魔道具
フンフフーン♪
「ご機嫌だね、サーラ」
「うんっ!」
マリアの言葉に頷きながら町を歩く。
なんかユリクさんやジン君にまで微笑ましい視線を向けられてる気がするけど気にしなーい。
それほど上機嫌なのだ。
ワイルドベアの討伐を済ませてギルドへ戻ってきた私たちはエルフの受付嬢にひきつった顔で迎えられた。
そりゃ、角も毛皮もテーブルに積み上げられる程大量に持ち込めばそんな顔にもなるだろう。
「ごめんね?」と心の中で謝りつつ報酬として金貨50枚を受け取った。
金貨50枚だよ?日本円なら50万円!!
しかも三人は「あまり戦ってないから…」って金貨5枚ずつだけでいいって言うし…私は思わぬ大金を手に入れてホクホクなのである。
「サーラさん、このまま城へ戻るか?」
ユリクさんの問いに「はい!」と答えそうになって、私はハッと大事なことを思い出す。
(そういえば、お城にお世話になってるだけなのが心苦しくて依頼を受けようとしたんだった…)
「サーラさん?」
なにも答えない私を不思議そうに見ている皆にはちゃんと私の気持ちを言っておいた方がいいと思う。
そう決めた私は口を開いた。
「駄目だ!この国の状況を説明しただろう!?城を出て宿をとるなんて…大体、サーラさんが気に揉む必要なんてない。兄だって城への滞在を認めているし、それに俺だって…」
「そうだよ、サーラ。ユリクさんの気持ちもわかってあげなきゃ」
「僕もサーラお姉ちゃんが町で宿をとるのは心配…」
うん。城でお世話になってるだけなのが心苦しいから宿へ移ろうとしたらユリクさんからの猛反発を受けました。
マリアとジン君も援護してるし…え?私が悪いわけ?
なんかよくわかんないけど、ユリクさんが辛そうな顔をしてるし…。
「えーっと…そんなに私が城を出るのって心配?」
「「うん「ああ」」」
あー、そうですか。
私に決定権はないようです。ガクリ。
「それじゃあ、城へ戻ろう。そろそろ食事の時間だからな!」
さっきとはうってかわって笑顔のユリクさんが眩しい…じゃなくて憎いわ。
作戦Aは失敗したけど、まだ諦めたわけじゃない。
策士たるもの、第二の策も用意しておくものなのだよ!はっはっは!
「ユリクさん、マリア、ジン君、先にお城に戻ってて!私は寄るところがあるから。食事の時間までには戻るからね!じゃっ!」
早口でそう捲し立て、私は三人から逃亡した。
呼び止める声が聞こえた気がするけど、そこは無視させていただく。
さあ、作戦B開始!
「はぁはぁ…追いかけては来てないみたい…良かった…」
少し走ったところの路地裏で後ろを振り返る。
どうやら三人とも追いかけては来ていないようだ。
まぁ、今の私の歩幅で全力疾走したところで、ユリクさんとマリアには速攻追いつかれるだろうけどね。
ジン君には…追いつかれない…よね?
なんか考えると悲しいからやめておこう。
そして私は作戦Bを実行するために目の前の店の扉を開けた。
「ごめんくださーい」
「おや?珍しい。お客さんかい。うちは良いものが揃ってるよ。ゆっくり見てっておくれ」
店の奥から出てきたのはエルフ?のお婆さん。
耳が短いような気がするけど、ハイエルフなんだろうか?
(でもハイエルフは王族にしか居ないって言ってたしなぁ…まぁいっか!)
そんな疑問はすぐに頭から抜け出ていってしまった。
だって店の中には沢山の魔石や魔道具があるんだもん。目を奪われない方がおかしいと思う。
なんか怪しげなものもあるけど…。
(うーん、こんなにあると迷っちゃうな…)
「何を探してるんだい?」
(ひょっ?びっくりした!いつの間に背後に…ってか、全然気配感じなかったんだけど!)
「あの、お世話になってる人にプレゼントをしたくて…ただ、何をあげていいのかわからなくて…」
驚いたけど聞かれたことには答えますよ?
お城でご飯…じゃなくて皆が待ってるからね。
私の言葉を聞いたお婆さんは楽しそうに目を細めながらアドバイスをしてくれた。
「そうかい。目を閉じてその人の事を思い浮かべてごらん。そうすれば見えてくるはずだよ。その人に必要なものが…それに…見たところお嬢さんは魔力が強いようだしの。選んだ魔道具に魔力を込めれば御守りになるだろう」
「はぁ…」
なんとも要領の得ない不思議なアドバイスだ。
まさかそんなエスパーみたいなこと出来るはず…って思ってたんだけど…出来た!
凄い!私ってばエスパーの仲間入り?!
「それじゃあ、これとこれ、あとそこの棚の上のを2つ、そことあそこの壁にかかってるのを一つずつ、あ、それも下さい。」
私のエスパー能力?で決めた魔道具は、ユリクさんがネックレス、王様とサリアさんとジン君はブレスレット、マリアは指輪、猫耳侍女二人は髪留めだった。
私の背では高いところにある魔道具に手が届かなくて、店員さん?のエルフのお兄さんに取って貰った。
いつからいたんだろう…じゃなくて、お手数かけてすみません。
「これに一つずつ魔力を込めてごらん」
お婆さんに言われるがままに魔力を込める。
「ほう。これは…お嬢さん、代金は要らないよ。持ってお行きなさい。」
「え?でもそれじゃプレゼントにならないし…お金払わせてください!」
「ふーむ、そうかね?じゃあ、全部で金貨二枚でどうかな。」
なんでそんなことを言い出したかわからないお婆さんの言葉に戸惑った。
「ただより怖いものはない」ってお母さんがよく言ってたし。
何よりただではプレゼントにならない。
金貨二枚でも安すぎる気がするけど、お婆さんの瞳にはそれ以上は受け取らないよ!という確固たる意思を感じる。
(なんかよくわかんないけど…儲かった?)
私はお婆さんにお礼を言って、首を傾げながらその店を後にした。
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Side ???
静けさの戻った店内で私は先程まで居た少女の姿を思い出しながら尋ねる。
「おばばさま、あの少女は一体…」
この方はおばばさま、一万年以上も生き、王族のトップでありながら俗世には関心を持たず、このような場所で魔道具屋を営んでおられる生き字引のようなお人だ。
勿論、この店には強固な結界が掛かっている。
おばばさま自ら掛けた結界なので、客が訪れることはない。
普通の人間には見つけることさえ出来ないこの店に結界を突破し、容易く入ってきた少女に関心を持つなという方が無理だろう。
「あの方は今代の吸血鬼始祖様であろう」
なんでもないことのようにおばばさまの口から発せられた言葉に私は衝撃を受けた。
「…あの少女が…吸血鬼始祖様…」
呆然とする私を面白そうに見るおばばさまの瞳から偽りの色は見られない。
ならば本当に…
「タジール、お主も見たであろう?あの魔力を…輝きを…モモカ様によく似ておられる」
懐かしそうに…そしてどこか寂しそうに目を細めるおばばさまは何を思い出しておられるのだろうか?
私などでは到底理解できないことであろうが、それを知りたい衝動にかられた。
「…おばばさまは先代の始祖様と共に戦った仲間でございましたね」
「ふっ、仲間とはおこがましい。私など始祖様に比べればなにも出来なかった身。今、生きていることさえ不思議なほどにな…」
「…おばばさま程の力をもってしてもですか?」
「タジール、お主は私の力を高く見すぎておる。始祖様には私が百人束になっても勝てぬよ。勿論そんな邪な気など欠片ほどもないがな」
「それは…」
「信じられぬか?ん?」
信じられるはずなどない。
あの少女がこの国、いやこの世界で最も強い力を持つおばばさまを凌ぐなど。
「ハッハッハ!お主もまだまだじゃのう。姿かたちに惑わされ力量をはかれぬとは!それよりもじゃ!先程、始祖様が魔力を込めた魔道具を見たか?」
「…?見ましたが…」
「はぁ…だからお主はまだまだじゃと言ったのじゃ。始祖様は無意識にすべての魔道具に強化と結界の魔法を掛けていきおった!素晴らしいと思わんか!?」
「っっ!!それは真でございますか!?」
強化…それは魔道具を着けた者の力を最大限まで発揮させる魔法。
結界…それは魔道具を着けた者に降りかかる災厄を弾き守る魔法。
それを5分も掛からずすべての魔道具に付加させるなど…おばばさまですら出来るものではない。
「本当じゃよ。私の力など軽く凌駕しておるわ!愉快じゃ!こんなに愉快なことがあるとは…長生きはするものじゃの!」
「ですが!おばばさま!吸血鬼の始祖様が現れたということは…」
「そうじゃ。一万年前と同じことが起きるであろう。やれやれ、私も重い腰を上げる時が来たようじゃ…」
そう言うおばばさまの表情は言葉とは裏腹に強い決意に満ちていた。
「モモカ様…ようやっとお会いできる…」
そう呟きながら一粒の涙を流したおばばさまを見て気付いた。
ああ、おばばさま、私はなぜ貴女がこのような場所で誰も入ることの出来ない魔道具屋を営んでおられるのか常々疑問に思っておりました。
でも今ならばわかる気がします。
待っておられたのですね。秘術を使い、自分の寿命を延ばしてまで…。
先代の始祖様に恩を返せる機会を…。
そして見付けたのですね。その方法を。
おばばさま、孤児だった私は貴女に拾われ育てていただきました。感謝しているのです。
そして貴女を母だと思っています。
ですから…私は…最後までおばばさま…いえ、母さん、貴女と共に…




