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決意


「二度と…二度とドレスなんて作るもんか!」


およそ二時間にも及ぶ地獄のような時間で魂が抜けたようになった私は、全員が部屋から退室したのを確認してからソファーにぼすんと倒れ込む。

結局、ドレスの色は紫色に決まり、デザインはお任せした。

だって、私がドレスのことなんてわかる筈ないし、何より精神的に限界だったんだもん。

王族メインに衣装を作っている職人さんたちらしくて、久々の子供用ドレスの注文に少しテンションが上がってしまったらしい。

少しどころじゃなかったような気がするのは私の気のせいだろうか?


「それにしても王族とか貴族の人って凄いわ…あんな苦行に耐えられるなんて…」


お母さんが死んじゃってから、バイト漬けで既成の服すらあまり買えなかった私とは本当に住む世界が違うんだと思い知らされる。

いや、まず世界自体が違うんだけども。


そんなことを考えながらソファーでだらーんとしていると、訪問者を告げるノックの音が部屋に響く。


(ん?誰だろ?マヤとハイジかな?)


「はーい。どうぞー」


「失礼する。少し話があるのだが…入っても構わないだろうか?」


部屋の扉を開けたのはなんとユリクさんでした。

やばっ!!私、ソファーでダラダラした格好のままだったよ!




弾かれるように身だしなみを整えて、ユリクさんに入室を促す。

既にだらしない格好を見られてるからあんまり意味ないけど、乙女心ってやつだ。

それよりも…ユリクさん、なんか幽鬼みたいにやつれてるんだけど…一体何があったのさ!?


「サーラさん、申し訳無い!」


「え!?どうしたんですか!?ちょっと!頭を上げてください!とりあえず座って話しませんか?」


「あ、ああ、そうだな。済まない」


はぁー、焦った!!

いきなり頭下げられるんだもん!

ユリクさんがヨロヨロとソファーに腰かけたのを見て、私も対面に腰かける。


「あの、ユリクさん?どうしたんですか?」


「実は…」


語られた内容は明日の夜会の事だった。

なんでも、夜会には王族、つまりユリクさんの従姉である三姉妹と、この国の貴族が集まるんだって。

その中に、どうやら昨日襲撃してきた人達のボス的な人がいるらしい。

何で私だけが狙って襲撃されたのかはまだ不明だけど、夜会に私が出席すれば何か仕掛けてくる可能性が高い‥…と。

成る程。でもさ、それって謝ることじゃなくない?

大体、何かあるんだなーって気付いてたし、私を囮にしてこの国に巣食う差別を少しでも無くせるなら、私が王様でもそうしたと思う。

そう言ったら、ユリクさんは顔を歪めた。


「俺は…サーラさんを危険な目にあわせたくない。国の為と自分に言い聞かせても、決心がつかない。果たしてこれが正しい選択なのか?と。」


「うーん…そんなに難しく考えなくていいんじゃないですか?」


「だが…」


「私には仲間が居ます。サリアさんやマリア、リズにジン君、そしてユリクさんが。王様…は仲間って言うにはちょっとおそれ多いですけど、精霊王だって居る。はっきり言ってこの鉄壁とも言えるガードの中で危険な目にあう事ってあるでしょうか?それこそ夜会の招待客全員が敵じゃない限り可能性は低いですよね?」


「だが可能性はゼロではない。」


「いや、ゼロです!私は仲間を信じています。それに忘れているかも知れませんが…私は吸血鬼始祖ですよ?私だって戦えるんです。守られているだけじゃない。」


「…ああ、そうだったな。サーラさんはそういう人だった」


「はい。だから苦しまないで下さい。寝てないんでしょう?酷い顔してますよ?」


「ハハッ、そうか。酷い顔してるか!」


「はい。アンデッドかと思いました!」


「そうか…サーラさん…ありがとう。俺はまたあなたに救われた…」


「どういたしまして?」


ユリクさんが出ていった扉を見詰めて考える。

『また救われた』って、私、なんかしたっけ?

うーん、わからん。

それにしても…ユリクさんは優しいなぁ。

あの顔が曇るのは見たくない。美形が台無しだよ!


それに、思い詰めたようなユリクさんを励ますように言った言葉だけど、全部私の本音だ。

お世話になってるこの国が壊れていくのは見たくないし、私は仲間を信じてる。

短い時間しか一緒に過ごしていなくても、皆、充分かけがえのない存在だ。

少なくとも私にとっては。

命が軽いこの世界で何も知らない私が今まで生きてこられたのも仲間が居たからこそ。

だから許せない。

目的は何であろうが、仲間を捨て駒のように使って、今ものうのうと生きているであろう『我が君』と呼ばれた人間が。

それに私は一騎当千とも言われる吸血鬼の『始祖』。

誰が相手だろうが、必ず勝って生きてやる!

相手の思い通りには絶対させてやるもんか!


私の強い決意に感化されたように体の周りを漂う光が強く光った気がした。










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