帝国主都へ
チュンチュン
鳥のさえずりで目を覚ますと、窓のところでミーナが鳥にパンをあげていた。
「あー、ミーナ、おはよ。悪いんだけど窓…」
「あ、ごめんなさい!すぐ窓とカーテン閉めますね!」
チラリと見えた外の景色は快晴。
窓から差し込む光に力が抜けていく体がうらめしい。
前ならば「あー、いい天気!」なんて気持ちよく伸びをしていたくらいなのに…。
(絶対アンディって人に会って、何か対策を練らなきゃ!)
と朝から密かに熱意をもやす。
こんな体のままじゃたまらない。
お散歩や買い物だってままならないんだから!
「朝食出来てるぞー。」
ザイルさんの言葉に飛ばしかけていた意識を取り戻した私はミーナと共にキッチンへと向かい、帝国の主都へ行くという言葉に過剰な反応を示し、アンディという人の素晴らしさを話し続けるセラフィさんをスルーしながら朝食を済ますという技を身につけた。
うん。一日だけだけど慣れって怖い。
朝食を済ませた私達は商隊が到着するまでの間、買い物をしようということになった。
とはいっても、買い物に行くのはミーナだけ。
私はほら…切なくなるから事情は察してほしい。
「じゃあ、食料と洋服買ってきますね!」
「あ、うん。出来れば帽子もお願い!」
「はい。じゃあ行ってきます!」
まぁ、帽子くらいでどうにかなるとは思わないけど、ないよりましだろう。
ミーナを見送って、私はベッドへ横たわった。
(光を遮断してるのに体がだるいって何の呪いだよ!)
と心の中で悪態をつきながら。
「サーラさん!サーラさん!」
ミーナの声で目が覚める。
どうやら悪態をつきながら眠ってしまったらしい。
お陰で目覚めの気分は最悪だ。
自分のせいだけど。
「あ、起きましたか?買ってきましたよ。帽子と洋服!食料はもう商隊の荷に積んであります。」
「あ、うん。ごめんね。ありがと」
ミーナに渡されたのはつば広の麦わら帽子と無地の水色のワンピース。
それに着替えれば立派なカントリーガールの完成だ。
いや、それを目指してた訳じゃないけどね。
あ、言い忘れてたけど季節は夏だ。
こちらにも四季のようなものはあるらしい。
日本みたいにハッキリとはしてないみたいだけどね。
どちらにせよ、私にとって今が最悪な季節なのは間違いない。
そんなことを考えているとミーナから興奮ぎみな声が飛んできた。
「うわぁ、良く似合ってます!洗面所に鏡がありましたから見てきたらどうですか?!」
記憶にある自分の顔にこの装いを身に付けたところを想像しても、似合ってるとは思えない。
でも、似合ってると言われれば嬉しいのが乙女心だ。
私は足取り軽く、洗面所に向かい、鏡の前に立って驚愕した。
(どこの美少女、(幼女)だこれ!!!)
流れるような黒髪、ここまではいい。自慢じゃないけど「綺麗な髪だねー」って良く言われてたから。
問題はここからだ。
まず、大きな銀色の瞳。
はい、これもミーナに言われてたから想定内。
スッと通った鼻筋。
桜色のプルプル唇。
はい、完全にアウト!
だって日本人だよ?
のっぺり顔がデフォルトの!
寒さでカサカサだった唇が、なにもしなくてもプルプルな桜色だなんてあり得ないでしょ!
でもこの鏡が魔法の鏡でもない限り、これは『私』だ。
さっき着替えたばかりの洋服に麦わら帽子まで被ってるんだから。
「これが噂の異世界補整ってやつか…」
無理矢理自分を納得させた私はいつまでも戻ってこない私を迎えに来たミーナと共に商隊の馬車まで移動した。
ちなみにその間の記憶は…ない。
「達者でな!」
「いつでも遊びにいらっしゃい!」
ザイルさんとセラフィさんに見送られ馬車の荷台へと乗り込む。
「「ありがとうございました!」」
たった一晩しか居なかったのに、何故か寂しい気持ちになりながらお礼を言い、私は遠くなっていく二人を姿が見えなくなるまでずっと見ていた。