婚約?んなバカな!
「はい!?何故に?」
王様がいきなり発表した内容に私を含め、会場の全員が度肝を抜かれたと思う。
だって、「ユリクとサーラ殿の婚約が決まった」だよ?
てか、私とユリクさんって付き合ってたっけ?
色々すっ飛ばして婚約とか…全く意味がわからないんですけど!!
何がどうなってるのか聞こうにも、ユリクさんは王様の隣に行っちゃったし、完全に私はパニック状態です。
「サーラちゃん?大丈夫?きっと国王様にも何か考えがあって…」
「そうじゃな。このタイミングでこんなことを言い出したのじゃから」
「うん。サーラはとりあえず合わせておいた方がいいと思う。」
「僕もそう思うー」
いや、そんなこと言われても…今までに彼氏も居なかった私がいきなり婚約者を演じろってどんな無理ゲーだよ!
チラリとユリクさんを見ると、頷いてるし…。
なんでちょっと顔が赤いのかはよくわかんないけど、とりあえず『日本人が得意とする曖昧な笑み』を発動させておいた。
明らかにひきつっているであろう笑顔をユリクさんに向けた途端に、周囲から「おぉー!!」とか「ユリク様にもやっと春が!」とか歓声っぽいのが聞こえた気がするけど、気にしちゃダメだ。
(考えるな…うん。私は女優…私は女優…)
なんとかマインドコントロールで落ち着かせた私が周囲を確認できるまでになった頃には、皆がこそこそ話をしていた。
「これで敵が炙り出せたかしら?」
「そうじゃな。明らかに敵意を向けた視線がいくつかあったようじゃ」
「でも意外と少なかったね」
「うん。でも動揺した人はけっこういたよー」
(ん?敵が炙り出せた?あぶりだしって…私はミカンの汁かなんかかい!?)
つまり、あれか?
エルフ至高主義とやらは、『ハイエルフと他種族との婚約』って事柄に反応して敵意を含んだ視線をこちらに向けてくるであろう事を予想してこんなことになってるってこと?
王様…いくらなんでも仕掛けが大きすぎやしませんかね?仮にも王族の婚約ですよ?
それにせめて、そういうことは前もって説明して頂きたかったんですけど…主に私の精神的な面で。
理由がわかった私は呆れと安堵が入り交じったような気持ちで大きな溜め息をついた。
それから一時間、危惧していた襲撃もなく、穏やかな時間が過ぎた。
チラチラとこちらを窺うような視線を気にしなければの話だが。
まぁ、こんなに人が居るところでいきなり襲撃とか馬鹿な事はしないわな。
せいぜい気を付ければいいのは罠とかそんなもんだろう…なんて思いながら紅茶を飲んでたんだけどさ…居ましたよ!馬鹿な事をする人が!
そして私含め、仲間は全員、只今絶賛戦闘中です。
「くそっ!!何で魔法が効かないんだ!」
襲撃者たちが吐き捨てるようにそんなことを言ってるけど、無視ですよ?
私が仲間全員に保護膜を3重にして掛けたんだから魔法なんて効くわけがないじゃないですか。
それこそ、ハイエルフでもない限り、この保護膜は破れない。
そういう風に計算して掛けたんだから…。
だから早く出てきてくれないかな…『我が君』。
あなたの手先はもう残っていないようですけど。
15人程の倒れている襲撃者を尻目に、私は招待客が殆ど逃げて居なくなった会場を見回す。
そして一人の女性に目をとめた。
「見つけた」そう呟きながら。
サーラは地味に怒っております。
人を手足の様に使う『我が君』がお気に召さない様子。
次で決着ですよー。