始祖(リズナベット視点)
妾はリズナベット・フィーリア。
いつものように空の散歩をしておったら凄まじい魔力の波動を感じたのじゃ。
(これは.…サイランか!?何が起こっておる!?)
急ぎ方向転換をしてサイランへ向かうことにした。
まぁ、途中ではぐれドラゴンに喧嘩を売られたゆえ、相手をしておったら少々手間取って、サイランに着くのが遅くなってしまったがの。
「この辺じゃと思ったんじゃが…ん?あれは!」
町へ着いた妾は魔力の波動を感じた場所をふらついておった。
そしたら見つけたのじゃ。同胞を。
いや、同胞と呼べるのかはわからぬ。
なぜなら吸血鬼の中でも力が強いと自負しておる妾が『敵わない』と肌で感じるほどの強さを持った少女だったのだから。
妾は歓喜と畏怖で震えた。
そして悟り、合点がいったのじゃ。
数ヵ月前から感じておった血の騒ぎ、会ったこともない少女に感じる母のような温もり。
それが導き出す答は『始祖』。
その瞬間、妾から畏怖の感情が消えた。
ただただ、始祖様にあいまみえたこの時代に生きていることへの歓喜のみ。
その感情に浸っていたいと思ったが、このままでは始祖様を見失ってしまう。
今も少女は幸せそうな顔で歩を進めているのだから…。
妾は焦った。そして…
「おい!そこの娘!」
思わず出てしまった言葉にしまった!と思ったが、少女は妾の声に反応を示さない。
それに対してなぜか無性に腹が立った。
「おい!そこの吸血鬼の娘!」
苛立ちを露にし、そう声を掛ければ少女は恐る恐るといったようにこちらを振り向く。
ポカンとしている顔はいただけぬが、その瞳に妾が写っているのかと思うとそれすらも嬉しい。
(ああ、やっと…妾を見てくれた…)
そのあとに少女が紡ぎだした言葉に思わず反応し、反抗してしまったのは…まぁご愛敬というやつじゃ。
そう、子供の頃から名乗っていなかった『吸血鬼大帝』と名乗ってしまったのも…。
『素直じゃない』
『ひねくれもの』
そう言われ続けた妾の性格はまだ直っていないようじゃ。
その後、少女に手を引かれ連れていかれた王城で幼なじみ…?のサリアと久方振りに会うこととなるとは…。
サリアとの言い合いは毎回のこと。
あやつは昔のことをまだ根に持っておる。
ただあやつの息子…カルロスといったか?が産まれた時に冗談で婚姻を交わそうとしただけだというのに…。
それでもサリアが妾の一番の理解者であることには変わり無い。
始祖様とまだ一緒におりたいとごねる妾に『また明日いらっしゃい。サーラちゃんは優しいの。きっとリズナベットがずっと始祖様に会いたかったという気持ちも受け止めてくれるわ。』と耳打ちしてくれたのじゃから。
始祖様は妾の事を『リズ』と呼んでくれた。
今は亡き両親だけが呼んでくれた愛称を。
たまにサリアもそう呼ぶが…あやつはノーカウントじゃ。
妾は町を歩きながら考える。
始祖様である少女は魔力の扱いに長けてはおらぬ…まるで赤子のように無防備で…そして危険。
ならば妾が…守らなければと。
吸血鬼最上位のコールセン家の子息には敵わぬまでも妾は吸血鬼として強いと自負しておる。
「妾が魔力の扱いを教えて差し上げねば…明日は忙しくなりそうじゃ!…その前にまずは宿じゃな…」
そんなことを考えながら、妾はこの姿でも泊まれる宿探しに精を出すことにした。