ、別れか…そう思った。
たかが8日一緒にいただけとはいえ、別れは寂しい。
異世界で最初に出会ったのはミーナだから。
「そっか…気を付けるんだよ?ナディア国に行ったら絶対会いに行くから!」
「っはい!絶対ですよ!約束ですからね!」
私とミーナは固い握手を交わして別々にギルドを後にした。
(なんか寂しいな…)
ちょっぴりセンチな気分に浸っていた私だったが、そんな暇はないと思い直す。
そう、私には問題が山積みなのだ。
ミーナにはまた会える!
それよりも、ギルドカードに記された訳のわからない称号?といい、昼間に出歩けないという呪いの打開策といい。
「とにもかくにも、まずはあそこからかな…」
私の視線の先には城がそびえたっていた。
てくてくと町を歩く。
目指すはお城。
魔術師団長に会うためだけに。
近くにみえた城は意外と遠い。
もう、この短い足が本当にうらめしい。
大体、縮む必要があったのか?
どうせならもっとグラマーな大人な女性になりたかったよ。全く。
そんなことを考えながらやっと辿り着いた城は大きかった。
当たり前だけど、恐そうな門番?らしき人も立っている。
(うわぁ、恐そうな顔…ってそうじゃない!魔術師団長に会わないと…)
「たのもー!」
私が声を掛けると門番さんにギロリと睨まれた。
うん。なんか色々間違えたっぽい。
やり直そう。
「あのー、すみませーん」
「ん?なんだいお嬢ちゃん、迷子かい?」
意外にも優しそうな人でした。
恐そうだと勝手に思ってすみません。
「えっと、迷子じゃないんですけど…魔術師団長に会いたいんです。」
「魔術師団長に?そりゃなんで…っっ!ちょっと待ってなさい!」
門番さんは私と話すためにしゃがんでくれたけど、私の目を見て足早にどっかへ行ってしまった。
(うーん、瞳の色で吸血鬼ってばれたかな?ま、いっか)
バレたらバレたでしゃーない。
まぁ、待ってろって言われたから待とう。
そう決めて10分位経った頃、急に騒がしくなった。
沢山の人の足音がこっちに近付いてくる。
(え?なんかやばい感じ?!まさか不審者として捕まるとか?!)
ビクビクしながらもその場を動けずにいると、城の門からわらわらと人が出てきた。
皆、ローブを着ている。
皆のローブの色が白なのに一人だけ青だけど。
「副団長、こちらのお嬢さんです!」
門番さんが私の方を指差すと、ローブ軍団が一斉にこっちを見た。
(恐いってば!皆で視線よこさないでよー!)
一人ガクブルしてると、青ローブの男の人がこっちに近付いてくる。
真剣な表情が恐い。
近付く青ローブ、一歩ずつ後退する私。
まぁ、私の短い足で後退したところで、すぐに捕まったけどね。
「魔術師団長がお待ちです。お嬢様。」
青ローブの丁寧な物言いに、私は(え?捕まるんじゃないの?)と思いながらポカーンとアホ面を晒した。