歯車
Side ユリク
「ユリク様!どうかお助けください!」
城の詰所にて、部下が回収してきた三名のエルフを尋問していたら、ついには助けを求めてきた。
「お前たちは仕出かした事の大きさをわかっているのか?」
威圧感をにじませ、そう尋ねれば、男たちは訳がわからないといった顔をする。
ああ、こいつらは駄目だ…そう思った。
自分達の行動の先にあるものが何かわかっていないのだから。
先程話を聞かせてくれたジンという銀狼族の言葉を信じるならば、俺の目の前に座っているエルフの男達が全面的に悪い。
部下があの場に集まっていた住民たちに聞いた話も同じようなものだったからそれが真実なのだろう。
中には憎しみを露にする住民もいたというし…こんなことが続けば内乱が起こってしまう。
本当になんて事をしてくれたんだ…。
「ユリク様、お言葉ですが、我々は正しい事をしたのです!道端に転がる石ころを邪魔だから蹴っただけのこと。一体何をそんなに…」
「黙れ!石ころだと!?人種が違う子供がか?」
威圧感を霧散させて呆れたように溜め息をつけば、驚くような言葉が飛び出してきた。
思わず声を張り上げれば、開き直ったかのように他の者たちも加勢に入る。
「そうです!エルフがおさめるこの国で他の種族など下等なものでしょう!」
「我々は獣と煩い化け物を黙らせようとしただけのこと。何が間違っているというのですか!」
獣とは獣人族の少年の事だろう。
ならば化け物とは…その言葉の意味を理解した俺は叫んでいた。
「黙れ!エルフの面汚しが!おい!牢に入れておけ!」
部下に引きずられるように連れていかれるエルフの男たちを一度も見ないまま、俺は机に突っ伏した。
何やら喚いている声が聞こえてくるがそんな事はどうでもいい。
怒りがおさまらない。
俺の愛する人と同じ種族を『化け物』だといったあいつらに対しての怒りが。
誰か…この怒りを鎮めてくれ…でないと俺は…何をしてしまうか…わからない…
Side Out
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流れ込んでくる始祖の記憶。
逃げ惑う吸血鬼を執拗に、そして狡猾な罠にはめ処刑と称した殺害が行われる様。
莫大な力を持つ吸血鬼は危険だ!と叫ぶ人族。
それを映画のワンシーンのように遠くから見ることしか出来ない『私』。
この感情は憎しみ?
違う、哀しみだ。
恐怖の対象として見られ続けた同族の哀しみ…。
「ここは?」
「サーラちゃん!目が覚めたのね!」
目覚めた私に飛び付いてきたサリアさんの肩越しに見えるのは知っている部屋だった。
少しの間、滞在していたサイラン国王城の客室。
(そういえば私、魔力を放出して…っっ!!)
「サリアさん!ユリクさんは!?私、謝らなきゃ!」
「…ユリクさんは詰所にいるわ。でもサーラちゃん、あなたが謝ることなんて…」
「詰所ですね!わかりました!」
「ちょっと!サーラちゃん?!」
サリアさんの制止も聞かず、私は部屋を飛び出した。
サリアさんは謝らなくてもいいって言ってたけど、悪いことしたら謝らなきゃいけないのは幼稚園児でも知ってる常識だもんね。
いくら始祖の記憶に引っ張られたとしても、魔力を放出したのは事実だし。
それに現実に引き戻してくれたのはユリクさんだもん。お礼も言わなきゃ!
「ああ!もう!もどかしいなぁ!廊下長すぎだよ!」
急いで走ってるつもりでも、この小さな体の歩幅は、たかが知れている。
それをもどかしく感じながら私は必死に脚を動かした。
「ユリクさん!」
詰所の扉を開いた私が感じたのは鋭い魔力の波動だった。
(鈍い私でも感じられる程の魔力の波動って…ユリクさん、やっぱり怒ってるよね…)
「サーラさん?目が覚めたのか!」
机に突っ伏していたユリクさんがよろよろと顔を上げて私を見る。
なんか、疲れてる?ってか、魔力が消えた?
え?何で?怒ってたんじゃないの?
軽いパニック状態の私にユリクさんが近付いてくる。
そして…
「ゆ、ユリクさん!あの!?」
「済まない。少しだけこのままで…」
なんかよくわかんないけど抱き締められました。
っていっても、身長差があるからユリクさんは屈んでるけど。
「あ、あの!ユリクさん、私、謝らなきゃって思って…それでその…」
「いいんだ。悪いのはあのエルフ達だろう?サーラさんが謝る事なんて」
おおぅ、その美声で耳許で言われると思わず頷きそうになってしまいますよ!
いや、ダメだ。この美声に惑わされては…
「で、でも…私は町の人に迷惑をかけてしまいました。だから…」
「サーラさん、君は優しいね。だから俺は…」
ひぃー!顔が近いです!ユリクさん!
しかもそんな蕩けるような笑顔を向けないでください。心臓に悪いです!
こちとら、彼氏いない歴=年齢なんですよ!
心臓止まったらどうしてくれるんですか!?
「あ、あの、とにかくすみませんでした!あと、私を止めてくれてありがとうございました!じゃっ!」
逃げるが勝ち!といわんばかりの勢いでするりとユリクさんの腕を抜けて、私は逃げ出した。
あのままじゃ絶対心臓止まったもん!
今でもまだバクバクいってるし!
そんな私は走ることに必死で気付かなかった。
胸の高鳴りとユリクさんが呟いた言葉に。
「闇に堕ちそうになっていた俺を救ってくれてありがとう」
そしてその瞬間、世界の歯車はまわりだした。
破滅へと、そして救済へと。
それに気付くのはまだ少し先のお話…。




